2025初出社日は雨、電車遅れ。写真は霧の西宮山岳部。いつも見える夜景がまったく見えない。
◼️南木佳士「医学生」
秋田大学医学部生、それぞれの道行き。苦く、もがいた、ほんのり温かい青春のありさま。
鈴木保奈美の「あの本、読みました?」で取り上げられていた1993年の本。書評でも見たことがあり、興味が湧いて手に取った。
1970年代、東京育ち、医師一家の和丸、信州のレタス農家の娘京子、新潟の旅館のボン雄二、一流大学を出て教職に就きながら医学部を受験した妻子持ちの修三。4人は新設の国立大学、秋田医学部で医師を目指すことになり、同じ班となる。秋田という慣れない土地柄、また当初はまともな施設もないなか、それぞれ屈折した想いを胸に、辿る解剖実習や口頭試問、卒業試験に国家試験。やがて別れ、それぞれの道を歩んで行くー。
医師である著者もまさに秋田大学二期生で、自分の思い出を追いながら書いた物語とのこと。雄二は学生の身で飲み屋の娘を妊娠させてしまう。しかし他にそこまで過激な展開もなく、たんたんとそれぞれの物語は進む。
大学の親しい友人が当時、独り暮らしをしたらドラマのような出逢いや驚くような出来事があるかと思ったらなんにもなかった、と言っていた。人により違うとは思うし、例えば親から見たら、バイトで社会に出たり、車を持ったり、夜の街で遊んだりというのは大きな変化ではあるのだろう。でも本人は大人の世界の入り口は自然に開けて、そんなに意識した覚えもない。
ただ学生生活は楽しさもあったけども、ふつうの学生にとってそこまでドラマチックなことがあるわけでもないな、というのが私の感想でもある。学友とのなんとなくの距離感や気遣い、呑みの場、テストの追い込み勉強などとも相まって、このお話は懐かしいものをリアルに思い出させる。私も国立で、賑やかでないところにあり、特に文系校舎は食堂兼生協がプレハブ小屋だったりしたから余計そう思ったりする。そういうところが共感を呼んだのかなと。
もちろんその中で、京子が故郷の病院で医療を実感を持って学んだり、いいかげんに見える雄二の特質が医者に向いていたり、若者らしくみずみずしい、前向きの感覚が得られるところも特質だと思う。
そこまで感じ入ったわけではないけども、イベントや計算を入れ込んだわけではないストーリーにほんのり良い想いを抱いたのでした。
南木佳士さん、どこかで見たよな、と思ったら、かつてめっちゃ泣いた映画「阿弥陀堂だより」の著者さんでした。そうか、と手を打ちました。
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