◼️ 中江有里「万葉と沙羅」
マルチに活躍する著者の小説初読み。揺れる年頃の内面と光。心動いた。
女優、タレント、書評家、作家など活躍する中江有里さん。奈良好きとしてタイトルでこの本に興味を持っていた。楽しみな初読み。
沙羅は中学校で女子同士の友人関係がもとでトラブルを起こし、不登校に。いまは2年遅れで通信制の高校に通う。週1回の登校の時、幼なじみの万葉を見つけ、話しかける。母を亡くし、再婚した父とドイツに行くのを拒んだ一人息子の万葉は、古書店を営む叔父と暮らし、読書好きになっていた。殻に閉じこもっていた万葉は沙羅と少しずつ話すようになり、沙羅は万葉の影響で本好きになっていく。変わりつつある2人。しかしそれぞれに現在と将来に関わる悩みが横たわるー。
もともと青春ものは好きではある。この物語はさりげなく互いのことを気遣いながら、自分を見つめ、葛藤に苛まれる流れがとても心地よい。沙羅と万葉、視点を入れ替えて進められる章立ての構成は読みやすい。
「社会に出るのに必要なことは、年齢を重ねれば自然に身につくと思っていたけど、そうじゃないと気づいた」とは文中の言葉でなく愚息のグチだけども、なんか、分かる。フワフワして何者でもない、中身はあるのか、と自問する。頼りない未来を不安げに見つめる、そういった部分の描写が優れているように見える。悩む部分はやや冗長にも感じるがそれがまたリアリティある、と実感を持って考える。
特に、万葉が叔父さんの深い事情に触れ、人と会話をして、また大学の付き合いで自分がどう見えるか気付かされたり、初めてアルバイトをしてみたりして感じること、少しずつ前に進んでいくパートはかつての自分を投影したりして感じ入る。
最初の方は少し、できすぎた設定かなという気も過った。しかしすぐに物語に入っていった。失踪した叔父さんを探して万葉が行くのは私の故郷福岡。そして母の郷里でなじみ深い柳川。どんこ舟に乗り、うなぎを食べる。これが嬉しくないわけがない。
この話では叔父さんがスパイスになっている。私も人生は長いんだよ、あまり構えない方がいいかもよ、でも何かは一生懸命やってな、なんてアドバイスしたくなったりした。
続編・・ないよね。残念。本のタイトルをいくつもメモした。さすが本読みに楽しい話を書く。芹沢光治良「綠の校庭」を読みたいかな。
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