◼️ 中村安希「インパラの朝」
リアルな何かを探して、ユーラシア、アフリカ、2年の旅。突き当たった想いはー。開高健ノンフィクション賞、高校生読書感想文コンクール課題図書。
昔シンガポールで働く女性に訊いた。なぜ海外を選んだのですか、と。当時は男女雇用機会均等法が施行されて数年のころで、まだまだ女性は一般職で採用された人が多い時代。アジアに進出している日本企業にローカル採用という条件で入れば相応のポジションに就けるため、語学を勉強して現地へ行く人が多くいた。海外でも日本企業同士、日本人向けの取引や付き合いが多く、駐在員としての保証をしなくてもいい日本人の人材は貴重だったらしい。彼女は問いに答えて、海外のほうが、自分を発見できる、知らない自分に気付ける、と言った。
だいぶ私的な書き始めになった。26歳の著者は、何かを求めた。先進国で、安全で衛生的で物価が高くてあくせくした生活にはないものを。2年間で47か国を巡るバックパッカーとしての旅に出た。
中国チベットネパール、東南アジアへ下ってからインドのパキスタン大使館では危険だから行くなと言われながらも固い決意で入国しキルギス、ウズベキスタンではイランに入国するため偽装結婚をし、中東アラビア半島の先のイエメンからジブチへ紅海を渡りたくて2度目の結婚をして貨物船でついにアフリカ大陸へ。
アフリカ編は経験と洞察に富む。アフリカは搾取されていて、アフリカ人もそれに慣れきっている。底抜けに親切で明るい人々もいるかと思えばバスやトラックの値段交渉ではふっかけられる。外国人はお金持ちのはずだ、富める者が払うのは義務だ、と。
アフリカのリアルはどこにあるのか?国際援助の実態が描かれ、著者は現実に立ち止まり、悩む。自分はリアルを見に来た。来る前に理想を思い描いていた。国内でよく喋るだけの人たちよりはリアルを体験した。一方でしょせんは裕福な国から来た旅人、という立場も痛感する。クールな視点、したたかさと社交性を併せ持ち強く旅をしている中で、理論と鋭敏な感性が交錯する。
常に働いてないと暮らせない先進国の人々ー、少しくハッとさせられる。旅の楽しみ方を知っている著者を羨ましくも思う。しかし自分にはとてもできない、だから楽しめる。
シンガポールの彼女は、若くして日本人の支社長の次の地位を与えられていて、支社長不在のおりにはシンガポール人、中華系、インド系、マレー系の社員たちを統率する立場にあった。なぜ同じローカル採用なのに彼女の待遇はいいのかと反発されることも多かったとこぼしていた。
本書には、20代ならではの勢いと、年配から見て、悪い意味でないアオさもよく出ていて、みずみずしい。なんかこう、上手にたたんでしまわないところがいいな、と。
バックパッカーにはなれないけど、また旅がしたくなってきた。旅ものはたまに読まないとね。
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