2025年1月28日火曜日

1月書評の13

◼️ 甘耀明「神秘列車」

台湾の「ポスト郷土文学」。地方を舞台にした短編集。エネルギーと、優しさ。

書評を見て興味が湧いた。主に戦後まもなくから現代へと続く、さまざまな余韻を残す短編たち。台湾というと私的には東山彰良「流」が思い浮かぶ。こちらは街中の話ではあるが、活き活きとした、人間的なエナジーが流れ込むような文章で、雑然としてちょっと騒々しい、にぎやかな音が聴こえてくるような感覚があった。

種類は違うが、どこか似たような趣がある。表題作「神秘列車」は鉄道マニアの少年が、祖父が乗ったという不思議な列車を探しに台中線、とりわけ現代では廃線となった旧山線へと鉄道の旅に出る話。祖父は政治犯で逃亡、隠れており、祖母の危難に家へと戻ろうとするー。

もう、列車の描写が・・言葉を尽くして、雪崩を打つように、次々と繰り出され、美しく幻想的なさまを醸し出す。美しさと勢い、人情の羅列。この作品では地味なベースに咲く明るさや華やかさのギャップが鮮やかで、地方、世代、温かさが混交する。

「伯公、妾を娶る」は台湾の風習に詳しくないと、よく分からないな、という部分もある正直。標準語、閩南語、客家語を入れ込んであることは、台湾の人民構成や近代の歴史・文化的に意義深いとか。どれもほんのりとした良さを感じさせるラスト、そこまでのストーリーの綴り方がうまい。言い方が合ってるか分からないが、土臭さ、人間っぽさがよく出ていると思う。

「葬儀でのお話」の3つのお話、おしゃべりと物語を聞くことが好きすぎるおばあちゃんは自分の通夜ではたっぷりと物語を話して欲しいと希望する。「微笑む牛」は息子が不思議な年寄りの雌牛にまつわるほろ苦い思い出を語る。そして孫が「洗面器に素麺を盛る」で祖父祖母の馴れ初めから祖父の死までを味わい深く聞かせる。

ドタバタした場面もあり、変わり者の風もあり、なんか台湾ものらしいなあと。

ラストの「鹿を殺す」は若い先住民族、アミ族の若い男女、パッシルとゴアッハの、躍動感、生命感に満ちた物語。

どれもなんともいえず心地よい読後感を残す。台湾の才能、甘耀明。多くの文学賞を獲得、「神秘列車」は2度テレビドラマ化しているそうだ。

ふむふむ、また読んでみようかな。

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