2024年5月26日日曜日

5月書評の5

◼️ 伊坂幸太郎「逆ソクラテス」

唐突で意外な展開。伊坂テイストの会話。小学校が舞台の、私花集ともいうべき作品。

伊坂幸太郎はバラバラと読んでいて、そもそも作品数も多いし何を読んだか全部は分からない。ふと読みたくなる時がある作家さん。この短編集はバスケットが題材の「アンスポーツマンライク」というタイトルの篇があると聞き、興味を持っていた。

小学生6年生の加賀と転校生・安斎の2人の男子は、担任で中年の男性教師・久留米が同じクラスの草壁に対し「女子みたいな服を着ている」などと見下したような態度を取ることを不満に思い、その先入観をひっくり返そうと作戦を立てる。途中からは優等生の女子・佐久間も加わって知恵袋の安斎を中心にあれこれと策を考案し実行する。(表題作)

テスト作戦、美術館作戦、噂作戦に野球選手へお願い作戦。楽しくも可愛らしい。セリフも決まってて、プロローグも生きている。そして通り過ぎた子供の頃を追想する、少しの哀しさと悦び。あまり衝撃の場面はないけれど、よくできた表題作。

ほか、「スロウではない」「非オプティマス」「アンスポーツマンライク」「逆ワシントン」が収録されている。

小説の醍醐味の1つは、いわゆるどんでん返しかと。予測もつかない展開を味わうのが読み手の楽しみでもある。そしてその場面のためにこれまでのストーリーに置かれている演出、仕掛けを知る。突飛な出だし、コミカルさ、暗澹さ、単調さ。下地から物語を作っていき、びっくりするような逆転、衝撃的な突発、へいきなりつなぐ。伊坂幸太郎はまさにその名手、旗手で今回も想定外の成り行きがGOODだった。

会話には薄く笑うようなギャグセンスが漂う。またとうとうと自説を説くシーンもよくある気がする。今回も伊坂モード全開、小学生ならではの未熟さ、発想の可愛らしさがミックスされていて微笑みを生む。1回どこかで吹き出したな。どこかは、忘れた。でも物語を編み込む力は独特であり、魅力的。


今回は子どもに対する親やスポーツクラブのコーチ、周囲の大人たちの態度に、意見を発している。名作「チルドレン」「サブマリン」のシリーズを思い出したりなんかする。

表紙絵はjunaida。原画展で買ってきた。熟練の作家といまをときめく絵本作家。快くカッコいい組み合わせ。楽しい読書でした。

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