2022年12月31日土曜日

年末2022

高校バスケ🏀ウィンターカップを女子準決勝2試合、男子準々決勝4試合、翌日は女子決勝と男子準決勝2試合、加えて夜はBリーグ横浜vs渋谷、さらに翌日は男子決勝と、年末は毎年ながらバスケ三昧。現地観戦のバスケ沼部員と連絡とりつつテレビを観る。今年はU17やU18の国際大会もガチで観ただけに、なじみの選手が多く特別な年。あーホンマに終わったあー。来年の勢力図が早くも気になるなっ😁

合間と終わった後、辻村深月の本屋大賞作品「かがみの孤城」アニメ映画と、とても評判の良い単館系映画「ケイコ、目を澄ませて」を観に行く。

孤城は、さすがの本屋大賞。ジュブナイルなファンタジー、アニメで観ても仕掛けがすばらしい。少年少女の不遇と成長に親世代は弱い。終わった後「泣きすぎた〜😢」とは後ろに座ってた若めママの言葉。

ケイコ、は耳の聴こえない女性ボクサーが主人公。ストーリーはシンプル。しかし無駄のない作り、言葉での説明を絞りこみ、過度に感情を煽り立てない淡々とした手法で、だから伝わるものがたしかにあり、好感が持てる作品だった。

評判いいだけに混んでて、早く行ったのに通路側の席取れず、両横、前をデカい男たちに囲まれて観ました。2つ前の席の頭で観にくいとこを避けようと、私の前の席の2人は頭をそれぞれ外側に傾けてたので私はラッキーなことに視界良好でした🤗

で、きょうはガラ・コンサート。ピアノ🎹コンチェルトはショパン国際ピアノコンクール4位、小林愛実がシューマンを。センシティブで、緊張感あふれる演奏でした。もう大ファンの私は、ロベルト・シューマンの妻で名ピアニストのクララの演奏に脳内で模して、めっちゃ集中して聴きました。

オペラの場面の演奏があって、お決まりのラデツキー行進曲に手拍子、ソリストが紐を引いて大きなクラッカーを客席に放ち、入場者全員に配られたスティックライトを振りながら「蛍の光」でおしまい。女性の歌い手さん、そしてオケも非常に華やかな衣装で、最後までにぎにぎしいコンサート。ホールからお菓子のプレゼントもつきました。ガラ・コンサートって久しぶりだったけど、いいもんだと。ほっこりして家路に就いたのでした。

んで年越しそば食べていま紅白。

2022年を振り返って思うのは、

「今年も、よく遊んだな」と😆😆

来年も楽しみます。

みなさまにはお世話になりました。
新しい年も元気、元気💚

2022年12月27日火曜日

【2022、読書】

<② 小説・物語部門>

さて、2022ランキング、では、小説・物語部門の1位は!

伊与原新「月まで三キロ」

でした!1位伊与原新は東大大学院出身で地球惑星物理学が専門の方。科学を入り口に、人間くさい物語を描きます。この短編集も、1つひとつはめっちゃ感動した〜!という感想ではなかったものの、なにかしら物語を超えたものを醸し出している。ひさびさにそう感じました。この作品で新田次郎文学賞、続く同じテイストの短編集「八月の銀の雪」で直木賞候補。「お台場アイランドベイビー」などの長編も来年は読みたい。伊与原新さん、コメントお待ちしてます😆

2位 泉鏡花「紫陽花」
3位 恒川光太郎「白昼夢の森の少女」
4位 ヨシタケシンスケ「あるかしら書店」
5位 アニー・エルノー「シンプルな情熱」

物語、小説に関しては、今年もおもしろく読めました。泉鏡花だけが文豪、いずれも去年のベスト5にはまったく入ってなかった新世代。

2位は上半期でも書いたけれど、盛夏の、妖し美しい描写が素晴らしい短編。さすがの泉鏡花。
3位はホラーで注目されている恒川光太郎。「夜市」も良かったけどこの短編集もさらさらと読ませながらゾクっと。バリエーションが広がったかな。
4位ヨシタケシンスケも、展覧会をきっかけに読むようになった絵本作家さん。発想をおもしろおかしく広げていく。大人もじゅうぶん楽しめる。
5位は先にノーベル文学賞受賞のアニー・エルノー。別の作品を土台にした「あのこと」という映画を観てきた。「シンプルな情熱」は心が赤裸々。私は美しくリアルだと思ったりする。

6位 青山美智子「赤と青とエスキース」
7位 デイヴィッド・グーディス
  「ピアニストを撃て」
8位 川端康成「女であること」
9位 堀辰雄「羽ばたき」
10位 逢坂冬馬「同志少女よ敵を撃て」

6位は京都の岡崎公園で鏑木清方展のとき買ったなと。人気作家。恋愛ものの連作短編。オシャレです!これでバタフライピーを覚えた。
7位。展開が破滅主義で粗っぽいけども、タイトル含め有名な作品。なんか迫るものがあるんだな。
8位は川端の好きな女性心情もの。9位は初期の短編を集めたもの。堀辰雄は「風立ちぬ」のイメージばかりではなく、おもしろいことを発見。10位は本屋大賞。化け物、と敵から恐れられた女性凄腕スナイパーの話。

11位 チンギス・アイトマートフ
「この星でいちばん美しい愛の物語」
12位 多和田葉子「地球にちりばめられて」
13位 「日本鬼文学名作選」
14位 樋口一葉「たけくらべ」
15位 ピエール・シニアック
  「ウサギ料理は殺しの味」

小説だけで120作品ほど。今年もたくさん読んだし、本を買ったり借りたり探したりする活動は楽しい。絵本も今年はよく読んだ。文字も絵本も、色彩感はマイ読書のキーの1つ。最後に今年読んだ小説部門の一覧を。なんかホラー系が多かった気がする。シェイクスピアその他も入れたかったけどねー。2022年も楽しんだ!来年も、読むぞ〜!

<小説・物語部門>
ピエール・シニアック
「ウサギ料理は殺しの味」
レイ・ブラッドベリ「ウは宇宙船のウ」
ジュール・ジュペルヴィエル「ひとさらい」
柳美里「JR上野駅公園口」
シャルル・ペロー「長靴をはいた猫」
杉本苑子「一夜の客」
Authur Conan Doyle
「The Adventure of the Bruce-Pardington Plans(ブルース・パーディントン設計書)」
桑原水菜「遺跡発掘師は笑わない 
ほうらいの海翡翠」
山尾悠子「ラピスラズリ」
太宰治「待つ」
葉室麟「乾山晩愁」
Authur Conan Doyle
「The Adventure of the Blanched Soldier
(白面の兵士)」
坂口安吾「青鬼の褌を洗う女」
ジョルジュ・シムノン「メグレの幼な友達」
大島真寿美「渦 妹背山婦女庭訓 魂結び」
椹野道流
「最後の晩ごはん 初恋と鮭の包み焼き」
泉鏡花「龍潭譚」
Authur Conan Doyle
「A Case Of Identity(花婿失踪事件)」
ウィリアム・シェイクスピア「ジョン王」
エドガー・アラン・ポー
「アッシャー家の崩壊」
多和田葉子「地球にちりばめられて」
フョードル・ドストエフスキー
「やさしい女 白夜」
原田マハ「20 CONTACTS
消えない星々との短い接触」
奥山景布子「キサキの大仏」
手塚治虫「ばるぼら」
三上延「ビブリア古書堂の事件手帖5
      栞子さんと繋がりの時」
Authur Conan Doyle
「The 'Gloria Scott'(グロリア・スコット号)」仁木悦子「私の大好きな探偵」

リチャード・ブローディガン
「アメリカの鱒釣り」
三上延「ビブリア古書堂の事件手帖Ⅲ
〜扉子と虚ろな夢〜」

ヘンリク・イプセン「幽霊」
トーマス・マン「トニオ・クレーガー」
Authur Conan Doyle
「The Adventure of the Solitary Cyclist
(美しき自転車乗り)
桑原水菜「遺跡発掘師は笑わない
出雲王のみささぎ」
イタロ・カルヴィーノ「まっぷたつの子爵」
ポール・アルテ「死まで139歩」
北杜夫「幽霊」
Authur Conan Doyle
「The Adventure of the Dying Detective
(瀕死の探偵)」
森雅裕「モーツァルトは子守唄を歌わない」
ジョルジュ・シムノン「紺碧海岸のメグレ」
長野まゆみ「兄弟天気図」
泉鏡花「紫陽花」
髙田郁
「あきない世傳 金と銀十二 出帆篇」
多和田葉子「容疑者の夜行列車」
Authur Conan Doyle
「The Adventure of the Mazarin Stone(マザリンの宝石)」
伊藤計劃「ハーモニー」
伊与原新「八月の銀の雪」
長野まゆみ「東京少年」
宮部みゆき/吉田 尚令「悪い本」
一色さゆり「ピカソになれない私たち」
皆川博子「光源氏殺人事件」
青山美智子「赤と青とエスキース」
樋口一葉「たけくらべ」
泉鏡花「夜叉ヶ池・天守物語」
Authur Conan Doyle
「The Boscombe Valley Mystery
(ボスコム谷の惨劇)」
櫛木理宇「死刑にいたる病」
梨木香歩「りかさん」
高殿円「シャーリー・ホームズとバスカヴィル家の狗」
Authur Conan Doyle
「The Musgrave Ritual (マスグレーヴ家の儀式書)」
アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ
「人間の大地」
ロバート・ルイス・スティーヴンスン「宝島」
ベルトルト・ブレヒト「ガリレオの人生」
泉鏡花「外科室」
佐野史郎/ハダ タカヒト「まどのそと」
ヨシタケシンスケ「りんごかもしれない」
北村薫「中野のお父さんは謎を解くか」
岡本綺堂他「山の怪談」
恒川光太郎「白昼夢の森の少女」
エルンスト・テオドール・アマデウス・ホフマン「砂男/クレスペル顧問官」
近藤史恵「みかんとひよどり」
逢坂冬馬「同志少女よ敵を撃て」
Authur Conan Doyle
「The Adventure of the Priory School (プライオリ・スクール)」
ヨシタケシンスケ「あるかしら書店」
泉鏡花「夜行巡査」
村上春樹「神の子どもたちはみな踊る」
林望「トッカータ 光と影の物語 洋画編」
鯨統一郎「文豪たちの怪しい宴」
梶尾真治「おもいでマシン」
安壇美緒「ラブカは静かに弓を持つ」
今村昌弘「魔眼の匣の殺人」
ヨシタケシンスケ「ころべばいいのに」
伊与原新「月まで三キロ」
「川端康成異相短編集」
京極夏彦/町田尚子「いるのいないの」
アラン・アレキサンダー・ミルン
「赤い館の秘密」
高野麻衣「ショパンとリスト」
岡本喜八「シャーベット・ホームズ探偵団」
Authur Conan Doyle
「The Disappearance of Lady Frances Carfax(フランシス・カーファックス姫の失踪)」
ウィリアム・シェイクスピア
「トロイラスとクレシダ」
泉鏡花「化鳥」
宮沢賢治「まなづるとダアリヤ」
ジェイムズ・ラヴグローヴ
「シャーロック・ホームズとシャドウェルの影」
あさのあつこ/加藤休ミ
「いただきます。ごちそうさま。」
いせ ひでこ「チェロの木」
Authur Conan Doyle
「The Adventure of the Three Gables
(三破風館)」
チンギス・アイトマートフ
「この星でいちばん美しい愛の物語」
アレキサンドル・セルゲーヴィチ・プーシキン「スペードの女王」
星新一「ちぐはぐな部品」
「日本鬼文学名作選」
レイ・ブラッドベリ「華氏451度」
西村京太郎「西日本鉄道殺人事件」
いせひでこ「ルリユールおじさん」
堀辰雄「羽ばたき」
アニー・エルノー「シンプルな情熱」
デイヴィッド・グーディス
「ピアニストを撃て」
Authur Conan Doyle
「The Five Orange Pips(オレンジの種五つ)」
ティム・メジャー
「新シャーロック・ホームズの冒険」
津原泰水「ピカルディの薔薇」
北村薫「覆面作家は二人いる」
有栖川有栖/市川友章「おろしてください」
川端康成「女であること」
ウィリアム・シェイクスピア「冬物語」
いせひでこ「大きな木のような人」
長野まゆみ「螺子式少年(レプリカキツト)」
夏川草介「本を守ろうとする猫の話」
Authur Conan Doyle 「The Reigate Squires(ライゲートの大地主)」
桜庭一樹/嶽まいこ「すきなひと」
今村夏子「むらさきのスカートの女」
バンジャマン・コンスタン「アドルフ」
柳広司「最初の哲学者」
柄刀一「御手洗潔対シャーロック・ホームズ」

