2025年5月13日火曜日

5月書評の7

◼️最果タヒ「星か獣になる季節」

初読みの詩人・作家さん。衝撃的な事件と、あわいに漂う、尽きない感情と。

最果タヒ、さいはて、と読むのだそうだ。詩集で注目されて中原中也賞、萩原朔太郎賞を受賞している。作品をもとにした映画もあるんだそうだ。書評がよく上がっていて興味を持っていた。小説もものしており、今作はその第一作。

愛野真実というアイドルがバラバラ殺人容疑で取り調べられている。目立たず友達もいない優等生・山城は真実に歪んだ愛情を抱いていて、真美の実家に出掛けて行き、誰かが仕掛けた盗聴器の音を拾って聴いたりしている。ある日その盗聴器で真実が連行される音を聴いた後、山城はライブで何度も見かけていた同じクラスの人気者、森下と会う。森下は妹だという小さな女の子を連れていた。翌日、女の子は行方不明だとニュースで流れた。学校で、山城は森下に声をかけるー。

ファンとしてのたがが外れた行動。誰からも好かれ、モテる彼と行動をともにしつづける山城はクラスの女子から忌避されている。一方、そんな山城を気にかける才女・渡瀬と、クラスの誰もに、森下の金魚のフン的存在とみなされている青山。

やがて森下の行動に切羽詰まっていく山城、衝撃的な結末とその後のことー。

まず違和感満載のまま、まるで止まれないジェットコースターのように息つく間もなく進んでいく物語に引き込まれる。対比と何気ない言動、シラケと高校時特有の薄っぺらな感情、傷。事件の中の青春群像劇。エピローグ的な2話も含め、異常な中で湧いてくる思い、戸惑い、なんらかの実感とぐるぐる回る思考を文章で表そうとしているのかな、と。2人の時はいいつきあい、でも集団になると関係性が変わる、というのはよくあるが、リアルだ。

怒涛のように言葉を連ねる舞城王太郎に少し似てるかな、どうかなと思わせた。少なくとも筋道だっていて常識通りに人が行動する正攻法の小説ではない。青山と渡瀬、被害者の少女の兄との後編は、みながみな、ぶつけどころのない傷の深い想いを発している。

ふうむ。小説的にほどよい未解決感が残る。極端な前提でありつつ、直接的な打撃のある場面はないことが効果を増幅している。

集中できるストーリー立て、何かモヤモヤとした、解決できないもの、を際立たせる作品だった。

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