◼️ 梨木香歩 小沢さかえ「岸辺のヤービ」
自然を愛する著者が編んだ穏やかな児童小説。湿地森林地帯、小さなヤービたちの生活。
梨木香歩さんは植物や鳥に造詣が深く、彩り深い作品が多い。さて児童小説はー。
三日月湖や川のある湿地帯マッドガイドウォーター。近くのフリースクールの教師・ウタドリさんは湖にボートを浮かべての読書が趣味で、ある日、水辺にカヤネズミほどの大きさの生物が2本足で立っているのを見つけ、ミルクキャンディーを置いてその場を去る。すると次に行った時、お礼がしたい、と持ちかけられる。彼は水辺に住むクーイ族の少年、ヤービといった。あのミルクキャンディーのおかげでいとこが助かったのだという。ウタドリさんは、ヤービたちの世界の出来事を聞くことにしたー。
小さなヤービたちは、オオアカゲラが木に作った巣を利用して住んでいる。パパ・ヤービとママ・ヤービがいる。近くに住んでいるいとこのセジロは最近かわいそう、と主食である蜂の子や蟻の子を食べるのをやめて絶食してしまった。よくよく話を聞くと別の一族のトリカの影響を受けたらしい。ヤービは持ち帰ったミルクキャンディーからママに飲み物を作ってもらい、セジロはようやく栄養のあるものを口にした。
ヤービはセジロとともに鳩の背中に乗って移動するトリカに会いに行く。
空を飛んだり、モグラのトンネルを探検したり、ほのおの革命家が帰ってきたりと妖精とも言えるヤービたちの湿地での生活。もちろん著者らしく、ネイチャーの知識がふんだんに散らされ、マッドガイドウォーターでの小さな暮らしは野趣豊かで、活き活きとして見える。
カイツブリ、オオアカゲラ、カワガラス、キジバト、クロウタドリ、オオヒシクイ、カワアイサ・・著者は「渡りの足跡」というエッセイ集で自分で車を運転して鳥を観察しに行く活動的な面を綴っていて、今回舞台の設定から、直接の主役ではないけども、やはり鳥の生息地がベースになっている印象で、名前だけで登場しない鳥もいるけれど、生息の痕跡も含め、なんか感じるものがある。
トリカの家は生活苦を抱えている。ウタドリさんはトリカの一族を救おうと学校である作戦を実行する。その結果は続編のようだ。この巻にも数々の冒険は描かれているけれど、まだ序章で、広いマッドガイドウォーターとその周辺にはまだ見合わないかも。ほのおの革命家の言うことも気になる。これからだな、という雰囲気。
カラーページも含め、1ページ、見開きとふんだんに絵が挟まれている。長いスカート様のものを着て、水薄荷の花のブーケを両手に抱えて、ヤービの家を訪ねたトリカの可愛らしさ!モノクロでシンプルでも本当にすばらしい絵だと思う。
で、どうもやたら美味しそうなサンドイッチを作ったりするウタドリさん。私はてっきり男性かと思っていたら・・最後の方の挿絵で、ひょっとして?と微笑したりする。
たくさんのワクワクするエピソードは詰め込まれているが、物語はまだ編み上げ途上。いずれ続編も読もうかな。
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