◼️ 折小野和広「十七回目の世界」
大山崎といえば天王山。ここ来たか、というSFファンタジー。
京都文学賞優秀賞作品だそうだ。市内でなく舞台は山崎。京都府の南西端で大阪府との境。住所で言えば京都府乙訓郡。ここはよくスポーツで言う天王山、の山麓に広がるエリア。JR、阪急電鉄両方の駅がある。私はたまに名建築のアサヒビール大山崎山荘美術館に行く。高台から見下ろすと、豊臣秀吉と明智光秀が争った山崎の合戦、天王山の戦いがこの平野であったのか、と感慨が湧く。
フツー市内の京都らしいとこがメインの舞台になりそうなものなのに、今回は離れた野趣豊かな山崎。ここはまた木津川、宇治川、そして桂川が淀川となる、珍しい三川合流部でもある。
1985年、山崎近隣限定で大きな揺れがあり、周辺一帯の者は行方不明となった。自衛隊、果ては在日米軍を巻き込み、戦車までもが編成されて16回もの捜索部隊が出された。しかし、誰一人として帰って来た者はいなかったー。精神科医・尾上浩一は17回めとなる小規模の捜索隊に参加することになる。それは少年の頃に別れた双子の弟・浩ニが、危険エリアで撮影されたとされる写真に写っていたからだった。
国会議員秘書の野島、尾上が勤める病院の加賀院長、学者の武田、自衛隊の横崎少尉、新聞記者の若島の総勢6名は、すでに特定されていた境界を越えた。戻れなくなっていたー。
まあその、情報を意図的に出していない、というのが察せられる書き方が、読み始めから気になった。どこかズレたような感覚が続く。さて、常識が通じない世界をどう構築していくか。エリアに入ってからが勝負ー。
駅を中心とした展開が、一気に過去に飛んだような、異世界にいるような感覚を生む。調査隊員が消える。主人公もファンタジックな世界の仕掛けに翻弄される。フワフワとした中、実際何も分からない状態で、次は何が起きるのか、きっと弟と会うだろう、何を言うのか、と期待感でページをめくる手が早くなる。
結局最後までこの空間はなんなのか、現象は解決されないし、結論じたいはない気がする。これは山崎エリアの経験を通して主人公が過去のトラウマと訣別し成長するパターン?なのかなと。
斬新だったし、意味がわかると同時に新たな謎の法則が生まれるような不可解感。そして不可逆性の後の残滓と未来。主人公の内面が投影されている、のだろうか。
福岡の柳川を同様にクローズドサークルのような異空間にした恩田陸「月の裏側」を思い出した。再読してみようかな。
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