2025年12月13日土曜日

12月書評の4

◼️ 豊島ミホ「夏が僕を抱く」

いかにもなタイトルとカバー写真。豊島ミホの青春もののリアルな面映さファンです。

2000年ひとケタ台に小説家として活躍した豊島ミホ。「女による女のためのR-18文学賞」受賞の「青空チェリー」、映画化もされた「檸檬のころ」ほか「エバーグリーン」「リテイクシックスティーン」など、主にグリーンエイジの青春ものを描きつつ、さらっとセックスのことも混ぜたりする、青くて生な空気感に惹かれてしまう。

今作は「おさななじみ」の男女がテーマですべての作品の軸となっている。

中学生になり、不良っぽくかつカッコよくなって取り巻きも増えた毱男を追い、自分も髪を染めスカートを短くする菊南の「変身少女」、巨乳で男をとっかえひっかえしている矢部っちやメガネ男子が好きなすみれと合コンに行っているいるかが、団地のすぐ上の階にいるらくだの部屋からベッドが軋む音と女の名を呼ぶ声が聞こえてきて焦る「らくだとモノレール」。それぞれに可愛らしく、エロで、環境の描写も現実的。

小学生で姉とキスした研吾とお見合いする妹の園子にはホテルでコスプレをするセフレがいた。姉はセレブ婚をしていて、設定が凝っている「あさなぎ」。浪人中の岬と女子大生の有里。有里は大学の遊びサークルの美形の彼氏と付き合いクリスマスに処女を失う予定。遠慮ないぶっちゃけの会話と微妙な距離、岬のがさつで不器用な行動が描かれるこの「遠回りもまだ途中」は、アダルトさも混在する中で若さ幼さが見え隠れしてお気に入り。

表題作「夏が僕を抱く」は、アダルトの方面だが、大人の虚無感が漂い、少し雰囲気を異にしている。フラフラしていて練習もろくにしないバンドマン、ハネは昔青森の祖父の家で遊んだミーちゃんと渋谷で偶然再会し、身体を重ねる。改めて新しい何かを見つけたというよりは懐旧、刹那的な逃避感も漂う。

農協に勤める十和、優秀で一流大学をやめて故郷へ帰った護はそれぞれ陰の事情を抱えていた。ラストの「ストロベリー・ホープ」は少しエグい波を経て、甘酸っぱい香りの中終わる。

いずれもおさななじみの男女は、ある種理想的な関係で、主人公はもう片方が好きで安心できる存在と思っている。かき混ぜて価値を捨てるのも物語の一様相ではあるし、それぞれの篇にはもちろん変化もつけてある。しかし、おさななじみ2人の存在で、読者は好ましく安心して読めるところがある。

著者が大ファンであるという綿谷りさの解説によれば、色っぽくて生々しく、綿矢りさには伏せ字でしか書けない言葉もさらっと出してしまう。多少婉曲に書いてあるけども、豊島ミホにはオス目線なのか、女性表現者として潜んでいる感じ方の発露なのか、と思われるところがある。先に書いた矢部っちの巨乳の表現なんかもさりげなさそうで、おっさん的笑。

面映さと小憎らしい大胆さ、著者の東北のローカル性豊かなところで育ったベースがにじむのも良い。お気に入りの豊島ミホは小説休業中だという。小さい声だけど、ぜひまた新作を書いてほしい。

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