11月は14作品。2022年は168作品となった。まあ180までがんばろうかね。
モロゾフのプリンにラ・フランス。香りがかぐわしい!急に寒くなって、夜の風景もにぎやかできれいさが際立つ。
ワールドカップは大歓喜と墜落、浮き沈みの激しいテレビ観戦。きょうは運命のスペイン戦。うんめいをかけるあいてがスペインである。胸がつぶれそうだ。どうなるんだろう。
攻められても撃たれても耐え抜き、追い込まれて追い詰められてもあきらめず、最後、チャイコフスキーの交響曲5番の第4楽章のラストのように勇壮な音楽の中、ビクトリーロードを歩いてほしい。
4時からのゲーム。まずは寒い早朝に起きるべく早寝しよう。
◼️川端康成「女であること」
シーンの作り方、心のうちの描きようはさすが。今回も、感じ入った。
がっつりとした小説を読みたくなって、川端康成で未読だった670ページの大作を読みこんだ。川端の小説はなにかこう、読む方を興にのらせ、夢中で読ませるものがある。
タイトル通り複数の主人公的な女性たちが登場する。歴史的事件が絡むでもなく場面が移り変わっていく中で、エピソードの設定と心の描き方はすばらしい。
40代の市子は弁護士の夫・佐山と東京の多摩川近くに暮らしている。子はおらず、家では父が殺人で後半中の娘、妙子を住まわせていた。市子の学生時代の友人、音子の娘で佐山夫妻も面識のあるさかえが、大阪から家出してくる。音子に頼まれ、さかえも一緒に暮らすことになった。
多感で美しく、関西弁で思ったことをはっきりと口にするさかえは、周囲を振り回す。佐山と市子に一途な憧れを抱き、妙子を嫌う。
感情的でエネルギーに溢れるさかえの若々しさに、佐山も市子も影響される。さかえは佐山の事務所で働くようになった。一方妙子は、友人千代子に紹介された苦学生・有田と恋仲になり、やがて同棲する。市子は、さかえと、さかえに惹かれている佐山に気を揉み、さらにかつての恋人である清野と再会、さかえの幼なじみの光一にも慕われ、心が乱れる。
危なっかしい若い2人の行動と、言葉、表情、身体、唇までもがハイソで美しく面倒見のよい市子の心に、反射する。穏やかで仲の良い佐山と市子の有りようへ、さざなみがやがて大波となって飛沫を散らす。そして物語は帰着、喪失、そしてひとつの結晶を見る。いいですね。長いストーリーのラストも余韻が残る。
朝のコオヒを飲む佐山。
「その時、妻の市子が、なにをおいても、そばにいてくれることが必要だ。妻のところから、一日の仕事に出てゆくと、それで感じられる」
「胸をかき合わせながら、肌にふれた感じがちがうので、手もさすってみた。なめらかにうるおっている。
春のはじめの女の朝寝は、とろけるように甘くて、幸福が来そうに思える。
まだ夫は、妻の肌から冬が去ったことを、知らないで過ごしている」
この辺が川端らしくてなんとも言えず好ましい。「それで感じられる」は、後も前もない。いまなら校正でひっかかったりするのだろうか。後段は、北村薫、恩田陸あたりでも出てきそうな感じ。通常の仕草と、艶かしさと、ちょっとベタな気味も匂わせる、大人の感性。
清野と出会うシーン。
『小母さま、どうかしやはりました?お顔色が悪いわ。』とさかえが言った。
そのさかえの目が、ういういしく澄んで、ひとみのきれいに光っているのが、不意に市子のかなしみを誘った。(中略)
この敏感な娘がそばにいるのは、堪えられないほどだった。
さかえにかつての自分の若いころを見る市子。ノイズのようにさかえの存在が心理に刺さる。
家出したり、交通事故に遭ったり、それなりに事件は起きるが、モダンな風味の日常の暮らしの中の心根を綴っていくこと、それがシーンを繋ぎストーリーを作り、言葉で表せないようなものを浮かび上がらせ響かせてくる。
1956年、昭和31年の作品。特に戦後しばらくしてからの川端の小説は「日も月も」「美しさと哀しみと」など恋愛に想い乱れる女性をじっくりと描いたものに佳作が多いと思う。「伊豆の踊り子」「雪国」など比較的若い頃に書いた作品とは一線を画していて、これは川端が持ついくつかの特徴の1つだ。今回長いこともあって、市子や妙子の心情の筆致を堪能した。妙子には少しチェーホフ「かもめ」も思い出した。
難というか、特徴的なのだが、かなりさかえで物語は持っているな、とも思った。さかえは、自分で自分が押さえられない、思うままに溺愛したり、甘えたり、嫌いになったり、意地悪をしたりベタベタとくっついたりする。それがみずみずしさを無意識に纏っている。結果としてうまくいかない自分に苛立っている。妙子の危うさと変身もいい要素だけれど、やはりかなり副次的だ。
さて、川端という男性が描いた「女ということ」。私もかなり納得、共感できる表現はあったし、良き作品だと思った。女性が読んだら、どうか受け止めるのかちょっと興味があるかな。
よき読書でした。やっぱり川端シンドローム。
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