2023年5月31日水曜日

5月書評の17

5月は17作品。絵本も入ってるのでまあ合わせ技で16ってとこかな。ここまで67作品、たぶん80前後かと思う。まずまずだ。来月末にははや半期のランキング。ここまで順調に興味深い読書が出来ている。

沖縄付近にある台風2号の影響で梅雨前線がヤバくなっていて、明日の夜からあさっての夜までずっと雨、断続的に相当の強雨が降るようだ。もう、最近の梅雨、雨の降り方おかしいよ。毎年毎年線状降水帯。やめてほしい、ホンマに、、

◼️ 乙一「失はれる物語」

思い切った設定と展開、ホラーファンタジー的要素。小説のおもしろさ、を見たような。

この本を読もうと思ったのは、Twitterの「♯名刺代わりの小説10選」で挙げている人が何人もいたから。短編と中編で構成された2006年の出版本で、古いのに複数の人が評価するのは何かあるかも、と気になった。

乙一は佳作「暗いところで待ち合わせ」の後は中田永一名義のものしか読んでなかった。暗い設定の中に可愛げのあるコミカルさがほの見えるイメージ。さてさて。

「Calling You」
「失はれる物語」
「傷」
「手を握る泥棒の物語」
「しあわせは子猫のかたち」
「ボクの賢いパンツくん」
「マリアの指」
「ウソカノ」

が収録されている。

「Calling You」は携帯電話を持っていない孤独な女子高校生リョウが心の中のケータイらしきもので実在の他人と話をするストーリー。リョウは仲良くなったシンヤと会おうとする、しかし・・。

韓国映画「イルマーレ」を思い出す。湖のほとりにある家で、時間軸のずれている男女が通信をして親しくなり、会う算段をするが・・結末までよく似ている。愛情、のようなもの、の儚さを描いている。

「失はれる物語」はとてもひどいシチュエーションの話だ。乙一お得意の、かも知れないがさらに意思の疎通の手段は限られている。闇と無音、ブラックジャックに同様の方法があった気がする。うーむ、暗い。

「手を握る」「幸せは子猫」は一転微笑ましさを感じる設定。殺人、ミステリの要素もあるが、その構成の妙には、これが小説のおもしろさなのかも、と考えてしまった。特に「手を握る」は舞台劇のよう。

「マリアの指」は最も長く、さまざまな伏線を巡らせた推理小説だと思う。他の話が、短編らしく独特のエスプリを効かせたものだったからかちょっと冗長にも感じたかな、でもまさにポイントとなる指の取り扱いが、これまた小説らしく矛盾に満ちた設定で、少し怖くて、読み込んでしまう。

乙一は、酷さを絡めた暗さを前提とするきらいがある。その中にほのかな光のようなものを浮かび上がらせる時もあれば、暗く終わらせることもある。そのあんばいがまた独特かなと。

乙一らしい、読み応えのある一冊でした。

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