2025年1月24日金曜日

1月書評の7

◼️高野結史「バスカヴィル館の殺人」

孤島、クローズドサークルの大がかりな推理ゲーム。視点の変化ね。なるほど。

富裕層を相手に、本当に人を殺して推理させる高額な犯人当てゲーム。シナリオを書きキャストを配し、多くの裏方を配して、監視カメラを多く設置したセットの館を作る。秘密の部屋も通路もあり。さらには一部の者以外、探偵役が誰かもわからない。謎の多い設定だ。

この仕事を最後に引退する現場チーフの袋小路〜今回の執事役としての役名だ〜は困惑した。クルーザー上で昏睡する薬を飲ませ焼殺した死体が殺したはずの男ではなかった。シナリオを進行させたものの、2人めの殺人を行い、焼死体が見つかる焼却炉の前に、アイスピックで首を刺し殺された予定外の死体が発見された。犯人は入れ替わった行方不明の殺され役の男か、それとも・・

本当の殺人をその場でしてしまうゲーム、運営する組織、スタッフはどこか後ろ暗いところを持つ者が多い。失敗して不要になったり、ゲームを破綻させたりした者には処刑が待っている。

バスカヴィル館と聞いてはプチシャーロッキアン、手を出したくなる笑。ただ館の名前が、という意味合いが強くて、殺人の場所にはクイーン、カー、クリスティーの作品にちなむカードが置かれるのでまあその時代のミステリをミックスさせようかという趣向だ。それはそれで嫌いではない。

ただなんというか、正直設定は鼻白むほどのアリエナさだなと。まあ物語だし、と読んでいると、ミステリを"動かす"視点というのを感じて興味深くはあった。シナリオが決まっているところへ想定外の事件が起こらないわけがなく、ラスボス的にどんでん返し的展開が付くのもまあそうかと。こんな組織にいて非常事態にあってもご時世か部下のご機嫌を取ったりしながら必死に、冷静に対応するハードボイルドな袋小路、犯人役で実際に殺人を犯すが人間味のある、関西弁の明智凛子といった主役級の者を追いかけるうちにいつしか楽しんで夢中で読んでいた。

本格の仕掛けではある。フワフワと楽しむものかも知れない。シナリオの謎解き、想定外の殺人、入れ替わりのトリックと2つあって、どちらもちと捻りの程度が合わなかった気がする。

まあまず楽しめたかな。面白い視点だ。

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