◼️ 辻村深月「この夏の星を見る」
コロナ禍、中高生たちが星でつながる。深い思い入れを持って読んだ。
流星群があれば外で流れる星を数え、彗星が来れば情報を探して星仲間とよく見えそうな場所に行き、月と星、星同士の接近は写真を撮り、ロケット打上げがあればwebの生中継を観る。はい、宇宙好きです。科学館やJAXAの施設にも行きます。
やはり深い思い入れを持って読み込む。中高はバスケに明け暮れたけど天文部もやっておけばよかった。
2020年。最近共学になった茨城の砂浦三高天文部はOGたちが製作した巨大な空気望遠鏡で天体観測をするなど活動が盛ん。しかし学年1人の男子、飯塚凛久(りく)は同じ2年生の溪本(たにもと)亜紗や3年生の山崎部長らとともにコロナ禍のため活動が制限されていた。そんな中、毎年行っている「スターキャッチコンテスト」のことをメールで問い合わせてきた東京・渋谷のひばり森中学校理科部、また長崎・五島の天文台に集う高校生チームらとコンテストをやろうという機運が盛り上がる。日本の各地でそれぞれの事情を抱えた生徒たちがコロナ騒動の中、青春の夏、星で繋がるー。
五島の天文台はかねがね行ってみたいと思っていた。また空気式望遠鏡、ナスミス式望遠鏡などは速攻で調べて憧れた。触れてみたい、見てみたい。ゆかしき素材がたくさんで埋もれてしまう。凛久の境遇や亜紗との距離感、五島に留学している高校生、それぞれの日常、友人関係の悩み、部活のこと、そして必ず影響してくるコロナは傷さえ生む。でもみなが一緒に活動できるのはこの夏だけー。著者の、それぞれ近く、遠隔、全体の関係性作りは細やかで、さすが唸るものがある。活動の大きな中心があり、物語が分散しているせいか悪意も出てこないから安心して読める。
星で繋がる、私も流星群観測の時は離れた仲間とやりとりしながら観る時もあるから楽しさも分かる。
コロナ禍はこれまで経験しなかったストレスをもたらした。2020年の冬、ふたご座流星群で目を見張る星がよく流れた。外で懐に抱いた愛犬と。ここには密もない、席も確保されている、星はよく流れる。寒かったけど、星の観測にコロナは関係ない、としみじみと心がほぐれていくのを感じたものだ。誰に話すこともないそんな感覚を、掬い取ってもらったような気分になっている。
息子も修学旅行が短縮されたり、学校行事がなくなったり、部活ができなかったりした。日本中が不確定さに踊らされた日々だった。作中ではその点、どれかというとサラリと、だけど効果的に触れている。過ぎゆく中学生たち、高校生たちの毎日はどんな意味を持つのか。じわりとにじませる。
天文活動に繊細なドラマを潜ませた青春もの。高校の文化系クラブは充実していたとは言い難いが、小学校時に理科クラブでよく行っていた天体観測会が原体験。夜空、宇宙には引き寄せられるものが詰まっている。
最近特に構成などに目が入って距離を置いて読んでいたけども、こればかりは没入したかな。良い読書でした。
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