2024年12月7日土曜日

12月書評の1

◼️ヴァージニア・ウルフ「灯台へ」

別荘地の大家族と滞在客。10年越しの1日ー。深層での流れ、表層の穏やかさ。

文芸好きをしてると必ず出会うヴァージニア・ウルフ。難解との評もあり、ここまで読まなかったけども、新装版を機会に手にしてみた。

あした、舟に乗って、灯台まで行きたいー。6歳のジェイムズの言葉に母のラムジー夫人は「ええ、いいですとも、あした、晴れるようならね」と答える。そこへ父のラムジー氏が戻ってきて、「そうは言っても」「まず晴れそうにないがね」ジェイムズは暴君の父の胸にぐさりと穴をあけて殺したくなる。

スコットランド・スカイ島にある別荘。哲学教授のラムジー氏と8人の子供たち、美貌で明るく世話好きのラムジー夫人、ラムジー氏を尊敬する小男のタンズリー、孤高の絵描きリリー・ブリスコウら客人たちのにぎやかな夏の1日と複雑な想い。そして時は移るー。

夏の1日、そして、時間をワープしてのまた1日。著者のこの代表作はなかなか興味深い構成の物語だ。

第一部は多くの登場人物の心のうち、考えていることが綴られる。入れ替わり立ち替わりという感じで主語が頻繁に入れ替わり、戻ってここ誰のターンか確かめないと分からなくなってしまう。子供たちが海の岩場で遊ぶさま、部屋の中の会話、やはり印象的なのは座の雰囲気や切り盛り、男女の組合せに気を砕くラムジー夫人の考え方、行動言動と思うこと。そしてそれをじっと観察してウォッチングしているリリー・ブリスコウの心中かなと思う。文中の言葉を借りれば

「物事というのは、かくも複雑なのだった。ことにラムジー家に滞在中、リリーは相反する熾烈な気持ちをいちどきに感じるという体験をさせられていた」

認めたり、けなしたり、忌避したり・・コンプレックス、単純ではない心の声が延々と続く。

半分近くかけて第一部が終わる。第2部、突然の展開に少々驚く。えっ・・と。

そして第三部では、10年後の父と息子、娘が灯台へ向かうー。

第二部が短くショッキング、第三部は章立ての妙もあり、どこか気持ちがザワザワして、何かが起こるのではないか、という期待と不安が湧く。

考えていることは他人を厳しく決めつけたり、どこか企ての匂いがしたりするが、小説の一日はどこまでも穏やかだ。そして絵に迷うリリーにブレイクスルーがー。

んー読みやすいというわけでもなく、入り込めもしなかった。成り行きと構成と、何か潜んでいるかのような底に流れる、静かで心を揺らす何か、には惹かれる気もしたが・・海外の純文学っぽいということかな。

第二部「時はゆく」をマルタ・アルゲリッチが弾くラヴェルのピアノコンチェルト第2楽章を聴きながら読み込んだ。騒がしく飛んだり跳ねたりするような1、3楽章に挟まれたこの緩徐楽章はアダージョアッサイ、非常に緩やかに、染み入るような旋律で人生の悲哀と悦びを滲ませる。

週末のコンサートでこの曲をライブで聴く時には、灯台へ向かうことを想像したりするかな、なんて思ったりした。

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