◼️ 皆川博子「会津恋い鷹」
鷹に惹かれる娘は時代の波に翻弄される。御大の和もの時代作品。
あまり数を読んでいるわけではないのだが皆川博子御大の作品は好んで手にする。西洋が舞台の作品を読んできたこともあり、氏の和もの幕末、という設定に心惹かれた。1986年の作品で、去年末の新刊文庫で読んだ。人気のほどが分かるような。
幕末、会津藩。惣領の娘さよは、自分のおもちゃを作った木地師の弥四郎が見つけた鷹の雛を見て惹かれるものを感じ、やがて鷹匠の一家の周吾の元へ嫁ぐ。幕府へ鷹を献上してきた会津藩も時代の波に押され、男たちは戊辰戦争へ向かい、敗戦の直後、百姓一揆が起きるー。
藩や村の事情、幕末の激動、惨殺、その中の人の歪み、ねじれた欲望の中に、さよの純粋さやあきらめ、人間らしい生の姿がのぞく。さまざまなものを詰め込んだ作品で、幕末、明治初期らしい刹那的な粗さも垣間見える。
鷹を飼い慣らすのは鷹の命を縮めること、餌 飼育や鷹狩りにはふつうに生きものの血と死が伴う。鋭い顔つき、豊かな翼による羽ばたき、そして血煙。鷹が獲物を力でねじ伏せる姿がこの作品の背後にうっすらオーバーラップしている気になる。
鷹と過ごす、仕込むすべを覚え、ようやく1人で鷹狩りができるようになったさよの幸せは長く続かなかった。あの日に帰りたいーその願いが最後に哀しく浮かび上がる。
難しい言葉も多く方言にも意味がとれないものもあって少し読むのに難儀もした。耽美、色気、嫌気、欲望、ほのかな人のつながりと世情など、織り込まれたものをじっくりと感じた。
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