【2022、読書】

<①随筆・解説・ノンフィクション等>

毎年恒例の読書ランキング。今年は180作品を読みました。

今年自分でチラシ等を追って作ったたくさんのブックカバーの写真などとともに。

11回めとなり、キリもよいので、形を改めます。一時は物語しか読まなかったのが、いまは新書や解説ものも増え、ジャンルを2つにしてそれぞれランキング1位を決めることにしました。

今年読んだ180作品のうち、数えたらおよそ1/3が小説以外。作品数が少ないからベストテンで、とも思ったけれど、これがめっちゃ激戦で、選考ホンマに難しく15にしました。それだけ楽しおもしろいもの多かった。

随筆・解説・ノンフィクション等の第1位は・・

フランツ・リスト「フレデリック・ショパン」

でした!

リストが書いた同時代の盟友ショパンの姿や曲ジャンル、音楽に込めたもの、特徴の解説。晩年の回顧ではなく、死後数年のうちにポーランド取材までしてものした、巨匠による巨匠の伝記。もうサイコーだった。ふだんのショパンの素顔、交友、死の床までほんとうにリアルだし、リストによる分析も価値がある。陶酔しました。

2位 伊勢英子 柳田邦男
「見えないものを見る 絵描きの眼・作家の眼」
3位 板垣千佳子編「ラドゥ・ルプーは語らない」
4位 小田島雄志「シェイクスピアへの旅」
5位 北原尚彦・村山隆司
「シャーロック・ホームズの建築」

2位は純粋に感動した。シビアな週末医療のルポルタージュに、絵本作家はどんな挿絵を描いたのか、その苦悩。
3位。インタビューや録音がひどくきらいなヴィルトゥオーソ、ラドゥ・ルプー。ピアニストとしての彼を、多くのマエストロにインタビューし浮かび上がらせていく逸品。
4位。作品の舞台をめぐる旅。いやーこんな旅行してみたい。銘菓「ジュリエットのキス」に、潔いほど宣伝をしていないハムレットの城。
ホームズものは企画勝ち。よくぞ考えてくださった。劇中の建築を専門家が絵に描いてみる。めっちゃ興味を惹かれるよね。

6位 オルハン・パムク「パムクの文学講義」
7位 青柳いづみこ「ショパンコンクール見聞録」
8位 巽好幸「富士山大噴火と阿蘇山大爆発」
9位 中村桃子「女ことばと日本語」
10位 甲斐みのり「歩いて、食べる 京都のおいしい名建築散歩」

パムクはやはり好きですね。しかし推理小説嫌いとは笑。青柳さんの、待望のショパン国際ピアノコンクールの本。完全優勝ブルース・リウの臨み方にびっくり。
富士山も怖いけど、阿蘇カルデラ噴火があったら九州が滅亡し、日本が深刻な危機に陥る。怖いー。いわゆる「てよだわ言葉」はどこで生まれてどんな効能があったのか?おもしろかった。京都の名建築、使わせてもらってます。行ってスイーツ食べてます!

11位 奈倉有里「夕暮れに夜明けの歌を」
12位 夏目漱石「硝子戸の中」
13位 橋本治 宮下規久朗
「モディリアーニの恋人」
14位 中川右介「阿久悠と松本隆」
15位 ジャン・ジャンジェ
「ル・コルビュジエ 終わりなき挑戦の日々」

ロシア文学留学紀を興味深く読み、夏目漱石の滋味掬すべき文章を味わい、アメデオ・モディリアーニ展の前にアメデオとその恋人・ジャンヌ・エビュテルヌの幸福と悲劇を知る。
日本歌謡曲史を追い、丹下健三も尊敬していたというコルビュジェへ知識を深める。

鈴木直樹「マンモスを科学する」
没後20年 ルーシー・リー展 カタログ
いせひでこ「空のひきだし」

このへんもとても良かった。すごく楽しい、文化教養の本たち。トム・ホーバスなどスポーツものもGOODでした。

以下、小説以外の読了本。来年も、読むぞっと!

<随筆・解説・ノンフィクション等部門>

ジェーン・スー「生きるとか死ぬとか父親とか」
宇治市源氏物語ミュージアム「光源氏に迫る」
「自分の心をみつけるゲーテの言葉」
ジャン・ジャンジェ
「ル・コルビュジエ 終わりなき挑戦の日々」
土田京子「楽典がスイスイ学べる本」
菱井十拳「羅刹ノ国 北九州怪談行」
トム・ホーバス「ウイニングメンタリティー」
鈴木直樹「マンモスを科学する」
富岡幸一郎「川端康成 魔界の文学」
橋本治 宮下規久朗
「モディリアーニの恋人」
「日本文学の見取り図 
    宮崎駿から古事記まで」
大島和人「B.LEAGUE誕生」
北原尚彦・村山隆司
「シャーロック・ホームズの建築」
河井寛次郎「立春開門」
没後20年 ルーシー・リー展 カタログ
小林朋道「先生、頭突き中のヤギが尻尾で笑っています!」
巽好幸「富士山大噴火と阿蘇山大爆発」
河井寛次郎記念館編「河井寛次郎の宇宙」
田口壮「プロ野球・二軍の謎」
日経ポケットギャラリー「ムンク」
田辺青蛙「大阪怪談」
小谷野敦「川端康成と女たち」
伊勢英子 柳田邦男
「見えないものを見る 絵描きの眼・作家の眼」
青柳いづみこ
「ショパンに飽きたら、ミステリー」
中川右介「阿久悠と松本隆」
小林朋道「先生、大蛇が図書館をうろついています!
多和田葉子「言葉と歩く日記」
中村桃子「女ことばと日本語」
コンラート・ローレンツ「ソロモンの指輪」
オルハン・パムク「パムクの文学講義」
谷釜尋徳「ボールと日本人」
井出洋一郎
「ルーブルの名画はなぜこんなに面白いのか」
青樹明子
「家計簿から見る中国 今ほんとうの姿」
佐竹昭広「酒呑童子異聞」
瀬尾まいこ「ありがとう、さようなら」
三井康浩「ザ・スコアラー」
「近松門左衛門」
甲斐みのり「歩いて、食べる 京都のおいしい名建築散歩」
奈倉有里「夕暮れに夜明けの歌を」
フランソワ・デュボワ「楽器の科学」
いせひでこ「空のひきだし」
小田島雄志「シェイクスピアへの旅」
草山万兎「宮沢賢治の心を読む」
草山万兎「宮沢賢治の心を読む」Ⅱ
リービ英雄「英語で読む万葉集」
夏目漱石「硝子戸の中」
小野不由美「残穢」
フランツ・リスト「フレデリック・ショパン」
永井路子「悪霊列伝」
矢口高雄「釣りキチ三平の釣れづれの記」
「ちひろの昭和」
青木奈緒「ハリネズミの道」
青柳いづみこ「ショパンコンクール見聞録」
板垣千佳子編「ラドゥ・ルプーは語らない」
武光誠「名字と日本人」
さくらももこ「もものかんづめ」
高橋瑞樹「大絶滅はまた起きるのか?」
豊川斎赫「丹下健三」

クリスマス🎄

クリスマス🎄は「THE FIRST SLAM DUNK 」2回めを観に行きました。
しかも人生初のIMAXレーザーで。初、1stがスラムダンクで良かったあ〜。チケット購入の時点でけっこう埋まってて、席はいつもはあまり座らない前の方。大画面と迫力サウンド、圧倒されました。んで、12/24から配布のTHANKSプレゼント、追加特典をゲット。

2回同じ映画をシアターで観たことはあるけれど、意識していわゆる「追い」をしたの、NiziU二重の初めてかも。1回めの後、曲も聴き込んでたから、ここでそのフレーズなんだ、とか思ったり気づきが多かった。最初の湘北メンバーの歩きにオープニングテーマはカッコよすぎるやろ、と惚れぼれ。ストーリーは分かってるから余裕があるし、いいもんです。3回め、あり?なんて思ってしまう。

プレゼント、息子には国際試合球。バレーを始めた頃買ったボールはボロボロになってて欲しがってたし。妻へはイギリス🇬🇧菓子店のチョコ&ビスケット、自分は・・んーまあ小粋な古書店で、ちょっと渋めの本、かなあ。緑の袋も、また別の店で買った時、きょういいブックカバーあるんですよ、と折ってくれたこのデザインもお気に入り。良い買い物をしたと気分暖か。

ウィンターカップと春高バレーを楽しむぞっと。。

12月書評の12

【2022年、スイーツ】

いやー写真が40枚超えましたねー。おしゃれカフェのカンバンスイーツからコンビニスイーツまで。近代建築や美術館に行っては食べてました。

ベスト3は、

・桃とナッツとアイスクリームのせパンケーキ@神戸・六甲アイランド小磯良平美術館喫茶
・京都・平安神宮近くラ・ヴァチュールのタルトタタン
・サヴァラン@ビゴの店

そして大阪市立図書館のカッチョいいカフェのいちじくスムージーと、地元の西宮大谷記念美術館へイタリア・ボローニャ国際絵本原画展を観に行った時のアフォガート。

来年も思い出になるような、美味しいスイーツを食べたいね🍰

◼️柄刀一「御手洗潔対シャーロック・ホームズ」

クリスマスに、ホームズを。今回はダブルパスティーシュ。

パスティーシュやパロディというのは、それなりの進行のさせ方があるんだな、というのが長年読んだ感想。有り体にいえば、原典に沿ったホームズらしさを全編に配しなければならない。そのことと、ミステリとしてのおもしろさを両立させるのは難しいのかもしれない。


今作はパスティーシュ・パロディの中でもミステリ部分が響いたものとして白眉だと思う。


御手洗潔は島田荘司の探偵で、私も「斜め屋敷の犯罪」「占星術師殺人事件」「暗闇坂の人喰いの木」などよく読んだ。今回は島田氏の依頼で柄刀一が書いたようだ。御手洗潔と、ホームズの二重のパスティーシュというパロディになっている。

