2024年11月3日日曜日

10月書評の8

◼️片岡龍峰「日本に現れたオーロラの謎」

鎌倉時代、京都で赤気(オーロラ)が見えたと藤原定家は「明月記」に書いた。日本の文芸に残る記録を専門家が解き明かす。

今年2024年は太陽活動が活発で、今月も低緯度オーロラが観測されました。5月には兵庫県の日本海側でも観られたとかで話題になりましたね。今作はオーロラの専門家である著者が文理融合の研究として、日本の文献に残るオーロラとおぼしき記録、文言や絵図に残った謎を解き明かしていく作品です。

いや、天文現象が好き、古典、和歌好き、本当に楽しめた本でした。何百年も前の人が記録している現象を読んで想像するのは、悠久の肌触りがする。ホント面白かった。カチッとピースがはまる感じがありました。

地球は自らの磁場に守られており、太陽風はこの地磁気にぶつかって大気まで届かない。ただ地球の地磁気が太陽風によって歪むことで大きな電気が発生する。この電気は北極や南極の一部に電流を流して解消される、これがオーロラが発光する仕組み。

鎌倉時代の歌人、新古今和歌集の撰者である藤原定家の「明月記」には1204年2月21日と23日、北から東北の方向に赤気と白気が見え、赤光と白光が入り混じっていたという記述がある。同じ京都の仁和寺の文書も同日同様の現象を記録している。中国の古代天象記録には21日の太陽黒点が異常に大きいという記載があった。

また地磁気の北極は自転軸からずれており、当時は日本の方に向いていたため、オーロラが見えやすい時期だったとのこと。ちなみにいまはアメリカ方面向きだそうだ。

定家の生きた時代に起きたことではないが、明月記といえばかに座の超新星爆発についての記載が有名。生きてるうちに体験できるかどうか分からない現象を、誰もが知る歌人が書き残していることに悠久の時間を感じる。そしてすぐ隣に行けそうな想像が沸き立つ。それにしてもその多才、優秀さにも舌を巻く。明月記の天文現象についての記述は世界的にも注目されているとか。

時代は下って江戸時代、1770年9月17日、また日本でオーロラが見えた。このオーロラについては本居宣長も言及している。古典籍「星解」には絵図が残っている。赤い扇形で、本物の扇のように骨部分が白くなっている。著者は学者として扇形のオーロラは聞いたことがない。なぜ扇形なのか、色の謎は何なのか・・著者はまた、古い文献を当たりながらその原因を探っていく。

日本書紀にも「赤気」への言及はあり、形は雉の尾のようだった、と書いてあり、終章で記述の謎へチャレンジする。

日本古代へのロマンを感じながら知見を得る。なかなか新鮮な体験。文理融合の研究としての価値、新たな研究の姿への模索でもあるようだ。著者は文系の研究に触れ、いかに視野が広がったかを力説している。いいですね、こんな広がり、深まり。

明月記には、客星、ここでは彗星についての記述もある。先日話題の紫金山・アトラス彗星をスマホで撮影できて嬉しかった。天文現象はいつもワクワクさせてくれる。

「あの本、読みました?」という鈴木保奈美MCの番組で、「月まで三キロ」等理系小説で人気、私も推しの伊与原新がオススメ本として紹介していたから早速読んだ。良い読書でした。

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