◼️周防柳「逢坂の六人」
古今和歌集の撰者である紀貫之の物語。幼き貫之と六歌仙の面々の交わり・・当時のアレもこの陰謀も。
「やまと歌は、人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける」
古今和歌集仮名序。何回読んでも好きな文章。みそひともじ、三十字あまり一文字好きな人には建て付けからしておもしろそうな物語。
在原業平や小野小町に可愛がられ、壬申の乱からの歴史を渡来人の子孫という大友黒主に聞き、歌の代書屋、文屋康秀に宮廷の噂話を吹き込まれ、僧正遍昭の寺ではいわゆる胎内巡りでまつりごとの陰謀を聞かされる。琵琶湖のほとり、山城と近江の国境、逢坂の関を舞台に幼き紀貫之は引き回され、夢うつつ、歴史の走馬灯にさらされる。
なぜまたそう年端もゆかぬ紀貫之ばかりにこんなアダルトな裏側の真相までと、出来過ぎの感もある。しかし歴史のドラスティックさと文学、そこには大小の政治のうねりが底流となるのはかえって自然なおもしろさかもしれない。
中大兄皇子とともに蘇我氏を倒し藤原の姓を賜った中臣鎌足。しかし壬申の乱では天智天皇方が敗れ、藤原氏は一時失墜する。しかし傑物藤原不比等によって復活した後は反感を買いながらも権謀術数を尽くして権力の座を守り抜く。
伊勢物語で鮮烈なのはやはり芥川の段。在原業平と目される男が藤原高子(たかいこ)とおぼしき姫を背負って逃げる。しかしあばら家に休み目を離したところ姫は鬼に食われてしまった。つまり追手につかまり、姫を奪い返されてしまった。
出演する歌仙たちは、芥川の事件に潜む陰謀に数々の説を唱えている。のち帝となる子を産んで国母となり、絶大な権力を得て、業平を重用する高子、二条の后も主要な人物として出てくる。
紀貫之は土佐日記の作者でもあり、伊勢物語も書いたのでは、なんて言われている。業平、小町、六歌仙、伊勢物語、そしてマンガ「応天の門」に出てくるような藤原氏の栄華と、平安時代の華やかなイメージについてまわる深い闇。奈良時代は黒い印象だが平安時代は光と影、そして闇、かな。
古代好き、和歌好きはかなりそそられる、総花的な歴史小説。有名な古今の和歌もたくさん出てくる。僧正遍昭の来し方も興味深い。ちと時間がかかったし、出来過ぎの感はあったけども楽しく読めた。
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