2025年1月24日金曜日

1月書評の11

◼️ 梨木香歩「f植物園の巣穴」

いやー梨木ワールド。木のうろにおちて、主人公が体験する不思議で長い異次元の旅。らしさを感じる長編。

先に読んだ「万葉と沙羅」に「目が合った本を読む」というのがあった。ようはパッと見て、ああこれが読みたいなあ、と思う本のこと。私も書店で図書館で、同じ体験をしている。本読みの真理ですな。もともと梨木香歩はフェイバリットな作家さんとはいえ、この本もやはりそうだった。

植物園に勤める専門家の男、一度結婚したが妻は身籠った子とともに亡くなった。植物園にある大きな木のうろに落ち、そこから現世に似ているものの不思議な事象が次々と起きる世界を彷徨う。前世が犬で忙しいと姿が犬化する歯医者の家内、鶏頭となる下宿の大家、不思議な神主・・そして自分の幼少の頃を追体験し、忘却の彼方にあった事実を思い出すー。

いやーもう梨木さんの想像の庭へ紛れ込んだ感触。長くはない作品、でも読み手も延々と訳のわからない道行きを進む。変な神主、キツネ、河童のような少年、歩く鯉・・幼少の頃優しくしてくれた女中は千代、亡くなった妻も千代、洋食屋の接客係の千代さん、千代があふれる。

主人公は植物園の係員。自然必然著者の得意な植物の名称が乱舞もする。またキーワードは水。川の氾濫、雨、心の旅路ではあたかも竜宮城のように水底に沈んだ幼少の頃の家を見つける。

この作品は脱出&そして新しい自分の物語か。ある意味村上春樹に似ている気がする。想像を遊ばせ、内省の旅路を辿り、潜り抜ける。異世界はまるで理の通らない、夢に似た世界で、しかし自分と確固としたつながりを持っている。

幻想の世界はどこまでも続く気がする。冗長でもあるが、脱出するための洞窟が長いのは、到達した世界を納得させるためで、手法としてはふつうかも。

そこに不可思議な現象がいくつも出てくる。その、動物の人間化など、和風なおどろおどろしさもまた梨木香歩らしい。少し「家守綺譚」に似てるかなと。

大きな驚きや感銘はないかもだが、エピローグの淡々としたさままで著者らしさを感じる作品でした。

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