収録作品は以下。
「青の広間の御手洗」
「シリウスの雫」
「緋色の紛糾」
「ボヘミアンの秋分」
「巨人幻想」
「石岡和己対ジョン・H・ワトスン」

冒頭は御手洗がノーベル賞対象の研究をリードしたとして石岡と一緒にスウェーデンへ向かう話。理論的にチョー優秀な頭脳と、ゆえに口数が多いといった御手洗の特徴を醸し出す。

「シリウス」は御手洗潔単独の事件。謎の設定、解決と興味深く、また妖精、飛行、巨人、というこの本の種を蒔いている。

続く2つはホームズとワトスンが現代の日本で活躍する。タイトルが語る通り、原典有名作のパロディ。少しジグザグし過ぎている感じかな。まあ楽しい。

「巨人幻想」はこの本を数年に一度は読み返そうと思う篇。霧のウェールズ、遺跡、巨人伝説などただでさえ怪しくファンタジックな舞台。そして巨人の咆哮が聴こえ、すぐ屋外を地響きが通過し、大きな足跡のようなものが石の通路を砕いて残されていた。そして窓から巨大な顔が覗き、火の玉が上がるー。

ここで現代に甦ったホームズ&ワトスンと御手洗&石岡といった、2組の名探偵&ボズウェル役が邂逅する。一瞬の緊迫はあるものの、基本的には、協力して複雑な謎を解いていくー。

壮大な謎のトリックがストーリーより先行、という、ままある傾向。しかしこの篇にはいつもながら唸らされる。特に御手洗潔ものの特徴を活かしたミステリの佳作だと思う。

最後のコーナーは、まあ慇懃な、ワトスンと石岡くんの手紙のののしりあい。微笑ましいこの部分は島田荘司が書いている。なかなか楽しいけども、島田氏はやっぱりヘビはミルクを飲まないとか、長身のホームズが老婆に化けるのはおかしいとか、同じことを今回も書いてるなと。

「緋色の研究」を「緋色の習作」というのにこだわる人もいて、まあこれもシャーロッキアン・ラプソディーの一部でなかなかオモロカシイ。総じて日本人はミステリの構築は緻密で、ちょっとだけひつこいかな^_^

2022年12月23日金曜日

12月書評の11

新梅田シティでフランス映画「あのこと」。'60年代、フランスでは妊娠中絶が違法だった。妊娠してしまったアンヌは大学の成績が優秀で学問を続けたかった・・。ノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノーの原作を映画化し、ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞。うーん、痛みを伴う作品でしたね。

淀屋橋に近い近代建築でお店も入る芝川ビル、そのベトナム料理店でランチ、ベトナムコーヒーとベトナムプリンのデザート。

建築物のドラマで取り上げられていた船場ビルを観に行って、テナントの古書店、クローディア書店さんへ。しばらく楽しく話し込んだ。こういう時間にはかなり癒される。

クリスマスの買い物して、地元に帰って図書館に。少し時間があり、近くの本屋の奥の喫茶で1時間ほど読書。没頭できるよう、壁に向かい仕切りをした1人席の半数は埋まっていた。本屋カフェらしい🤭

ちょっとカロリーオーバーかなぁと思う日に限って帰ったら地元の名店TSUMAGARIのケーキ🍰があったりする。

気合いを入れて筋トレに励みましたとさ。

◼️柳広司「最初の哲学者」

ギリシア神話や実在の人物をもとにした短編集。大地から生える巨人に焔の息を吐く牛、迷宮のミノタウロス。妖しさに、ワクワクする。

書評で興味を覚えて手にしてみた。ギリシャ神話は、相変わらず体系的には整理してないが、題材となったものは何回か読んでいる。トロイア戦争については神話のほか、シェイクスピア「トロイラスとクレシダ」を今年読み、またソフォクレスの「オイディプス王」も過去読んだのでなじみがあった。

神話や遺文をもとにした1話が短い13篇。大筋に表現と演出を加えたものだと思う。神話らしい残酷な場面も散見される。しかし登場人物を、怪しさ妖しさも含めて活き活きと描いていて、読みやすい。

やはり頭部が牛、身体がヒトのミノタウロスと迷宮ラビリントス、退治するテセウスとアリアドネ、職人ダイダロスとイカロスの翼の話はワクワクする。それぞれアリアドネ、ミノタウロスのモノローグで語られる2篇に続いて、自分が造った迷宮に閉じ込められるダイダロス父と子の物語。流れも良し。

ゼウスがウラノスとの戦いに投入する百手五十首の巨人、コルキスのプリンセス・メデイアとギリシアの若者イアソンの恋物語に出てくる青銅の蹄を持ち焔の息を吐く牛、竜の歯、畑から生え出る武装の巨人たち、また「オイディプス王」の劇中には描かれていなかったスフィンクスとの問答など、異形・不思議、どこか神聖な香りを帯びた者たちが躍動するのは想像力を刺激する。


ソクラテスの逸話を妻の目から描いたのもウィットが効いているし、歴史叙述家のヘロドトスを等身大で動かしたのには、どこかホッとする。


話としては読みかじっていても、なかなかこのような形での小説はなかったのではないかなと。短いので刹那的なイメージと余韻が残り、強く印象づけられる。

やはり神話として伝えられるものには、童心に返りワクワクさせる、突き動かすパワーがあるんだなと改めて思った本でした。

2022年12月21日水曜日

12月書評の10

【2022年、建築】

建築を積極的に観に行くようになったのは秋以降だと思う。大阪の名建築を舞台にしたドラマがあって、北浜淀屋橋かいわいを回った。オフィス街の真ん中で屋上に昇れた芝川ビルは思い出深い。ドラマのオープニングにも使われていた。

青山ビル、時計塔のある生駒ビル、どれも興味深い。大阪でまだまだ行けてないところは多い。船場ビルに行ってみたいね。

GWには大山崎山荘に行った。革張りのソファなどレトロな家具や陶芸の展示も気持ちよく、絵画が展示してある棟があり、池はモネの睡蓮ぽく楽しめた。

イケフェス「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」では光世ビルや大阪市中央公会堂を堪能。めっちゃカッコいい大阪市立図書館のカフェでスムージー、公会堂では名物オムライス。

次いでライト風の楽しい建築甲子園会館ではもうホンマにおもしろかった。外形は思い切っていてスリリングな面もある。船を模しているデザインが細かく外形は船舶のようで長い屋根なんかスリリング。ライトはいいですねと再認識。

で、神戸税関の年イチの一般公開へ。堂々とした外観と、新築部分は大型船舶のブリッジのような造りとなっていて、屋上からは神戸港が一望できて、なかなか楽しめた。

来年は丹下健三の建築を多少回ってみたい、また丹下の弟子の磯崎新も興味がある。

建築には、空間にしろ造形にしろ、美とおもしろさがないとね。

来年も見に行きたいとこあるし京都神戸には通うでしょう。も少し詳しくなりたいな。

◼️豊川斎赫「丹下健三」

「『美しき』もののみ機能的である」
戦後建築の中心的存在、世界のタンゲ。建築には夢がなくちゃ。

丹下健三といえば、代々木の国立屋内競技場、広島の平和記念公園、大阪万博に東京都庁ほかを手掛けた建築家さん。黒川紀章や磯崎新など優秀な門下生を育てた人でもある。

これでも一般の人向けの書き方だとは思うが、新書!と主張するような難しさもあった本だった。自分流にかみくだきます。

冒頭のイキってるようにも聞こえる言葉は、1955年、40代で、広島の平和記念公園竣工の年に述べたもの。今の日本で美は悪であるという人もいて、そのような面がないとは言い切れないとしながらもだからといって、

「生活機能と対応する建築空間が美しいものでなければならず、その美しさを通じてのみ、建築空間が、機能を人間に伝えることが出来る、ということを否定しうるものではない」とする。戦後10年、まだまだ復興途上にある中で美を追求するのに咎め立てもあっただろうな、とは思う。

丹下は広島の平和記念公園陳列館や本館に、伊勢神宮や桂離宮などとデザインのイメージを重ねた。廃墟から立ち上がる力強さと、非西洋な美しさ。合理的機能的なものに対する美しさ、丹下の主張する内的リアリティ、とも言えるものの一部とされている。

ただ、美しさ、はこの本を読む限り、大きな帰結であると思える。丹下は戦後の復興期を考えるため、日本の国土計画を整理していった。都心への人口集中か分散か、工業立地とエネルギー供給、交通手段と生活圏。さらには密度、配置、人の動きを分析する。人の身体の大きさ、ヒューマンスケールも計算に入る。

丹下は自分の事務所のみならず、国土計画に資する人材を育成するべく、東大に都市工学科を立ち上げ、専門の組織も作り、成果を可視化できるよう、環境を整備した。その中で、異分野のプロとの共通言語を作るべく奔走、また、実践の中でイサム・ノグチ、岡本太郎らともコラボレーションするなど、有機的な広がりを構築していった。

うーむすごい人、スピーディかつ積み上げがある。垣根を低くするところがすごい。

国立代々木第二体育館はバスケットボールの殿堂でもあり、私も思い入れひとしお。なぜあのような形になったのか。

丹下は建築の実践の中でコンクリートや鉄骨といった素材や屋根の構造についての知見を深めて行った。そして交通機関や敷地内の人の移動をイメージして、出入り口の方向を決め、いわゆる巴型、巻貝、またホイッスルの吹き口を対称的に2箇所付けたような形とした。その上で、コストや強度ほかを考えて2本のケーブルを使った鉄板の吊り屋根を、コンクリート打ちっ放しの構造に載せた。

丹下はこの国立屋内総合競技場と、オリンピックの年に竣工した東京カテドラル聖マリア大聖堂について、象徴としての建築が、精神世界の問題と深く関わるのではないかと推測している。

「『現代の技術は、再び人間性を回復しうるであろうか。現代文明は、はたして人間とふれあう通路を発見しうるだろうか。』私のささやかな体験は、これに対して、イエスという答えを与えようとしているのである」

ちょっと哲学的ではある。至高性をも感じさせるそのデザインは国内外で大きな反響を呼んだという。いやー聖地。第二体育館は当時からバスケット競技用だったそうだ。ひとつの結実だろうか。いまでも憧れを感じるなあと。

丹下健三の門下からは、言動が積極的な黒川紀章や文筆に優れた磯崎新ら優秀な弟子がそれぞれ活動し、時に師匠を越えようとしたり批判したり、でもやはり巨匠の手法をなぞってみたりと試行錯誤している。しばらく1900年代後半から終盤は戦後復興、高度成長期からオイルショック、バブル、東京オリンピック誘致と至る過程で、時代性もあり時に政治的な思想を含めて活発な議論が交わされている。

本書では慎重に、丹下の功罪や評価に言及している。弟子たちの特徴にもページが割かれている。最終的な読後感は、やはり丹下健三は偉大で、門下生たちにとってぶつかりがいのある、大きくかつ懐の深い壁だったのではないか、というものだった。

