2024年11月28日木曜日

11月書評の5

◼️ ハン・ガン「すべての、白いものたちの」

白、がモチーフの連作、詩に近い。切れ切れの文章に透き通った、冷たい風に触れるようだ。

先のノーベル文学賞となったハン・ガン。当然興味があり、書店で目にした文庫を手に取った。あまり予備知識もない状態で読む。

母が独りで産み落とし、2時間くらいで逝ってしまった姉にあたる赤ん坊。その存在を強く感じた著者は白、白の色彩の中、亡き姉の意識を宿して未来に目にしたかもしれない光景に感じる。

1ページほどの分量で散文のような文章がいくつも連なっている。間にいくつかイメージ的な写真が挟んである。

最初に白でイメージされる単語を並べている。そこから次々と繰り出される白の事象や物でさらにさらに物語は白くなる。すると織り込まれる黒や赤の色彩がより鮮やかに、生々しく感じられる。

夜明けの霧、光、犬、母乳、ろうそくとその雫や芯、鳥、霜、雪、みぞれ、破壊され尽くしたワルシャワの街。

白く笑う、は韓国の言い方で途方に暮れたように、寂しげに、こわれやすい清らかさをたたえて笑む顔、のことで使い方によりニュアンスが異なるらしい。

海岸で拾った白い石は沈黙をぎゅっと固めて凝縮させたような手ざわり、叔母に連れられて行った喫茶店で初めて見た角砂糖・・なんか琴線をあえかに弾かれる感じがする。

白ではないが、一日が終わって、沈黙のぬくもりが必要、というくだりには深く共感した。

さて、白を追い求めてみる、自意識を構成しているもの、連作詩集のようなスタイル。これを実験的というなら成功しているのではと抵抗なく思える。強く感動するわけではないし、解説を読まないと分からない背景と構成の妙がある。

おおむね、というか特に身近にあるものを難しくない言葉で淡々と述べている。そこから鋭い感性が気体となって吹き寄せる感がある。白を底に置く発想はまさに白眉で、そこに生、生きるものの生、なまを醸し出す。

純文学と言われるものにはヘンテコリンなものもあって、ひねっているのもそれなりに味があるものだけれども、このまっすぐな実験は静かに、読み手の心を動かす気がする。

興味深かった。ただこれだけでは分からないな。「菜食主義者」や「少年が来る」も読んでみたいな。

0 件のコメント:

コメントを投稿