2024年12月23日月曜日

12月書評の9

◼️ アガサ・クリスティー「春にして君を離れ」

抉られて、周りを探して、自分に問いかけ、物語の評価へと戻る。そんな小説。ミステリではありません。

特に最近アガサの中でも名作だとそちこちで目にすることが多くそのうちに友人が持ってきてくれた本。本は巡り会いですね。さてさて・・

ジョーンは赤ちゃんを産んだばかりの末娘バーバラが急病と聞き、イギリスからバーバラの暮らすイラク・バグダッドへ出向いた帰り、トルコのテル・アブ・ハミド駅で列車に乗り遅れ、砂漠の真ん中のレストハウスで過ごすことになる。周囲には何もない、話し相手もいない、本も読み尽くし、ジョーンは自分の人生を振り返る。上の娘、冷静なエイヴラルの不倫駆け落ち、弁護士の夫ロドニーの農場主になる夢に強硬に反対したこと、そして幾人かの友人の出来事・・そしてジョーンはいつしか自分の本当の姿を追いかけるー。

おもしろい構成だと思う。足止めを食い砂漠から脱出できないなんてまるでクローズドサークルで、ミステリなら連続殺人が起きそうだ^_^

学生時代の校長先生の説諭、逮捕され収監された友人とその妻、学生時代の友人の意味深な言葉、子供たちの反抗的な態度と投げかけられた非難・・何もやることがないジョーンは考え込んでいく。入れ替わり立ち替わり現れる過去の幻影。そして繋がっていく。壁の穴からのぞくトカゲ・・

オチもいいなと思う。裕福に、上品に家庭を忙しく切り盛りしていた幸せなジョーンが実は?という提示にちょっと読み手の不安な心が抉られる。ジョーンのような人はいる、いた、と周囲を探す。自分もそんな見方をされてるのか、孤独か?愛はあるのか、と問いかける。

そして解説を読むと・・誰がの何が不幸で幸せなのか、登場人物は優しいのか冷たいのか、など評価したりする。どこの家庭にも波はある、のだろう。学生時代の友人たち、老いらくの恋、とどこかリアルに、人間の本質と繰り返しに迫ろうとしている。

まさに物語りだなと。ひとかどの。メグレ警視シリーズを書いたジョルジュ・シムノンも刑事もの以外の小説を多くものしている。メグレでも心理描写に長けた作家さんでもあるよつだ。このアガサの作品も興味深いですね。

イギリスの裕福な家庭とはいえ、落ち着いた物腰、冷めた眼差しを持つリアリスト、エイヴラルなど、ちょっとセリフが「てよだわ」言葉に過ぎるのはもうひとつなじめなかったかな。

アガサは夫との出逢いもあり中東やアフリカへの旅が得意だ。「オリエント急行の殺人」など名作を思い浮かべる。第2次大戦前夜、いまだ帝国主義の時代という舞台設定も興味をそそる。独特の味を再体験しました。

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