2024年5月26日日曜日

5月書評の8

◼️ 青谷真未「読書嫌いのための図書室案内」

ニッポンのラノベはおもしろい。王道の設定に文豪と謎。安部公房が効いている。巧みな作品。

読書が苦手な高校生・荒坂浩二は、同じ図書委員のクラスメイトで本の虫女子の藤尾蛍と図書新聞を作ることに。教科書の「舞姫」の感想文を頼んだ同級生の脳天気くん・八重樫はもうすぐ帰国してしまう留学生・アリシアに気持ちを伝えるかどうか悩んでいた。荒坂が美術部にいた頃の先輩・緑川には感想文だけ渡され、本のタイトルを当てないと載せられないという条件を課され、生物の樋崎先生に頼むと、安部公房「赤い繭」の感想文を先に書いたら書くと言われるー。

まずは、ヒロインが本の虫で活字好きでおとなしく、唯一本の話になるとハキハキして口数多く熱を帯びるというのはどこかのシリーズでも見た王道ですねー。それと本を読まない男子。ふむふむ。しかし荒坂はどうやら絵の才能があるらしく、謎めいた、少し剣呑な事件の当事者であり、緑川先輩はかなり強く負い目を感じているようだ。八重樫編には実際には出演しないアリシアと2人ともの「舞姫」感想文があり、藤生を特別扱いし藤生もシンパとなっている定年間際のダンディ樋崎先生はかなり怪しい役どころ。

少しずつ謎が、なかなか魅惑的に撒き散らされ、状況証拠の発見もやや劇的。読者の予想通りにはならなくて、とテクニカル。

荒坂も藤生との活動で読書に興味を持ち、藤生も成長する。王道。

文豪ものの解釈、ツッコミがもさることながら、安部公房に行っているのは感覚的になかなかナイス。「箱男」ってストーリー自体はどれかというと副次的で、読んでいるとダンボールを被ってみたいなという気にさせる名作だと思う。

読んでいると色々なところに仕掛けがあり、符合があるのが分かる。無理なく進行され、大ネタがあって、気持ちよく終わる。その中にはけっこうな量の知識があるし、推敲があると感じる。ニッポンのライトノベルはレベルが高いと思う瞬間。かゆいところに手が届く。

今回谷崎訳の「源氏物語」出てきてそれなりに賑やか。確かに有名著作に関して、感想文、口コミは大いに参考になるし、切り口も興味深いよね。なるほど。続編があったらおもしろいけど、多分ないのかな・・。

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