2023年5月28日日曜日

5月書評の13

旧乾邸④です。壁やタイル、調度品の細かい装飾に簡単。車寄せは馬車なのかな。

◼️ フランソワーズ・サガン「ブラームスはお好き」

40代を迎えようとするバツイチの女性が、同年代の不実な恋人と、彼女に夢中になる若い男との間で揺れる。

サガンは19歳で書いた「悲しみよこんにちは」が世界的ベストセラーとなった。しらけた雰囲気と緊張感が漂い、みずみずしく痛みも伴う小説で感嘆したのを覚えている。その後他作品は読まず、久しぶりのサガン。「ブラームスはお好き」は4作め、24歳の作品で、同年代が主人公だったそれまでとは違い、中年に差し掛かる年齢の女性の心の動きが中心、とのこと。なかなか興味深くはあった。

39歳のポールは夫と離婚し、商店や家の中のディスプレイの仕事をしている。少し年上のロジェという恋人は不実で、若い女と浮気を繰り返している。ある日仕事で出逢った25歳のシモンが、ポールに熱烈に恋するようになり、最初は持て余したものの、ポールは次第にシモンに惹かれていくー。

物語の構図、としてはある意味シンプルと言えるだろう。

恋愛とは難しいもので、って私は恋愛マスターでもなんでもないのだが、苦しいことがあれば好ましいと思う方向に逃げ道、はあると思う。どうも小説の話だけではなくて現実にもあるみたいだ。ただ、そこには引き戻す気持ちも働く。

「私、あのときさびしかったのよ。とてもみじめな気持ちだったの。でも『早く帰っていらっしゃい』なんて、あなたに手紙を出すべきじゃなかったわ、ほんとに」

ポールはやはりシモンとの年齢差と、さらに将来のことを気にしていて、それは頻繁に出てくる。例えば、

「もしかしたら、自分の人生にもう挑んではならない時期が存在するのかもしれない。そのかわりに自分の人生を守らなければならない時期が。(中略)彼女はもうそんな時期に到達してしまったのだろうか?」

「彼女は一瞬、じっとその場に立ちつくしてから、ゆっくりとコートをぬぎ、それからバス・ルームにはいって化粧をなおし、念入りに髪の手入れをした。そうしながら急にヘア・ブラシをそこにおいた。そんなにおしゃれしなければならないのが、まるで自分の弱点のように思えて、いやになったのだ。だが、たしかにシモンを誘惑するためだった!」

ただ、自分はこうあるべき、と思うのはやはり言い訳めいていて、結局は自分が誰を求めているのか、という本能的とも言える情が一番になる、のではないかと思う。

シモンとの愛の時間を経たことで、ポールは自分とロジェの関係性を見つめ直す。そして結論を出す。

居心地がいい、だけ、というのは必ずしも人が求めていることじゃない。そこに理屈はない。その複雑さと、どこか自分を律する教訓めいている部分を細やかに、率直に著している作品と言えるだろう。

構図はシンプル、心情は複雑、でも動機はまた納得できる平明さ。そこに常識的なものと矛盾があるのが人の情。よく出来ていると思う。サガン様に生意気かもだが、ラスト近くのポールとロジェとの会話がもっとあって良かったかも、とは思った。

いろいろ考えさせる読書でした。

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