◼️ 「手塚治虫マンガ文学館」
文学青年・手塚の、名作の噛み砕き方。
手塚治虫は好きでよく読んでいる。文学史の名作や伝説をマンガ化した作品を集めた本。いろんな切り口があるもので、他にもいろいろ特集本が出ている。今作は殊に興味深い。
ハーバート・ジョージ・ウエルズ「月世界旅行」、B.C.5〜B.C.3間に創作されたとされるインドの「ラーマーヤナ」の一部、ゲーテ「ウィルヘルム・マイステル」、フランスの詩人で怪奇作も書いたギョーム・アポリネール「オノレ・シュブラック」、「鶴の恩返し」、宮沢賢治「やまなし」と和もの、そしてドストエフスキー「罪と罰」を下地としたそれぞれの手塚流マンガが収録されている。
児童向け、という色合いとは別に、ああマンガだなあ、と好ましい感慨を抱く。一部は必ずコミカルに、過剰な表現あり、ハミダシあり。演劇、ことにシェイクスピアを思い出したりする。ストーリー、会話でシリアスな話を崩せなくても絵で微笑させる。
いつか手塚治虫記念館でバイプレーヤー展というのを見た。ハムエッグ、スカンクなど手塚作品に繰り返し現れる脇役たちを整理して紹介し特徴的なシーンを並べてある。何度も同じ人物を使うことはスター・システムというらしい。
今回もどこかで見た、知っている脇役キャラが活躍する。やはり思うのは、手塚治虫は悪役に悪意をにじませるのが上手いということ。対して主役は同じテイストを用いてはいるが毎回違うイメージ。ここもおもしろい。より正しく清廉に。悪意との対比が実に鮮やかだ。またとぼけたような中間的なキャラにも気を配しているのがよく分かる。
手塚は医師免許を持ち文学青年でもあった。文章の本もかなり達者でまさにインテリだと思う。既存の伝説、故事、文学作品に題材を取る小説・マンガは現在でも数多い。しかし手塚のようにオリジナルのテイストで、時に思い切ってデフォルメして描く手法は一種確立された独自性で、雑多の中で輝く一条の光、とも言えると思う。
今回も買ってよかった。また探しに行こう。
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