2025年7月20日日曜日

7月書評の7

◼️ 王谷晶「ババヤガの夜」

バイオレンス満載、グロさもあるが痛快さが勝るエンタメ作品。ダガー賞翻訳部門受賞作。

権威があるとされるダガー賞日本人初受賞ということで話題となった。ドンパチものはあまり読まないのだが、興味があったのと、200ページもなく意外にコンパクトな作品と知って手に取った。

暴力・喧嘩好きの女・新道依子はヤクザをたたきのめしたことで拉致される。連れ込まれた広域暴力団の組長の屋敷では腕を見込まれ、そのまま組長の娘・尚子のボディガード兼運転手をやらされることに。新道ははじめ箱入り娘の尚子に嫌われたが、やがて2人の関係がなじんでくると、徐々に尚子を取り巻く真の現状が見えてくるー。

長さから言ってスピーディな話だろうと思った。読んでみると展開が速く次々と事が起こる、割には新道1人の描写や尚子とのシスターフッドの構築具合がじわっと分かるようになっている。テンポが良い。新道のキャラ付けもシンプルめで分かりやすい。

生まれ持ちまた生い立ちでより培われた暴力への本能を余すところなく発揮する土壌を作っている。行動原理もストレート。ピンチと発露、恐怖。残忍さにはグロや変態風味が付きものとはいえなかなか直接的だ。最近の海外ものミステリにはよくグロが出てくる。そこも大事な要素なのかな。

パッと見分からない"ババヤガ"の意味。新道の語りには不思議な説得力がある。幼少のみぎり「三枚のおふだ」ほかでその緊迫感、怖さに惹きつけられた者も多いだろう。鬼や山姥は、海外の人喰い鬼と同様に、必ずしも残酷な悪役、だけではない面を持っており、偽悪、ダークヒーローというものに人は憧れを抱くものじゃないかなと。

バイオレンス、テンポ、女性の連帯、エンタメながら本能と人外のものに思いを馳せる。コンパクトなストーリー立てに好感。また、暴力、命のやり取りに躊躇なく踏み込んでいく新道が、もとは花屋のアルバイトなどというギャップや、女性主人公の場合は呼称が依子、となりそうなものをほとんど「新道」で通していて、時折出てくる依子、という名前の効果、また別シーンの仕掛けなど、面白みを添える技もエンタメ的多彩。興味深い読書でした。

0 件のコメント:

コメントを投稿