2025年1月24日金曜日

1月書評の6

◼️中野京子
「メンデルスゾーンとアンデルセン」

裕福な音楽家メンデルスゾーン、貧困から這い上がったアンデルセン、歌手ジェニー・リンドの報われない三角関係。

クラシックは好きでよく聴きに行く。ただメンデルスゾーンはヴァイオリン協奏曲、いわゆるメンコンと一部のピアノコンチェルト、それに「イタリア」「幻想交響曲」しか知らなかった。リストの手によるショパンの伝記にメンデルスゾーンも出てくるが断片的で、どうも「幻想」の怪しさに、良くない先入観を抱いていたかなと。今回初めてじっくりと向き合えた気がする。

フェリックス・メンデルスゾーンはドイツ・ハンブルクの銀行家の家族に生まれ生涯裕福、最高の教育を与えられた。容姿端麗、幼少の頃から音楽の才に恵まれ、順調に頭角を現す。しかし、ユダヤ人ということであからさまな差別を受ける。

4歳年上のハンス・クリスチャン・アンデルセンはデンマークの貧困家庭から14歳でコペンハーゲンに出て苦労の後、枢密顧問官ヨナス・コリンの援助を得て大学に入り、文才を開花させた。

さらに年下の歌手ジェニー・リンド。コペンハーゲン出身で性悪な未婚の母に何度も捨てられた。歌唱力がたまたま王立劇場の関係者の耳に止まり、未来が拓けていく。

スウェーデンで評判になったリンドをデンマークで公演させる説得役となったアンデルセンは彼女を情熱的に恋する。チョー楽観的な彼は毎日のように会いに行った。しかしリンドはすでに妻子がいるメンデルスゾーンと出逢って深い恋心を抱いた。

穏やかで品のいいフェリックスの苦悩、チョー楽観的なハンスの猛烈で遠慮のないアタック、ハンスに困惑、お兄さまと言って距離を置こうとし、フェリックスと多くの充実の時をともにするジェニー、そしてそれぞれの破局が語られる。

その底にはそれぞれの活躍が華やかに述べられている。ゲヴァントハウス管弦楽団の名を大いに高めたフェリックスはヨーロッパ中で人気を博す。アンデルセンはその創作童話で知らぬ者のない作家となり、フェリックスとも親しくなる。ジェニー・リンドは「スウェーデンのナイチンゲール」と呼ばれ、ショパンには「北極のオーロラ」と称えられたその歌声でやはりヨーロッパ中をツアー、クララ・シューマンとも親しくなり大好評を博したという。

早逝したメンデルスゾーン、長生きした童話作家と歌手。複雑な国際情勢のもと、ゲーテをはじめ著名な文化人も多く出てくるヨーロッパの芸術界で3人の人生が交錯し生まれた蹉跌、美しさと陰が描かれる。

知的好奇心を刺激される、興味あるジャンルのエピソード紹介物語だった。この時代は少し特別で、画壇や科学史、芸術の分野で現代に賞賛される多くの成果を生んでいる。さらにこの時代の音楽家、文人らの付き合いを想いながら考えたり成果、作品を賞でたりするのは、なぜかなんとも言えず好ましい。リンドとクララ・シューマンなんて、聴くことも見ることも永遠にできない、遥かな過去への憧れだ。

作中に出てきたメンデルスゾーンの曲、ことにリンドが歌ったという「歌の翼に」でも聴いてみよう。アンデルセンの初読の童話でもあれば最高。ちなみにこの本を借りてから鼻歌が昔のアニメになった。夢のつみきをつみかえよう^_^

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