◼️町田そのこ「52ヘルツのクジラたち」
網をめぐらした背景とストーリーとの協奏曲。本屋大賞受賞作。
ブックカバーは京都・平安神宮近くの布雑貨さん。行くたびに文庫用を買ってます。中でもお気に入りのカバー。桜にひっかけて。
町田そのこは初読み。先日北九州市の文学館に行って私と同じ福岡出身で在住と知りちょっとシンパシーが。本屋大賞の人気作品。さてさて。
大分の田舎町、海の近く、丘の上の一軒家に住むことになった貴瑚(きこ)。無職の若い女独り暮らし、よそ者ということでさっそく風俗嬢だったのではと近隣に噂が立つ。スーパーで見知らぬお年寄りに説教された雨の帰り道、かつて包丁が刺さった腹部が痛みだし、うずくまっているところに中学生くらいの子が傘を差し掛けてくる。髪が長くきゃしゃなその子は前にも見たことがあった。貴瑚はその身体に、見慣れた色を認める。貴瑚もかつて、虐待されていたー。
主人公の来し方、なぜ大分に流れ着いたかを、現実と並走させながら語っていく。貴瑚が心に抱くアンさんとは誰なのか、なぜ包丁の刺し傷があるのか。
52ヘルツのクジラの声、妾の子、魂の番(つがい)などの仕掛けやキーワードを交えながら、時折会話のテンポ良さも若者風に、そして物語が進むにつれ貴瑚が環境になじんでいくように。
ストーリーは長く深く。過去のキツい出来事や、訪問者の子との生活が中心で大きな2要素。やがて化学反応を起こして、真っ当なところへと進む。最後の方は少しぐすっとなった。
劇中、北九州って福岡県にあったんだったか、という貴瑚の心の声とか、北九州に行こう、と言われた親友・美晴がどこ、それ、と驚いたりとかこれ自虐っすか?なんて笑えた。
過去といまと物語の陰に忍ばせたもの。よく影響、反響し合っている。特に妾の子、には純和風な不穏な運命、という感覚もした。
さて、という、意外に大きさを感じる物語なのであるが、ひねくれた私はどうも強引なところを探してしまう。ゴールのために少々都合のいい設定を置いているのが見えてしまう。没入せず、少し離れて斜めから見てた。合うか合わないかといえば?でした。
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