私は建築について体系的な知識を持たない。ジョサイア・コンドルから指導を受けた辰野金吾、片山東熊らはレンガ造り、ドーム屋根などのまさに西洋建築、という向きが強く、1900年代に入ってくると、だんだんモダンな石造りの建物が増えてくる印象がある。今作の焦点は戦後、激動の時代の物語であり、現代的でしかし精神性の感じられる、おもしろい建築について啓発されたと思う。

私は東京在住時、仕事先の建物が実は丹下の設計だったことをいま知り、当時はありがたみも何もなく、変わったビルだなあとしか考えなかったことをちょっと後悔している。

丹下や弟子たちが手掛けた建築を調べているとワクワクする。丹下の東京カテドラルや、磯崎新の北九州市立美術なんかを見たいなと。

やっぱり、建築は、おもしろくて、夢がなくちゃね。

2022年12月18日日曜日

12月読書の9

友人が京都へ来るというので、雨の中の京都行。初めて行った大徳寺の黄梅院、最近公開を始めたらしく、お初の訪問。

現代書アート、の展示会を見る。黄梅院の立派な作庭と書院作りに作品はめっちゃマッチしてて、ホント良かった。

大徳寺から歩いて5分ほどのカフェ「さらさ西陣」でぽろぽろ野いちごのクリームソーダとキャラメルソースのチーズケーキ。1930年建築の銭湯をリノベーションしたカフェ。マジョリカタイルと言われるカラフルでデザイン性の高いタイルを貼った内装。ソファ席やちょっと凝った椅子などオシャレ。若い人多かった。

同志社大学のハリス理化学館で源氏物語にまつわる資料を拝見。1800年代終盤のレンガ造りの建物はそぼ降る冷たい小雨の中、どこか虚しさも感じさせたりして。

ごはん食べて帰りました。京都散歩、きょうも満足😆

◼️ バンジャマン・コンスタン「アドルフ」

ぐずぐずとしがみつきの恋愛沼。しかし名作の匂いが。

きっかけは先に読んだ夏川草介「本を守ろうとする猫の話」。数々の世界の名作が紹介されている中のひとつで、興味を持った。知らない作品だった。

コンスタンは主に1800年代初頭に活躍した政治家、著述家で数々の浮き名を流した男でもある。「アドルフ」はコンスタン唯一の小説だそうだ。さほど長くない作品で、メロメロなテイストである。

ドイツに数ある国々、ある選帝侯の大臣の息子・アドルフは大学を卒業したての22才。他人を信用せず、沈黙したり、かと思うと節度を欠いてペラペラとしゃべったりと世間になじめない。人からは軽薄、皮肉屋などとうわさされていた。

アドルフはP伯爵の公認の愛人で、すでに彼との間に2人の子供もいる美しいエレノールに惹かれ、告白する。しつこい求愛にエレノールはアドルフを拒むが、やがてその愛を受け入れ、2人は愛し合うようになる。しかし、将来ある身のアドルフと、10歳も年上の、貴族の愛人。エレノールの束縛にうんざりし始めたアドルフ。そしてエレノールはアドルフとの愛のため、子どもさえ捨て、伯爵のもとを離れるー。

いやーぐずぐず、と書いたが、本当にそんな物語で別れそうで別れない。アドルフはエレノールの愛し方に煩わしさを感じ、うわさを知った父親やその友人の外交官の説得に心を動かされたりする。結婚することはない、と決めていて自分なしでの彼女の幸せを祈ったりするが、エレノールの泣きや懇願に弱く、態度を保留し続ける。

エレノールはポーランドの失脚した貴族の娘で、いわば生きるために男爵の愛人となり、献身的に男爵を支えてきた女。安定してはいるが見下されたような立場に憤りを感じていて、人生の脱出口を求めていた。

アドルフに溺れ、激しく愛するエレノール。でもその主張、彼女の心の根源的なかつえは読んでいて正当にも思えるし、行動はきっぱりしている。んでエレノール、若い恋人アドルフのの逃げ道をふさぐふさぐ。その言葉がまた確かな説得力を感じさせる。

なぜか、光源氏と一夜をともにし、以後彼を遠ざけた人妻の空蝉を思い出す。もう一度逢ってしまえば流されてしまう、という思いもあったのだろうか。光源氏は遊びでも、自分の気持ちはエレノールのようになる、という予感がしていたのだろうか。

コンスタンは数々の著作があるスタール夫人と長年の愛人関係にあった。アドルフを出版するにあたって、スタール夫人の反応をひどく怖れていたようだ。コンスタンは多くの恋をし、中には結婚するために互いに伴侶と離婚したというケースもあったらしい。27歳年上の女性とも付き合っている。ホンマに光源氏みたい。スタール夫人の支配から逃れようとスキを見ては結婚を画策したりしていたとか。この作品と重なるような話だが、エレノールには複数の恋人との経験が反映されているとか。

さまざまな煩悶に苦しみ、エレノールへの愛や嫌悪、そして何も成し遂げていない自分の状況、大人の狡知に悩み苛まれるアドルフ。ぐずぐず、しかしなぜか共感を生む部分があるのも事実かも知れない。自分を考えても、特に20代後半は気持ちが揺れ動く時期で、男性は大人になり切れてない、と思う。誰しも理屈通りに動けず苦々しさを感じていた経験はあるのでは、と考えさせる作品だ。

小説家ではなく政治家として人々に愛されたというコンスタン。唯一の物語は日本の文豪をはじめ、現代でも多くの人に好まれているという。おもしろい読書体験だった。

2022年12月15日木曜日

12月書評の8

ふたご座流星群ピークの日は快晴。

しかし例年に比べてめっちゃ寒く北風も吹いてて、粘る時は日付をまたぐこともあるけども今年は23時過ぎで終了。本日12個、きのうと合わせて今年は15個の観測となりました。

ふたご座はストロークが長くゆっくり流れる星もある、というのが特徴。流れるのを目の端で捉えて、首を回してもまだ流れていたりする。

放射点の近くは短い流星が多い。なるべくふたご座付近だけでなく、だいたいオリオン座のベテルギウスとぎょしゃ座のカペラの間くらいを視野広くぼーっと眺めているけども、今年は最接近後の火星があり、近くのアルデバランも赤いので、アルデバラン、火星、ベテルギウスで赤星3つ並びやな、とか考えつつ。

例年、炎が紙切れを焼くように、光が燃えちぎれるような流れ方をするものや、光の粉に包まれて走るものといった、その年を代表するようなおもしろい流星があるものだ。今年はそれがなく、ちょっとつまんなかったかな。でも短時間によく流れた。

また来年!やね。

◼️高橋瑞樹「大絶滅はまた起きるのか?」

いまは大絶滅の途中。意識をかき立てられる。

10年以上前のことだったか、恐竜展に絡む番組で、恐竜絶滅の原因は直径15kmの隕石がアメリカのユカタン半島に落ちたからだ、というのを知り驚いた。それまでは気温が下がった影響で爬虫類が生きにくくなったから、と茫洋と考えていた。1億5000万年もの間大繁栄した恐竜が突然いなくなったことには外的な、ショッキングな滅亡の要因があったのかと、心がざわついた。

この恐竜絶滅を含む、ビッグファイブと呼ばれる5回の大絶滅があった。著者いわく、現在は6回めの途上で、その原因は人類だ、とのこと。地球上で並ぶものなき頂点に立った人類の影響により、毎日、最大150種もの生きものが絶滅しているという。主な原因は乱獲、環境破壊、温暖化。

人間に危害を及ぼす大型の肉食獣などを駆逐していった結果、生態系がおかしくなっていった例も多い。少しの変化で自然なバランスは崩れ、いつか人類に影響を及ぼす。昨今の豪雨や台風の災害に、サンマを代表とする魚類も、需要が自然の供給を追い越しつつあるなど、警告は現実として顕れている。

ではどうすればいいのか。もちろん意識と行動を変えるほかなく、スウェーデンの少女ら声を上げる人もいる。日本人はまた、欧米に比べて自然破壊の意識が低い、との論文もある。SDG'sも有効だ。

たまにこういった本を読むと、知的好奇心の充足に加えて啓発されるものがある。しかしー

去年だったか、阿蘇山が巨大カルデラ噴火を起こせば日本は危機に陥る、と行政に訴えている学者さんの本を読んだ。火砕流で九州は壊滅する、火山灰で本州は深刻な被害を蒙る、という。ではその確率はというと今後100年で1%だそう。だからなかなか対策の主張が認められにくいとか。私は九州生まれで阿蘇はなじみ深く、影響されやすいので背筋がゾッとした。

今回も、どこかで深刻な被害が来る、著者は自分の主張を偏ったものかも知れないと謙遜している。そうせざるを得ない土壌があったということだろう。実際地球温暖化問題などない、と言う方々もいると聞いた。

もちろん学者さんが書いている本書は現象面、データ面で冷静に説明されている部分も多く、古生物の移り変わりや大量絶滅それぞれの現象や推定されている原因、現代の実情などとても興味深い。

大いに意識をかき立てられたが、同時に、でもおそらくはあまり近くない未来を憂慮して、現実に世界がどれくらい変われるのだろうかと、大きな不安と諦念も心中に生まれるのでした。

2022年12月13日火曜日

12月書評の7

息子がコロナ陽性で、在宅勤務。外出することのない数日間。通勤もないし楽ではあるが、昭和の気質か、出社しないとやはり落ち着かない。

いまはあれこれと面倒みてやるし、寂しくないけど、いずれ1人で耐えないかんくなる。と話す。何か感じてくれているだろうか。

◼️桜庭一樹 嶽まいこ「すきなひと」

桜庭さんの絵本は、心象的なストーリー。

最近図書館でよくいく絵本コーナーで見つけた本。作家さんが絵本の筋を書くのはよくあるようだ。でも、桜庭一樹がどんな絵本ストーリーをものすのかは興味があるよね。

夜の街でわたしは「じぶん」とすれちがう。

「すきなひとがいるからおいかけてる」。

わたしは、知らぬふりで先を急ごうとする。けれども、やはり気になり、引き返す。駆け抜けて行ったじぶんを、追いかけるー。

わたしは、少女で、じぶんとすれ違う相手はちょっとボーイッシュ。すきなひとなんていないのに・・と感じつつ、未来の予感と、どうしようもなく惹きつけられるものに従ったのだろう。いろいろなメタファーが考えられる。

さて結末は?期待通りのものに出逢えたのか、少女らしい夢想なのか。それなりに感じるものはあった。

ホント人生は走っている同士のすれ違い。あっという間に遠ざかる。どこで、なんというか、心を決めてかみつく、なんとなく流される、どちらもありだ、というかふつうにしている、と思う。

ふむふむ、なるほど、だった、かな?^_^

12月書評の6

◼️今村夏子「むらさきのスカートの女」

むらさきのスカートの女は憧れだった。

ある女が、商店街で、公園で、小さな街で有名なむらさきのスカートの女の存在感に惹かれている。

肩まで伸びたパサパサの髪とシミのある肌。さして若くはないが、むらさきのスカートの女は商店街の人混みの中でも決してぶつからず、すいすいと歩く達人。よく決まった店でクリームパンを買い、公園のベンチの決まったシート「むらさきのスカートの女専用シート」で食べてる。子供たちはじゃんけんして負けた者がむらさきのスカートの女に挨拶したり、肩をポン!と叩いて逃げるなどの遊びをしている。

