2024年9月25日水曜日

9月書評の11

◼️ 村上春樹 カット・メンシック「図書館奇譚」

不思議なライトホラーの短編に、ドイツ気鋭の女性画家が絵を描いた本。ふむふむ。

図書館でこんな本も出てるのかとふと目に留まってすちゃっと借りてきた。もとは文庫の短編集に収められている一篇だという。さてさて。

ぼくはむくどりを飼っていて、母親はぼくが犬に噛まれてからかなり心配性になっている。図書館で持ち出し禁止の本を読むため別部屋に案内するという不思議な老人にだまされ、ぼくは地下の牢屋に監禁される。老人の召使いはどこかしら抜けたような風情の羊男。夜、食事を運んできた美少女の提案で新月の夜に脱走することになるー。

従順すぎるぼく、弱気な羊男。帝王のような老人。脳みそをちゅうちゅう吸われる、借りた本「オスマン・トルコ収税吏の日記」でぼくは主人公になりきり3人の妻を持つ、黒い大きな犬とむくどり、毛虫やむかで。

すべての要素がつながって不思議でダークな世界と人間の潜在意識を造形している。ラストはぼくがこの暗黒世界を懐かしみ、続編があれば図書館にまた行ってるだろうな、と思わせる。

これら多くの登場物を、暗い配色、現代風でまとまった筆の挿絵、著者があとがきで述べるところの「鋭い切っ先を持つタッチ」「鮮やかにイマジナティブな、そしてどこまでもダークな地下世界」が物語と共鳴して雰囲気を盛り上げる。羊男は文章上のキャラに反してめっちゃ不気味に描かれている。

もともとは日本の画家と絵の入った大人の絵本という企画で出版したところ、ドイツの出版社が自国の絵描きの絵を使って刊行したい、と言ってきて、てきたものを日本語版にしたものだとか。おもしろいことにイギリスやアメリカからも同様の申し出があったとのことで、それぞれすでに刊行されているはすだ。

ふむふむ。なるほど、そういうものか、という感じだった。たまに触れる、出版業界、本の企画。転がる時にはころがるものなんだな。

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