これにて2024読書納め。ちと読みにくかったかな。
◼️ ルシア・ベルリン「掃除婦のための手引き書」
よく売れたイメージのある本。中盤あたりからフィットしてきた。アメリカ、チリ、メキシコ国境の街。舞台も立場も変わる。
表紙の小粋さが印象的。書評もよく見かけた。ルシア・ベルリンという名前も覚えやすい。タイトルにはなにやら小悪魔的な色も感じる。さてさて。
カバーの袖にある著者紹介か解説に、先に目を通した方がいいかもしれない。舞台がスペイン語圏だったり、いかにも貧しそうだったり、逆に裕福そうだったり、また主人公が少女、シングルマザー、やや年配、インテリ層とくるくる変わる。
ルシア・ベルリンは幼少時鉱山技師の父と鉱山町を渡り歩き、アメリカとメキシコ国境近く、エルパソにある母の実家で、酒浸りの母、祖父、叔父と暮らしたり、チリのサンチャゴでお嬢様のような生活をしたりする。大学生の時から3回の結婚離婚、ニューヨークやメキシコを転々とし、シングルマザーとして掃除婦や看護助手などをしながら4人の子を育てる。自らもアルコール依存症となり、それを克服して郡刑務所で創作を教え、やがて大学の客員教授となる。
自らの実体験を種として刹那的な感性と斬り込むような表現でミニストーリーを重ねる。この短編集の前半はちとついていけなかった。アメリカの、どう見ても豊かとは言えない暮らしの、つながりのないバラな話の数珠つなぎ?と。またラリってしまう歯科医のおじいちゃん、その血だらけやめて〜というのがあったりして乗り切れなかった。モノローグあり3人称あり、連作か?いや違うのか、などと考える。
なんとなく、チリで出会った純粋まっすぐな先生と社会奉仕をしにいく少女の「いいと悪い」くらいから読めるな、と進み始め従姉に誘惑を教えてもらう「セックス・アピール」のコミカルさ、息子の友達の中で毛嫌いされている少年と早朝にツルを見に行く「ティーンエイジ・パンク」の空気の愛しさ、を味わう。
ガンに侵された妹と母を想う「ママ」ラストがなんともいえずリアルだ。このへんまで来るとなんとなく全体像がつかめてくる気がする。
すさみ、切ない心持ちの姪を叱る叔父。やがてアル中となり姪を乗せたトラックをぶっ飛ばす「沈黙」破滅と再生。郡刑務所の文章教室「さあ土曜日だ」はクライマックスに相応しい、感動と悲劇の物語。
決してきれいな話ばかりではない。汚さ、酒、クスリ、セックス、恋愛での衝動的な行動に子供たちに強いる新生活、人間の逞しさ、タフさ、というと美しすぎる気がする。あえて言えば到達点に向かう凸凹だらけのロング・ディスタンス、閃くたくさんの色の人間くささ、とでもいうか。
読後感は良いとは言ってしまえない・・だろう。ちょっと時間がかかったし、読みながらの印象の変化には少し引き込まれたかな。
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