商店街でインタビューしたら、誰もがむらさきのスカートのオンナを知ってる!と言うだろう。

観察者はむらさきのスカートの女と友だちになりたいと思い、家から行動から調べて、働いたり、働かなかったりするむらさきのスカートの女が長く職に就いていないタイミングを見抜き、ついに自分の職場への誘導に成功、同僚となることが出来たのだった。

正直このパターンは、どこかで読んだことあるような既視感を覚える。うーんどこだったっけ。

ある種、超然としているように見えたむらさきのスカートの女、いわば目の前の社会で動く生身の実態は、そして行く末は・・どこで語り手が接触するのかがポイントで、そしてここまでむらさきのスカートの女にこだわる理由がほんのりと醸し出されるようになっている。

惹かれるタイトル、話題の本。そこまで長くなくてさらりと読める。もう少し妖しくミステリっぽいかと思い込んでた。ちょっと予想を外されたかも。

ふむふむ、でしたね。

2022年12月11日日曜日

12月書評の5

【2022年、映画】

今年振り返りをしてみようかと思い立った。この後、展覧会編、建築探訪編、他遊び編など考えつきはするけども、コンプリートできるか不安。その時はまあええか、やね。

さて、劇場で観たのは15本。いちおう日付と場所もメモっている。

1.「偶然と想像」ピピアめふ1/3
2.「マクベス」シネリーブル梅田1/6
3.「友だちの家はどこ?」2/27
九条シネ・ヌーヴォ
4.「ナイル殺人事件」3/6西宮ガーデンズ
5.「桜桃の味」3/17九条シネ・ヌーヴォ
6.ワンセカンド 永遠の24フレーム」
西宮ガーデンズ
7.「シン・ウルトラマン」
西宮ガーデンズ
8. 「バスカヴィル家の犬」
あまがさきQ'sモール
9.「彼女のいない部屋」9/16シネリーブル神戸
10.「欲望の翼」9/16シネリーブル神戸
11.「線は、僕を描く」10/21西宮ガーデンズ
12.「やまぶき」11/12元町映画館 舞台挨拶、サイン会つき
13.「街のあかり」11/13パルシネマしんこうえん
14.「バグダッド・カフェ」11/13パルシネマしんこうえん
15. 「THE FIRST SLAM DUNK」12/3西宮ガーデンズ

「偶然と想像」は「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督のオムニバス。3つめの、同窓生に久しぶりに会ったとお互い信じて家まで行ったらとんだ勘違いだったという2人の女性の話がすごく良かった。仙台駅のロケーションが印象的だった。

2「マクベス」大好きなシェイクスピア。そこで会うのさ、マクベスに!四大悲劇の怪作。

3と5はイランのアッバス・キアロスタミ監督。良かったなあー。イラン映画はやっぱ好き。4はアガサ・クリスティーシリーズ。

6は「はつ恋のきた道」「あの子を探して」「活きる」などの巨匠チャン・イーモウ監督の最新作。小粒だったかな。いつものテイストは健在。

7「シン・ウルトラマン」懐かしい、ちょっと設定が変えてあるのも良かった。8「バスカヴィル家の犬」はシャーロック・ホームズ人気長編のオマージュ。サイト名やキャバクラ、使用人の名前等小技を楽しむ感じかと。

9「彼女のいない部屋」最初は家出と思わせて・・錯綜させるカンヌ出品作。
10「欲望の翼」はウォン・カーウァイ監督の香港映画リバイバル。あの頃の匂いがプンプンする。
11「線は、僕を描く」人気小説のシネマライズ。横浜流星の演技を初めて観た。水墨画が主題。
12「やまぶき」カンヌでトガッた作品の部門に出品した作品。セリフがヌーヴェルバーグ風?サイン会や舞台挨拶ってあまり行ったことなかったから楽しめた。
13以下はまあ、最近報告したので。

年内にあと2本とスラムダンクのリピート行きたいけれどできるかどうか。うーん😄

テレビで観たのは何本かな?メモってるのは以下。

「紅の豚」

「そして、バトンは渡された」

「竜とそばかすの姫」

「君の名は。」

「天気の子」

「鬼滅の刃無限列車編」

「紅の豚」は懐かしく、「そしてバトン」は瀬尾まいこの本屋大賞。「竜とそばかす」は2回めも号泣。いま折に触れ劇中歌聴いてたりして。鬼滅は、実は1回めの放送は爆睡してしまい、今回初めてこんな話だったかと認識した。

「君の名は。」は3回めだったけどやっぱおもしろいなと。

「ジュラシック・パーク」や「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「クール・ランニング」「ハリー・ポッター」も息子とテレビで観た記憶があるが記録してない。

今年は数を見た方かな。見逃した新作もけっこうある。また来年も楽しめるといいなと思ってます。

◼️ Authur Conan Doyle 「The Reigate Squire(ライゲートの大地主)」

ホームズ原文読み27作め。第2短編集「The Memoirs of Sherlock Holmes(シャーロック・ホームズの回想)」に収録されたお話です。

なかなかミステリーらしく、また気も利いている、おもしろい展開の物語です。ドイルは自選12作品なかで12位に選んでます。「まだらの紐」「赤毛組合」「ボヘミアの醜聞」「青いガーネット」「六つのナポレオン」などなどキラ星のような56の短編の中にあって、確かにコンパクトな話ながら、ホームズらしさが出ています。

さてさて、1887年の春、ホームズは

the Netherland-Sumatra Company and of the colossal schemes of Baron Maupertuis
「オランダ領スマトラ会社にからんだモーペルテュイ男爵の大陰謀事件」の激務のため、フランス・リヨンのホテルで倒れたとワトスンに連絡が来ました。

幸い深刻な病状ではなく、ワトスンはベイカー街の部屋にホームズとともに帰ります。

3カ国の警察が失敗した事件を解決し、ヨーロッパ随一の詐欺師をあらゆる意味で出し抜いたことで、

Europe was ringing with his name and when his room was literally ankle-deep with congratulatory telegrams

ヨーロッパ中がホームズの名声で沸き返り、部屋は祝電で文字通りくるぶしまで埋まりそうでした。しかし抑鬱状態に陥ったホームズを、ワトスンは田舎での静養に連れ出します。

ロンドンから南西、サリー州のライゲートへ。ワトスンとアフガニスタンの戦地で一緒だった、独身のヘイター大佐の屋敷に世話になります。

着いた日の夜、銃器室でくつろいでいた時に、大佐から、近くで最近強盗があったと聞かされます。

"No clue?"「手がかりはないのですか?」

"Was there any feature of interest?"
「興味を惹く特徴はありませんか?」

職業病の名探偵。強盗はアクトンという、地域の有力者の老人宅に押し入った、書斎を荒らし、結局本の「ホメロス」、メッキの燭台2つ、象牙の文鎮1つ、小さな晴雨計、麻紐の玉を盗って帰った、犯人はまだ捕まっていない、ということでした。事件について述べようとしたホームズにワトスン、

"You are here for a rest, my dear fellow. For heaven's sake don't get started on a new problem when your nerves are all in shreds."
「あんた休みに来とっとばいホームズ。頼むけんさ、神経がボロボロの時は新しか事件に首を突っ込まんときー」

博多弁です。あしからず。
ホームズはshrugged his shoulders肩をすくめ、この話題は終わります。

ところが翌朝、

"Murder!"

カニンガム老人の家で殺人があったと使用人が知らせてきました。

"Who's killed, then? The J. P. or his son?"
「誰が殺されたんだ?治安判事かそれとも息子か?」

どちらでもなく、the coachman馭者のウィリアム・カーワンが

"Shot through the heart, sir, and never spoke again."
心臓を撃ち抜かれ、即死でした。

とりあえず朝食を食べながら、犯人はアクトン宅に入った強盗と同一かなどと大佐がこぼすと、ホームズはこんな田舎で強盗団が数日のうちに2軒も押し入るなんて不自然だと意見を述べます。会話の中で、アクトンとカニンガムの家がこの付近では突出して大きく裕福であること、さらに両家が土地をめぐり裁判で争っていることが大佐から説明されました。

"All right, Watson, I don't intend to meddle."
「だいじょうぶだよワトスン。おせっかいは焼かないから」

ところが世間はほっときませんでした。舌の根も乾かぬうちに地方警察のフォレスト警部が訪ねてきて

"We thought that perhaps you would care to step across, Mr. Holmes."
「一緒にお越しいただければと思ったのですが・・」

ホームズは笑いながら

"The fates are against you, Watson,"
「運命には逆らえないねえ、ワトスンくん」

こういうとこは意訳の仕方だと思うのですが、逐語訳ではなく、あえてこうしてみました。もしくは「運命ってこんなもんだよね、ワトスン」とか?私が使っている文庫では
「運命は君に味方していないようだね」となっています。

ともかく捜査に乗り出すことになります。警部はアクトンの件と同一の犯人という前提のもと、目撃証言を並べます。

夜中の12時近くの犯行で、老カニンガムは寝室の窓から、息子のアレックは屋敷の通路から犯人を見た。

助けを呼ぶ声を聞き、アレックが駆け降りてきた時、裏口のドアの外で馭者と犯人が格闘しており、やがて犯人が拳銃を撃ち、すぐに庭を横切って生垣を越え逃げて行くのを目撃したとのこと。老カニンガムも男が道に出るのを見たとのことでした。

警部はウィリアムはある紙片を握っていたと、ホームズに見せました。

'at quarter to twelve
learn what
may'

どうやらもっと大きな紙からちぎり取られたようでした。約束があったかのように読めました。警部は、実はウィリアムは強盗と通じていて、カニンガム邸に押し入る手引きをしたが、仲間割れした、という仮説を述べます。たしかに、そんな深夜にウィリアムが家を出てうろついていた理由になりますね。

"These are much deeper waters than I had thought."
「これは思っていたよりもかなり底が深い事件だ」

ホームズは紙片を食い入るように見てつぶやきます。警部は、名探偵が食いついたのに満足だったのか微笑します。ホームズの瞳には、以前のような輝きが戻りました。ホームズと警部は、ワトスンとヘイター大佐を残して、捜査に出かけます。

1時間半して警部だけが戻り、みなさんとカニンガム邸に行きたいというホームズの要望を伝えます。ちょっと当惑ぎみのinspector。

"Between ourselves, I think Mr. Holmes has not quite got over his illness yet. He's been behaving very queerly, and he is very much excited."

「ここだけの話ですが、ホームズさんは病気から完全に回復なさってないようですね。とてもおかしな行動をされますし、非常に興奮されています」

ワトスン、いやいや、それフツーだから、いつものこと、と返します。おかしい。

ホームズは犠牲者の死体を検分、犯人が逃走時に抜けた生垣を調べたと、大佐とワトスンに話します。手紙の紙片の残りの部分は、おそらくはそれが有罪の決め手となるから、誰かが持ち去った、しかし犯人は被害者の手にちぎられた紙片があることは知らないだろう、と。

ウィリアムはきのうの午後郵便を受け取っていたことを、警部は突き止めていました。

"Excellent!"

