◼️ 髙田充「今日も私は、ひとつの菓子を」
京都de和菓子。京大出のボンが職人を目指すストーリー。京都文学賞読者選考委員賞。
スイーツ好き、詳しくはないが和菓子にも大いに興味あり。なんつったって京の都です。想像力がそそられる。
京大出、父の大病院を継ぐのを蹴って車のディーラーをしている若手社員の宮本。ある日ふと口にした、烏丸の有名和菓子店、洛中甘匠庵のわらび餅。興味を持ち、菓子職人を募集していることを知って申し込む。会社を辞め、行ってみた島原の洛中甘匠庵本店では、年配の大将が後継を探していて、素人の宮本は、応募してきた手だれの菓子職人2人と、名店の跡継ぎの座を争うことになるー。
職人気質、迫力ある大将は勝新太郎を想像しながら読んでいた。いやもうこの時代にあって大将の言動はまあ情け容赦なしでパワハラの塊でもあり、私の世代には少し懐かしくもある。かえって痛快だ。
宮本は、辞めさせようとしているかのような厳しい雑用の日々の中、修行、特訓を続ける。
続々と出てくる創作和菓子、専門用語を目にするのも嬉しく、大いにイマジネーションを刺激された。食べ物の斬新なアイディアを出していく、というのは髙田郁「みおつくし料理帖」を彷彿とさせた。
大将と、おかみさんや店の面々のチームワーク、アトホーム感も素晴らしい。関西弁もので時々笑かすボケが入るのも気持ちいい。
島原界隈はレトロな地区で、私もかねがね行ってみたく思っている。三条四条祇園とは違って賑わいのあまりない商店街でもあるが、人情と、その地に溶け込み和菓子に何らかを取り込む発想も微笑ましく、京都へ潜航し、理解を深めようという気概が読み取れる。
ところどころに風情を感じる表現や言い回しの工夫があるのも目についた。長いとは言えない作品にもこれだけの要素が詰められるのかとしみじみ。
最近京大関連ものは多いし、身体を壊すような前時代的な努力もうーんと思ったり、一部の決め言葉はちょっとありきたりだったり尖り過ぎているような気もするが、それも特色。細かいことを凌駕し感動を生む物語。読後感がとても良い。
やばいな、ふたばの豆大福や松風ばかりではなくて本格和菓子も食べてみたくなってきた。遠くはないし、京都行こう。
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