◼️ 永井路子「旅する女人」
歴史上、その軌跡が分かる女性たち5人の旅。持統天皇、菅原孝標の女、巴御前ほか。切り口と体験記がおもしろかった。
永井路子さんは歴史小説とともに「歴史をさわがせた女たち」などさまざまな観点からの解説、随筆をものしておられる。特に飛鳥奈良が好きで、これら多くの著書を追いかけるのは私のライフワークになりつつある。
今回は夫の大海人皇子の吉野への逃避に従った鸕野讚良皇女、後の持統天皇の旅、東国から少女の心のまま憧れの京都に移った「更級日記」の著者、菅原孝標の女の旅、歴史上に現れ、すぐに消え去った木曾義仲の幼なじみにして妻の巴御前らを取り上げる。
「とはずがたり」の作者二条は鎌倉期、育ての親のような存在の後深草院を巡る愛憎から都を離れ、やがて出家した後を含め江戸、信州善光寺から厳島神社、四国の足摺岬まで遠大な旅をしている。そしてラスト、江戸時代、造り酒屋の主婦、沓掛なか子は秩父三十四ヶ所の寺をめぐり「東路の日記」という和綴の自家製であろう本を残している。
大海人皇子は謀叛の罪を着せられ殺されるのを避けるため出家して天智天皇が定めた近江大津宮から吉野に下った。もはや戦は必定、鸕野讚良も命を狙われる危険を常に感じながら移動を重ねる。やがて歴史は大海人皇子、後の天武天皇サイドに微笑むのだが、鸕野讚良、のちの持統天皇は何回も吉野離宮への旅を繰り返している。飛鳥斑鳩平城は何度も行っているけれど、実は吉野はまだ未踏。早めに実現させようかなと。
「更級日記」も源平ものも興味深い。でも今回は後深草院の他に幾人かの恋人と愛し合った二条の旅が新鮮でおもしろかった。多くの旅をしながら月日は巡り、後深草院とも再会、その絆を確かめる流れには心惹かれる。「とはずがたり」読む機会があるかなと。
初耳で土地的にもなじみのない沓掛なか子の旅も感じ入った。
この著書で永井さんは自ら多くの旅に出かけている。そこで見た風景と感じたことを、その表現力と哀歓豊かな筆致で、まさに活写している。1972年の発表というのに、その文章は一向に古びておらず、読み手に語りかけてくる。そして、あたかも西行らの歌枕を追いかけて陸奥を旅した松尾芭蕉のような憧れもほの見える。厳島神社にもまた行きたくなった。
さて次はいつどこで出逢うのか。永井さんの著書をまた目にする機会を本当に楽しみにしている。
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