It is a pleasure to work with you.
「君と仕事ができるのは楽しいよ」

ホームズはフォレスト警部の肩をたたきながら上機嫌に褒めます。ホームズは各種の事件でスコットランドヤードや地方警察の警部と仕事をしますが、敵意をむき出しにする者も、あなたは理論家、私は実務家、とあざける者もいます。しかしおおむね、地方の警部や若い警察官は優秀に描かれてることが多いな、という印象です。

といううちにカニンガム屋敷へ。ここが現場で、あそこがアレックが見ていた裏口のドア、あの窓に老カニンガムがいた。アレックは駆け出し、ウィリアムのそばに膝を下ろした、地面は固く足跡はない、などと説明しているところへカニンガム親子がやってきます。

老カニンガムは目つきの鋭い人、息子アレックは明るく微笑んだ派手な服装、まあ好対照です。

"Still at it, then?"「まだ調べてたんすか?」
"You don't seem to be so very quick, after all."
「結局、そんなに手際がいいというわけではなさそうですね」

息子カニンガム、なかなか挑発的です。訳によっては頭の回転が速くない、とかもあります。

ホームズはかるーくいなします。老カニンガムが手がかりが全くないから時間が欲しいでしょうな、と言うと、警部は

"There's only one,"「1つだけあるんですよ」

その時、ホームズの顔は突然ものすごい表情になります。目は裏返り、苦痛にゆがみ、前のめりに倒れてしまいました。運ばれて、大きな椅子で休み、しばらくしてようやく回復します。

"I am liable to these sudden nervous attacks."
「時々こんな神経の発作を突然起こすんです」

ホームズは最近重い病気から回復したばかりでして、と言い訳し、ところでウィリアムは賊が押し入る時ではなく、押し入った後に出会ったのかも、確かめたいと言い出します。

どちらも起きていた時間で何かあったら気づくでしょう、という老カニンガムが意見を述べると、経験ある強盗が、ランプがついていて家人が何人も起きてるのが分かっているのに入ったのはおかしい、と反論します。

まあまあともかく言う通りにしましょう、と老判事も折れます。

"In the first place,"
"I should like you to offer a reward "
「まず初めに、懸賞金を出していただきたい」

文書は簡単に走り書きで作っておきました、とホームズは紙と鉛筆を手渡します。しかしー、
12時15分前のところを、1時15分前と書き間違えていました。カニンガムに指摘され、ホームズはまごつき、ワトスンは胸を痛め、警部は眉を上げ、アレックはゲラゲラ笑いました。判事は間違いを訂正書きしてホームズに返します。

一緒にこじ開けられた、というか破壊された錠を見て、家の中に入ります。使用人は、普段は10時には寝るとのことでした。屋内を検分する時、親子はいくぶんイライラしていました。それでもアレックの部屋を見た後、老カニンガムの部屋へー。ホームズは、オレンジの入った皿とガラスの水差しが置いてある台を突然ひっくり返します。ガチャーン!そして、

"You've done it now, Watson,"
「やっちゃったね、ワトスン」

ホームズが意図あって自分のせいにしたことが分かったので、ワトスンくんオレンジを拾い始めます。

ふと気づくと、ホームズがいません。アレックと父親は探しに出ます。ワトスンと警部、大佐は残されました。次の瞬間、

"Help! Help! Murder!"

「助けてくれ!助けて!人殺し!」

ホームズの切迫した声でした。みなは、声がしたアレックの部屋へ行きます。そこでは、カニンガム親子がホームズを押さえつけて、息子は両手で喉を締め、父親は手首を捻り上げていました。

ようやく親子をホームズから引き離し、ホームズが立ち上がって言うことには、

"Arrest these men, Inspector,"
「彼らを逮捕しろ、警部」
"On what charge?"
「何の容疑です?」
"That of murdering their coachman, William Kirwan."
「馭者のウィリアム・カーワン殺害容疑だよ」

2人の顔には罪を自白しているかのような陰鬱、凶悪な表情が浮かんでいました。警部は半信半疑。しかしー

"Ah,would you? Drop it!"
「あっ、何をするんだ?捨てろ!」

その時、アレックが拳銃を取り出して撃ちそうになったのでその手を咄嗟に打ち付けます。転がった拳銃。

"you will find it useful at the trial. But this is what we really wanted."
「その拳銃は法廷で役立つだろう。しかし、本当に欲しかったのはこれだった」

ホームズの手には、被害者が握っていた紙片、その残りの部分がありました。

大佐とワトスンを先に返し、ホームズは残りました。そして昼食の頃、アクトン氏とともに大佐邸に戻ってきました。種明かしの時間です。

"I am afraid, my dear Colonel, that you must regret the hour that you took in such a stormy petrel as I am."

「大佐、こんな事件を呼ぶ客に時間を使ってしまって、後悔してらっしゃらなければいいのですが」

stormy petrelはもめごとを起こす人、という意味らしいです。もちろん大佐はとんでもない、あなたの捜査を見たのは特権だ、と答えます。

さて、まずホームズは、犯人がウィリアムを撃って直ちに逃げたとすると、被害者の手から紙を奪ったのは射殺した男でなく、アレックということになる、というところからスタートしていました。

そして当の手紙の紙片の文字を見て、

"there cannot be the least doubt in the world that it has been written by two persons doing alternate words."

「これは間違いなく、2人の人間が交互に一語ずつ書いたものです」

この特徴を一瞬で見てとります。よく見てみると、tの字は力強い筆跡と弱い筆跡の2つがあることが分かります。強い筆跡の男が先に余白を空けて書き、弱い筆跡の者が後で埋めていったので、窮屈になっている単語もありました。強い筆跡が首謀者である、また筆跡により書いた人の年齢は分かるようになっていて、力強いのは青年、もう一方は年配、と言える、さらにはこの2つの筆跡には共通点もあり、それは血縁関係を示しているとのこと。その他の専門的な点もカニンガム親子が書いたのではという印象を強めるものでした。悪事に手を染めるのに同等の責任を示したものとホームズは推理します。

死体の検分では、服に焦げ跡がなかったことから4ヤード以上離れたところから撃たれたもので、格闘中に発砲したという証言は否定されます。犯人は街道へ逃げたと親子が口を揃えて言ったその地点は幅の広い側溝があり、底がぬかるんでいました。その辺りには足跡がなく、ということは親子の証言はうそで、押し入った第三者の強盗なんていないということをホームズは確信しました。

この犯罪の動機を考えるために、アクトン邸への、珍妙なものしか盗んでいかなかった強盗の理由を考えました。この犯人は、カニンガム家との訴訟に重要な書類を盗むために書斎に押し入ったのではないかー。アクトン氏は請け合いました。ただおそらく標的となった書類は弁護士の金庫の中でした。

おそらく強盗はアレックが首謀者で、何も見つけられず、泥棒の仕業に見せかけるために荒らしてテキトーなものを盗んで行ったことがはっきりしました。せめてお金でも盗ればよかったものを・・なんて思わないでもないですね。

重要な、手紙の残りの部分については、おそらくアレックのドレッシングガウンのポケットにあると考えられました。入手することが必要でしたが、情報を漏らすと処分を急がれてしまう、警部がカニンガム親子の前で紙片のことを口にしようとした時、

"when, by the luckiest chance in the world, I tumbled down in a sort of fit and so changed the conversation."
「まったく幸運なことに、発作が起きて私は倒れ、話題をそらすことが出来たのです」

ホームズが探偵になったことでイギリスは最高の俳優を失ったとは、どこで出てきた言葉だったか・・とっさの発想にはワトスンも感心。

そして懸賞金の文書をわざと間違えて、老カニンガムにtwelveという単語を書かせ、紙片のtwelveと比べられるようにしたのでした。

"Oh, what an ass I have been!"
「ああ、なんて僕はばかだったんだ!」

ワトスンが叫びます。胸を痛めさせて悪かったとホームズが詫びます。

さらに息子の部屋でドレッシングガウンを見つけたので、次のパパカニンガムの部屋でオレンジ・水差しが載った台をひっくり返し、みなの注目が集まっている時にこそっと息子カニンガムの部屋に戻り、ドレッシングガウンの手紙をゲットしたところに親子が踊りかかってきたというわけでした。

犯罪の動機について、老カニンガムは従順に話したとのこと。親子でアクトン邸を襲撃した時、ウィリアム・カーワンはこっそりついてきていて、バラすぞと彼らをゆするようになりました。

"Mr. Alec, however, was a dangerous man to play games of that sort with. "

「しかしアレックは、このような取り引きをするには危険な男でした」

この地方の強盗騒ぎを利用してウィリアムをもっともらしく葬り去るというのは天才的な思いつきでした。こうしてウィリアムを誘い出し射殺したのです。手紙の全文は

「もしお前が1人で東門に12時15分前に来れば、とても驚くようなことを教えてやるぞ。お前にもアニー・モリスンにもたぶんとても役に立つことだ。だがこのことは誰にも話すんじゃないぞ」

というものでした。これで事件は終了です。

さて、冒頭にも書いたように、ホームズものらしさがよく出た短編です。最初にいかにもに見えた形からのどんでん返し、見抜いた理由は証言のディテールと手紙の不自然な文字。しかも、病気を装ったホームズの完璧なお芝居とウィットが効いていますね。やっぱちゃめっ気がないと、ですね。

物語のスケールは大きくはないし、証拠をストーリーに合わせていて、やや都合良すぎる気もするからか、人気投票ではそこまで上位に来ることはないのですが、良質なナラティブだったと思います。

ホームズの最後のセリフで締めにしようかと。

"Watson, I think our quiet rest in the country has been a distinct success, and I shall certainly return much invigorated to Baker Street to-morrow."

「ワトスン、田舎での静養は大成功だったよ。明日にはきっと大いに元気を回復してベイカー街に戻れるだろうさ」

12月書評の4

久しぶりのテレワーク。なんとか片付けて、PCスペースを作る。まあ今の時代これもありさととりあえず。あんまりテレワークって好きになれないんだけどね〜。

◼️夏川草介「本を守ろうとする猫の話」

帯の世界35カ国以上で翻訳出版、というふれこみにつられた。もちろん、猫と本にも。

夏川草介氏、渾身の一作かなと。巻末の「解説にかえて」にいまの世相と本に関する矜持がつづってあり、思い入れの強い作品のようだ。

「閉じ込められた本を助け出さねばならぬ、わしに力を貸せ」

2人暮しの祖父が亡くなってしまい、高校生の夏木林太郎は祖父が営んでいた古書店に遺される。叔母に引き取られる話が決まり、学校にも行かなくなる。そんな時、人語を操るトラネコのトラが現れ、力を貸してくれと上から目線で頼み込む。

林太郎はトラに導かれるまま、店の奥、行き止まりのはずがどこまでも続いている通路へ向かい、光に包まれる。着いたところには、1か月で100冊の本を読み、テレビやラジオに引っ張りだこ、既読の5万冊の本をガラスのケースに入れて保管している男がいたー。

全部で4つある話、2つめからは吹奏楽部にして小学校からの知り合い、学級委員長の柚木沙夜が不思議な世界へ同行する。

さて、本を閉じ込めている男、本を切り刻んでいる男、本を売り捌いている男、それぞれの話、そして最後は?

