◼️ 星野道夫「アフリカ旅日記 ゴンベの森へ」
タンザニア・タンガニーカ湖沿岸の森で過ごす特別な1週間。アラスカを改めて意識する。
この本の冒頭の章「アフリカだ!アフリカだ!」だけ、雑誌?で読んだ覚えがあった。亡くなった当時出ていた写真エッセイ、アラスカものは全部読んだものの、この本はなぜか長く未読。最近書評を見かけて読まねば、と。
チンパンジーの研究・保護活動を30年以上続けている世界的権威、ジェーン・グドールとともに、彼女が開発から救った、タンザニアはタンガニーカ湖沿岸にあるゴンベ国立公園で過ごした1週間の記録エッセイ。
アラスカについての著書でもよくこういう形はあった。鯨の声の研究家、熊の専門家などの友人と共にフィールドワークに出かける著者の筆は、活き活きとしてかつ、思索深い。
ゴンベでジェーンが触れ合ってきたチンパンジーたちの中に暴れん坊がいて、パーティーも洗礼を受ける。突然の襲撃。立つと大人ほどもあるオスの"フロド"から人間の5〜8倍といわれる力で突き飛ばされ、著者はジェーンとともに斜面を転げ落ちる。じゃれ合いの一部ではあるようだが加減ができないようだ。
ジェーンはゴンベで長い間一緒にいたフロドの母親"フィフィ"の姿が見えないため心配する。
湖と風景と人の暮らし、神秘的な滝、チンパンジーとやバブーン(いわゆるヒヒ)の触れ合い。サソリやコブラとも遭遇する。そんな中で、やはりジェーンについての記述が中心だ。アフリカのチンパンジーの森の保護に関わることになり何十年。夫を亡くした時はゴンベに長いこと引きこもった。いまは、というか当時は財団を維持するため、寄付を募るべく世界中で複数の講演をこなすなど多忙で、ゴンベに立ち寄るのは年間でも限られた時間。
フィフィの消息は、ついに無線が入るー。
そして著者は、アフリカで過ごすことで、自分の道、アラスカでの日々を振り返り見つめ直す。ジェーンに写真のテーマを問われ、答える。
「アラスカ北極圏の原野を、二十一世紀を迎えようとする今、太古の昔の何も変わることなくカリブーの大群が旅をしています。(中略)タイムトンネルを抜けて何千年も前の世界に迷い込んでしまったような気がしたものです」
そうか、それが、星野道夫の1つの想いだった。カリブーの大群が突然現れそれに呑まれる、そしていつの間にか1匹もいなくなっている。そこに著者がいてもいなくても、ずっと続いてきた自然の営み。何かを感じる、憧れる人間もいる。
ジェーンの瞳の色は深く、良い表情をしている。平易な表現ながら力のある星野氏の文章に触れていると、想いの森に迷い込む気がする。これが私の得たもので、美しい気分だ、なんてね。
0 件のコメント:
コメントを投稿