2025年12月15日月曜日

12月書評の5

◼️ アーネスト・テオドール・アマデウス・ホフマン
「ブランビラ王女」

さまざまな物語が描かれ、登場人物が成り代わっていくー。ホラー要素のある物語の作家ホフマンの想像性あふれるファンタジー喜劇。

「くるみ割り人形」「砂男」のホフマンは19世紀初頭、46歳で亡くなるまでの最期の数年間に集中して作品を著している。仕掛け人形に想像上の怪物と、不気味で西洋的ホラーなイメージはホフマンに拠っているところも多いのではと思われる。

ローマのお針子ジアチンタは請け負っているカーニヴァル用の豪華な衣裳を、吸い込まれるように身につけてみる、と、王女さまのように美しく気品のある姿となるー。そこへ悲劇役者ジーリオが訪ねてくる。自信家で口がよく回り葉が浮くような言葉を連ねる、にしては子供っぽくドジなところもあるジーリオにあれこれ言うジアチンタも好意は持っているようだー。

この後、主にジーリオの体験を軸にして、幾多のファンタジーを交えながら物語が展開されていく。ジアチンタも絶妙な存在感で、現れたり消えたりする。特徴はキャストの二重性、とでも言おうか、ジーリオがその影を追いかけるエチオピア出身のブランビラ王女、その婚約相手のアッシリアの王子、さらには過去の王国の王と妃の物語も重なる。魔法をかけるようにジーリオを導く街の山師チェリオナティ含め、多数の出演者が何重ものキャラクターや性質を現出させ、出口の見えないような話を進めていく。

物語としての性格は違うが、バス事故で亡くなった人に成り代わっていく、というオルハン・パヌクの作品「新しい人生」を想起した。

つながる部分はともかくとして、著者は伸びやかな発想をふんだんに使って・・かなり遊んでいるのではないかと思う。訳者あとがきにも独特のアイロニーはあるが、深刻な意味はないとあった。

かつての神秘的な王国ウルダルのオフィオッホ王とリリス女王、王の後を継ぐために蓮の花から生まれたミューティリス王女。魔術師ヘルムート。死の宮殿。その想像性で上手に読者を惹きこんでくる。

とは言え、あまりの自由度に読むのに少し時間がかかったのも確か。さほど意味合いは考えずさらさらと読むのに適しているようだ。また、エピソードごとに区切って読み聞かせすれば子供は興味を持ってくれる、かも?

ミドルネームの1つ「アマデウス」は敬愛するモーツァルトから取ってペンネームにしたらしい。モーツァルトが後世の音楽家に影響を及ぼしたように、文芸作品が近代的になり量産される時代を前にして、ホフマンの作品も後の作家たち、読む人のイメージになんらかの記憶を残したのか、なんて考えた。

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