本を大事にしている、本への愛情、というと、絵本作家のヨシタケシンスケの作品「あるかしら書店」や北村薫氏の一連の著作を思い出す。こちらも世界で65万部突破のベストセラー、と帯に出ていた。

ストーリーとしては難解なことはない。全世界に本を愛する人はたくさんいるのは分かるし、個人的には猫も売れるファンジーの必須アイテムかも?なんて思う。

本文中でたびたび出てくる本とは、そのくだり。猫はおじいちゃんの思想を受け継いでいるかのように見える。本と読書について深く考察している部が本読みにはこたえられないのかも。もちろん本の迷宮は憧れ、巨大なビルや豪奢な屋敷にいっぱいの本、さらに本のウォールの通路、やっぱ建造物は大きく、らせん階段や迷い道は長くなくっちゃねー。想像を広げるのが楽しい。

物語の中では世界の名作が多く紹介されている。大半は読んだことないっす。林太郎の古書店には学年トップの成績でバスケ部、裕福で出来る子、ぶっきらぼうだが意外といい奴で林太郎を気にかけている秋葉先輩が常連で通う。秋葉が読んでみたいという、コンスタン「アドルフ」は探してみようかと思う。

名言、名セリフも出てくる。スタインベックの

「頭が鈍くたっていい奴はいる。本当に頭が切れる人に、いい奴はめったにいない」

には深く頷いてしまったりして。まあ頭の切れる人は相応にずる賢くもある、決して悪いこととは思わないけども。

本読みは、本について、読書について考える。自分は読書の何が好きなのか、誰が好きなのか、確固としたものもあれば、変わっていくものもある。年月を経て、整理された嗜好もあれば、バラなところも残されている。同じ作家さんばかりをぐるぐる読んでるな、となぜか落ち込むこともあるし、初めて読む作家の作品やジャンルにはワクワクが抑えきれなかったりする。

小道具と猫、筋立ては嫌いではないが、実はめっちゃ響くというほどではなかったかな。でも楽しんで読めた。目に見える光景、アニメや実写にするとおもしろそうだ。

12月書評の3

なんか月に吠えたい気分で夜空を見ると今年最後の満月は霞のような雲の向こう。春っぽいな😎

サッカー⚽️終わって気が抜けた。前回大会粘り強く決勝まで勝ち上がったクロアチアって実はかなりヤバい相手だったのですね。サッカー選手なら誰でもPK戦はしたことあるだろうけど、ワールドカップ決勝トーナメントでの経験はやはりまったく違う。クロアチアには近々に充分なアドバンテージがあった。

前回大会の試合運びと幕切れといい、分かってるはずのステップを4年に1回、一つひとつしか学べないのがワールドカップということかな。でもね、日本が2010年ワールドカップで身につけた、身体を張る文化は活きてるし、それに、ゴールしてみせる力はついたよね。しかも相手はドイツにスペイン、そして勝ってみせた。この堂安や三苫の姿を見て、またサッカー少年や観る人も変わってくる、きっと。

4年間の旅の終わり、とはトゥルシエ元監督のフレーズ。総決算で、終わる。ここまでは大会終わりで監督が交代して、そのたびサッカーがガラッと変わったりしてたけど、続投しそうやね。ともかく今回も、いいもの見せてくれて、ホントに熱くさせてくれてありがとう、日本代表。

12月は楽しみが多い。横浜ビーコルの河村勇輝はリーグ32、34得点ときて、きのうの天皇杯はスリー絶好調で36得点。観てたけども😳スゴすぎる。🏀は次がインカレの週末、その次の週末が皇后杯、そしてウィンターカップ、大晦日までリーグ戦、正月4日にはまた天皇杯。

映画も観たいの多いし、第九と星野道夫のダーウィンが来たと、なんといってもM-1グランプリ!

ほんで次週は1年に一度のお楽しみ中のお楽しみ、ふたご座流星群だー🌠

下の2枚はおとといの接近中の赤い火星と月とのランデヴー。

練乳入りのいちご大福🍓で月見でもしよう。

◼️ 長野まゆみ「螺子式少年(レプリカキツト)」

90年代の作品はまあ飛ばしてること^_^そこが好きだったりする。少年と幻想SF。

宮沢賢治的だったり、兄弟や男同士の相剋を描いたり、ボーイズラブだったり、特にこの時期変幻自在だという気がする。そして長野まゆみを特徴づける1つの細目が、少年SFだ。

一緒に住む百合彦と従兄弟の葡萄丸、そして猫のカシス。家政婦さんはいるものの、両親とは暮らしていない。百合彦の父は月へ行きもう5年会っていない。葡萄丸の父親は行方知れずになっている。

友達の野茨が百合彦を宇宙港(エアロドーム)に呼び出す。チャコールグレイの眉、黒水晶(モリオン)の睛(ひとみ)、白陶(ビスク)の額、嫌いな母親が、野茨そっくりのレプリカ・キットとともに庭園(サテライト)に戻るのだというー。

この後、野茨そっくりのレプリカが大量に現れたり、葡萄丸の目が金色になったり、彼らの教師が怪しい動きをしたりする。

言葉の使いようも好きだし、少年たちの触れ合いも、猫の具合も、設定も楽しい。親に束縛されず自由な彼ら。しかし友達に、親に、葛藤がないわけではない。そしてポイントのレプリカ・キット。幻想的に、近未来的に怪しさが迫る。

「暮鐘はカネット瓶の留金の音。色褪せる群雲は辰砂(しんしゃ)の赤に染まり、キウィの樹檣(じゅしょう)に黒蝶の影がゆれる。夜天に光る真珠ピン。デネボラ、アルクトゥールス、スピカ、コロ・カロリが光りはじめた」

いいですねー。たまにはこういうの読みたくなる。

長野まゆみは「鳩の栖」という作品を最初に読み、純文学風に兄弟の葛藤を描いていて好感を持った。「東京理科少年」や宮沢賢治っぽい「少年アリス」、その中間の「カンパネルラ」には感動した。もうどれ読んだか分からないくらいこの河出文庫版、たくさん読んでいる。少年SFものでは「天体議会」も良かった。友人によれば、長野まゆみは教科書にも採用されているとか。また純文学風のも読みたく。

楽しい読書でした。

2022年12月6日火曜日

12月書評の2

晴れた金曜日、月と木星のランデヴー。最接近翌日の火星も赤く明るい姿。あちこちすっかりクリスマス。

日曜日は🏐インカレバレーの日。5連覇中の早稲田大を準決勝で破った筑波大が、決勝でも東海大を下し優勝。選手たちにとっては在学中初めての優勝となった。上位の大学はだいたい春高バレーオールスターズ。早稲田のオリンピック代表大塚は洛南、対角のアタッカー水町は鎮西のエース、早稲田のセッター前田、日体大の一条は清風と3位決定戦から楽しかった。

決勝戦が終わった後、筑波のエース・キャプテン垂水と、東海のセッター・キャプテン山本という洛南の盟友が健闘を称え合っていた。メダルをキャプテンがかけてあげるのはやっぱりいいよね。

合間に🏀Bリーグ、宇都宮vs横浜ビーコル。昨日敗れて落とせない宇都宮は序盤リードを奪う。しかし河村を中心に盛り返す横浜は3Qで追いつき、4Qも緊張感あふれる激戦。残り1分を切って横浜は5点のビハインド、しかし、スリーを入れた河村は、さらに残り0.5秒、相手ディフェンスのマークに難しい体制から逆転のスリーを決めてみせた。きのうキャリアハイを更新する32得点だったのにきょうは34得点。す、すごすぎる。応援しがいがあるというものだ。これで勝率5割。今後に大いに期待が持てる内容だった。

というふうに、屋内ボールゲームを楽しんだ日曜日。あすは⚽️クロアチアと決戦だー!

N響の日曜の番組はマーラー5番。この運命の動機的なフレーズを持つ第1楽章に、明日へと想いを飛ばすのでした。好きな曲。いい日だったな😄

◼️いせひでこ「大きな木のような人」

パリの植物園に通う少女。名はさえら。
木を観にお出かけしたくなる。視点を変えてくれる絵本。

マイフェイバリットのいせひでこさんの絵本は、月に1冊読みたく思っている。前に読んだ「ルリユールおじさん」には、植物を愛する女の子・ソフィーが出てきた。その続きのような物語。大人になったソフィーも出演している。

植物園には毎日のように通ってスケッチをしている女の子がいた。研究室勤めの学者が名前を訊くと「さえら」と答えた。日本人らしい。

立ち入り禁止の敷地に入ったりモニュメントで遊んだり、職員にとってはトラブルメーカーだったさえらは花を引き抜いて捕まってしまい、学者が諭す。2人はゆっくりと話して仲良くなり、植物園おなじみのメンバーとなっていく。学者が同僚のソフィーと相談して、さえらにあげたひまわりの種。

ーなんてきれいな木。
ねえ、わたしのひまわりも、
あなたのように大きくなると思う?

さえらは育てる。エメラルド色の芽が出て、ふたばに分かれ、やがて美しい花を咲かせる。

しかし別れは訪れた。夏の終わり、日本へ帰るさえらは、書き溜めたスケッチブックを公園に残していったー。

喪失と、残ったもの。ストーリーの流れはシンプルだ。しかしさまざまな木花が本当に美しい。「ルリユールおじさん」でソフィーが好きだった樹齢400年のアカシアの大木も、250年のプラタナス、えんじゅ、メタセコイアなどが印象的に配される。大きく、こんもりと葉を蓄えた巨木は静かに佇む守り神のように人間を包む。各地の巨人伝説さえ思い出す。そして、決して大きくは描かれないさえらのひまわり、木と葉の描写が多い中で、その小さな彩りがどれだけ鮮やかなことか。

「ルリユール」の前に読んだ「チェロの木」は弦楽器製造職人の話。でも楽器に使う木材への愛情も伺えた。植物、本や楽器の手製造、そして自らも奏するチェロ。いせひでこさんの愛情と、大げさに言えば生きていく上で感性が自ら求めてしまうものへの思い入れが、まさに筆に乗っているような気がする。

あとがきに、パリには樹齢400年のアカシアが2つあり、「ルリユール」で描いた市街地のものと、この植物園で大切にされている樹だそうだ。パリの植物園に通い、絵を描く。自分をさえらに仮託、投影した作品だとも言えるだろう。

最近読んだ幸田文の「木」というエッセイ集でも、木、そして木材の生命感が活き活きと描かれていて感心したものだ。

最近はモダンな名建築に凝っていてよく観に出かけている。名木を観に行く旅もおもしろそうだ、なんて思ったりする。

さえらが残したスケッチブック、冬のモノトーンの公園に、春夏の花の彩りが咲く。見事な物語だ。

2022年12月4日日曜日

12月書評の1

きのうは映画「スラムダンク」公開の日。平日のどこかで行こうかと考えてたところ、地元のシネコンが4つのスクリーンでやってて、多くないシアターもあったし調べてるうちに猛烈に観たくなった😎ので初日初回行ってきました🏀

これは、あらすじも、対戦相手さえもまったくオープンにされていない秘密主義の事前PR。この日映画館は、なんと7:30にオープン、1番早いスクリーンでも9:10から。グッズ売り場が行列してた。私の観終わり時にはすでに売り切れ多かったっす。

いやー堪能🥹涙、🤭笑い、😌ノスタルジーと、バスケ🏀やってた者は分かる!っていう感覚の表し方も相変わらず上手くって、もう大満足でした。終演後、拍手してる👏お客さんもいました。

