2025年4月21日月曜日

4月書評の9

◼️ アントニオ・タブッキ
「供述によるとペレイラは・・・・・・」

舞台は1938年のポルトガル・リスボン。独裁政権下で年配の文芸記者・ペレイラは巻き込まれていく。

時代はヒトラーがオーストリアを併合した年で、ポルトガルはドイツとイタリア、さらにはフランコ独裁の隣国スペインの影響でファシズム政権となり、秘密警察が活動していた。

かつて大手新聞社の社会部記者を長く勤めたペレイラ。いまはリスボンの新興新聞社「リシュボア」で1人文芸欄を担当している。亡くした妻の写真に語りかけ、行きつけのカフェで砂糖たっぷりのレモネードを飲むことが多い。昔は活動的だったが現在は肥満、心臓病で高血圧。医者に酒を止められ運動を勧められている。

論文を目にしたのがきっかけで、ペレイラはモンテイロ・ロッシという若者に契約社員としてコラムを書いてもらおうと考え、声をかける。戒厳令の街のカフェで会ってみると、ロッシは前払いを要求した上、反体制的な原稿を書いてきて、ペレイラは即ボツにする。どうやらロッシは彼が好意を持っている赤毛の美女マルタらとともに何らかの闘争に関わっているらしい。ロッシになにかと説教めいた口調と諭す態度をとりながらも、何かと頼ってくる彼らに対して、ペレイラは便宜を図ってやるー。

1994年に出版され人気を博し、多くの賞を受賞したタブッキの代表作らしい。確かに、展開がヨーロッパの単館系映画のようで、結もはっきりしてて面白いと思う。

何より療養の際に出逢ったカルドーソ医師がポイントで、明らかに誘導しているその物言いはしかし、人間世界の普遍的な、シンプルな心理を言い表しているようで、つい支配されてしまいそうになる。毎度ヨーロッパや街のニュースをペレイラに話してくれる、行きつけのカフェの給仕マニュエルもいい味を出している。

さらに、学生時代は活発で女性にも人気があったペレイラ、大手新聞で社会部、おそらくは警察事件や事故を扱う記者として活躍した後、妻を病気で失い、いまやしがない新聞の文芸を担当していて、編集部長にペコペコし、太っていて生死に関わりかねない病気持ち。そんなペレイラの境遇と若さが輝きエネルギーを向こうみずにも反体制運動に投じるロッシやマルタの対比も鮮やかだ。

200ページもない作品でありながら、ペレイラを取り巻く何人ものキャラがそれぞれ際立ち、ドラマに影響を与えている。なにより「供述によると」という言葉が頻繁に出てくる仕掛け。世情は穏やかでないが、何もなかった日常に違和感がまぎれ込み、やがて深みにはまっていく。自分の心の行く先を揺らし、確信し、そして破綻が。その流れも、止められない悲劇が加速して進行しているようで、効果的なBGMが聴こえてきそうだ。オチも明瞭。小説らしい小説、映画化もされたそうで、面白そうだなと思う。

タブッキにしては異質な作品だったようだ。少しこの作家に興味が出てきた。他の作品も読んでみたくなる。

いただいたブックポーチ、かなり重宝してます😊

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