スラムダンクで、初めての追い、ってやつしちゃって、そんとき初めてのIMAXレーザーあるかも😆😆

帰ってきてBリーグ宇都宮vs横浜。

横浜ビーコルはPG河村が32得点13アシストというチョー大活躍で、昨季のチャンピオン、これまで14試合してなんとゼロ勝、しかもここまで5連勝中の宇都宮ブレックスに激勝、クラブ史上初の白星を上げた。

河村すげえー😳もし連勝できればビーコルは勝率5割。かつて弱かったチームは変わってきている。あす宇都宮は河村対策をしてくるはずだ。続けて観てるとおもしろいな。

◼️ウィリアム・シェイクスピア「冬物語」

冬の初めのThe Winter's Tale、沙翁晩年のロマンス劇。

かつてフランス映画好きの友人に薦められて観たエリック・ロメール監督の「冬物語」。さほど波のないストーリーだったけども、妙に印象に残っている。シェイクスピアを読むようになって知ったこの作品。いわゆる「ロマンス劇」というジャンルに入るとか。さて、さて。

冬のシチリア。王のレオンティーズは親友のボヘミア王ポリクシニーズを招いていた。滞在を延ばすよう夫妻ともどもでポリクシニーズを引き留めるシチリア王と妃。しかしレオンティーズは妻ハーマイオニのポリクシニーズへの接し方を見て、突如激しい嫉妬に駆られ不義を確信する。

王はボヘミア王を毒殺するよう腹心の貴族カミローに命じるが、王妃らの潔白を信じるカミローはペリクシニーズとともにボヘミアへと脱出する。王は王妃が出産した女の赤子を貴族アンティゴナスに命じ捨てに行かせる。

レオンティーズはハーマイオニを捕え、ボヘミア王と不義を犯し、さらにボヘミア王とともに逃げたカミローと共謀して自分を殺そうとした大逆罪だとして起訴、公開裁判で自ら責めつける。潔白を主張する王妃と信じず周囲の諫言も受け付けない意固地な王。しかしデルフォイのアポロの神殿から神託が届き、ハーマイオニの無実、ボヘミア王、カミローの潔白の判断を伝える。

王と王妃の子、マミリアス王子は母を案じるあまり死んでしまい、王妃もまた息子を失ったショックで亡くなる。

ここへ来てレオンティーズは自分の過ちに気がつき激しく内省するものの時すでに遅し。物語は16年後に飛ぶー。

ロマンス劇というのは、有り得ないことが起きてしまうという特徴があり、この「冬物語」はその代表的な存在のようだ。

だいたい前段を読んだら後の方で何がくるかが分かる。捨てられた赤子の姫・・。それを分かっている面がありつつだまされて喜ぶ、その快楽がいわばロマンスの喜びなんだそうだ。ふむふむ確かに、ある意味予想通りだが、同じロマンス劇の「テンペスト」は魔法と怪物が出てくる話だしね。

そして、もう一つ、大きな奇跡が来る。ここは舞台での効果がおもしろそうだ。どう演出してるのかなと。

物語の序盤、いきなりレオンティーズが疑惑の塊となり、周りのいうことも聞かず異様に突っ走り、すぐにうなだれる。よく似た形の「から騒ぎ」の不実は仕掛けられた陰謀だった。展開が早いのは好みではあるが、チョー独りよがりで上がったり下がったりはちょっと軽く見えるかな。

冬に悲劇があり、時を経て、おそらく夏の初めに奇跡が起きる。羊の毛刈り祭りというのが象徴的にも思える。冬物語は、再生の物語。

映画のほうの冬物語は、夏の出会いで妊娠した女が、出産して子育てをしながら父親の男との再会を待つ話。ラストがシェイクスピア・ロマンス劇の特徴どおり、でも物語の進行の季節が逆かな、おもしろい、と思い返す。ただのワンナイトラブてではなく彼が間違った住所を女に教えた、というあたりも取り違えの好きなシェイクスピアに似てるかな。

「ハリー・ポッター」の主要キャスト、少女ハーマイオニーの名前はこの作品から来ているとか。

独特の韻文のセリフは口上はもはや「シェイクスピア節」としか言えないものだろうか。おなじみの、寝取られ亭主に角が生える、という言い回しも好ましいことかったりする。ラストは個人的よきセリフ2つで。特に女性の口上はこの時代観客の男女双方の胸に爽快に、魅力的に響いたのかも知れない。

ボヘミア王ペリクシニーズ
「息子なしには夜も日も明けない、笑いの源、心配の種、いま無二の親友かと思えば次の瞬間不倶戴天の敵だ。私の居候、軍人、大臣、何にでもなる」

ハーマイオニ
「私たち女は優しいキスひとつで一千マイルでも走るのよ、拍車を入れられたら一マイルがやっとだけれど」

2022年12月1日木曜日

11月書評の12

11月は14作品。2022年は168作品となった。まあ180までがんばろうかね。

モロゾフのプリンにラ・フランス。香りがかぐわしい!急に寒くなって、夜の風景もにぎやかできれいさが際立つ。

ワールドカップは大歓喜と墜落、浮き沈みの激しいテレビ観戦。きょうは運命のスペイン戦。うんめいをかけるあいてがスペインである。胸がつぶれそうだ。どうなるんだろう。

攻められても撃たれても耐え抜き、追い込まれて追い詰められてもあきらめず、最後、チャイコフスキーの交響曲5番の第4楽章のラストのように勇壮な音楽の中、ビクトリーロードを歩いてほしい。

4時からのゲーム。まずは寒い早朝に起きるべく早寝しよう。



◼️川端康成「女であること」

シーンの作り方、心のうちの描きようはさすが。今回も、感じ入った。

がっつりとした小説を読みたくなって、川端康成で未読だった670ページの大作を読みこんだ。川端の小説はなにかこう、読む方を興にのらせ、夢中で読ませるものがある。

タイトル通り複数の主人公的な女性たちが登場する。歴史的事件が絡むでもなく場面が移り変わっていく中で、エピソードの設定と心の描き方はすばらしい。

40代の市子は弁護士の夫・佐山と東京の多摩川近くに暮らしている。子はおらず、家では父が殺人で後半中の娘、妙子を住まわせていた。市子の学生時代の友人、音子の娘で佐山夫妻も面識のあるさかえが、大阪から家出してくる。音子に頼まれ、さかえも一緒に暮らすことになった。

多感で美しく、関西弁で思ったことをはっきりと口にするさかえは、周囲を振り回す。佐山と市子に一途な憧れを抱き、妙子を嫌う。

感情的でエネルギーに溢れるさかえの若々しさに、佐山も市子も影響される。さかえは佐山の事務所で働くようになった。一方妙子は、友人千代子に紹介された苦学生・有田と恋仲になり、やがて同棲する。市子は、さかえと、さかえに惹かれている佐山に気を揉み、さらにかつての恋人である清野と再会、さかえの幼なじみの光一にも慕われ、心が乱れる。


危なっかしい若い2人の行動と、言葉、表情、身体、唇までもがハイソで美しく面倒見のよい市子の心に、反射する。穏やかで仲の良い佐山と市子の有りようへ、さざなみがやがて大波となって飛沫を散らす。そして物語は帰着、喪失、そしてひとつの結晶を見る。いいですね。長いストーリーのラストも余韻が残る。

朝のコオヒを飲む佐山。
「その時、妻の市子が、なにをおいても、そばにいてくれることが必要だ。妻のところから、一日の仕事に出てゆくと、それで感じられる」

「胸をかき合わせながら、肌にふれた感じがちがうので、手もさすってみた。なめらかにうるおっている。
春のはじめの女の朝寝は、とろけるように甘くて、幸福が来そうに思える。
まだ夫は、妻の肌から冬が去ったことを、知らないで過ごしている」

この辺が川端らしくてなんとも言えず好ましい。「それで感じられる」は、後も前もない。いまなら校正でひっかかったりするのだろうか。後段は、北村薫、恩田陸あたりでも出てきそうな感じ。通常の仕草と、艶かしさと、ちょっとベタな気味も匂わせる、大人の感性。


清野と出会うシーン。

『小母さま、どうかしやはりました?お顔色が悪いわ。』とさかえが言った。
そのさかえの目が、ういういしく澄んで、ひとみのきれいに光っているのが、不意に市子のかなしみを誘った。(中略)
この敏感な娘がそばにいるのは、堪えられないほどだった。

さかえにかつての自分の若いころを見る市子。ノイズのようにさかえの存在が心理に刺さる。

家出したり、交通事故に遭ったり、それなりに事件は起きるが、モダンな風味の日常の暮らしの中の心根を綴っていくこと、それがシーンを繋ぎストーリーを作り、言葉で表せないようなものを浮かび上がらせ響かせてくる。

1956年、昭和31年の作品。特に戦後しばらくしてからの川端の小説は「日も月も」「美しさと哀しみと」など恋愛に想い乱れる女性をじっくりと描いたものに佳作が多いと思う。「伊豆の踊り子」「雪国」など比較的若い頃に書いた作品とは一線を画していて、これは川端が持ついくつかの特徴の1つだ。今回長いこともあって、市子や妙子の心情の筆致を堪能した。妙子には少しチェーホフ「かもめ」も思い出した。


難というか、特徴的なのだが、かなりさかえで物語は持っているな、とも思った。さかえは、自分で自分が押さえられない、思うままに溺愛したり、甘えたり、嫌いになったり、意地悪をしたりベタベタとくっついたりする。それがみずみずしさを無意識に纏っている。結果としてうまくいかない自分に苛立っている。妙子の危うさと変身もいい要素だけれど、やはりかなり副次的だ。

さて、川端という男性が描いた「女ということ」。私もかなり納得、共感できる表現はあったし、良き作品だと思った。女性が読んだら、どうか受け止めるのかちょっと興味があるかな。

よき読書でした。やっぱり川端シンドローム。

11月書評の11

◼️有栖川有栖/市川友章「おろしてください」

「恐怖新聞」を思い出す。パンチの効いた押し出しの強い絵。

怪談えほん、は宮部みゆき「悪い本」、佐野史郎「まどのそと」、京極夏彦「いるの いないの」、あさのあつこ「いただきます。ごちそうさま」と読んできた。さて、新本格の雄の1人、アリスさん。

裏山をたんけんしていたぼくは道に迷い、駅を見つけた。駅の名前は「比良坂駅」。列車の客は・・

駅名で現世と黄泉の境目にあるという黄泉比良坂を、大人は想像してしぜん嫌な予感を抱きます。さて子どもも将来気がつくのかな。

人の皮を被った妖怪・・話としてはなんかウルトラマンを思い出しちゃったかな。絵も妖怪というよりは仮面ライダーの怪人を思わせるし。

絵は子どもの表情で恐怖がストレートに伝わる、昔のマンガ「恐怖新聞」みたいだな、と。シリーズ中でこんなにたくさん怪物、怪人が出てくるのに突き当たったのは初めて。

この話を読んだ時はふうん、と思っていても、やがて夜電車に乗る時、夜道を歩く時、人混みの中にいる時、なんかに思い出してゾワッとくるのだろうか。

まだ読みたいな。恒川光太郎、皆川博子、小野不由美に綾辻行人が待っている〜。