◼️千早茜「赤い月の香り」
調香師・小川朔シリーズ。読み終わった時、・・名作かも、と少しく高揚した。
体調、男女の付き合い、これからの天気、そして、嘘。香りで、分かる。丘の上、森に囲まれた洋館に住む若い男、小川朔は調香師。依頼により唯一無二の香りを作るのが仕事。トップ女性シンガーの望みを叶えたり、昔の校舎の匂いを再現して欲しい、という要求にも応えてみせる。
朝倉満は施設で育ち、過去警察のやっかいにもなっていた。目つきに迫力があり、人には怖いという印象を与える。アルバイト先のカフェで満は朔に声を掛けられる。「うちで働くといい」。洋館で調理など家事をし、朔のマネージャーをしている探偵で粗っぽい男・新城や庭師の源さんを手伝い、朔の助手のような仕事もこなす生活が始まったー。
シリーズ1作めである「透明な夜の香り」はもひとつ慣れなかった。書評にも
「すべてに卒がなく、スーパーな探偵のような主人公。その如才なさ、きれいさにちょっと引く」
とか
「それぞれ危うい、ちょっと外れた残酷さ、エロチシズムが匂う。必要なノイズであるかのように」
と、特徴を認めつつも、
「だけれども私にはもうひとつ響かなかった」
なんて書いている。
だがしかしけれども、今作はなんかハマってしまった感がある。
満の過去や、現在の性格はどこか見えない。カッとすると抑制が効かない、どこか壊れたようなイメージ。かと思うと朔の作った香りを盗み、それをネタに女と付き合うという大胆さも併せ持つ。
何があったのか?もちろん朔はすべて分かっている。再会したかつての同級生のため、大金をかけても朔の香りを欲しがったセールスマンの持田と、満は友達付き合いを始める。またセックスの時男の血を求める女、妊娠を望んでいるというが、心からの希望ではないように見える女、など少し常軌を逸した人々を出しながら、ミニ・ミステリのような雰囲気も漂わせながら・・満月の晩、満を外に連れ出し、その過去を思い出させようとする。
香りの魅力、そして魔力を最大限引き出した千早茜ワールド、植物の詳しい知識も心地よく小粋。そして必ずしも解決するわけではない要素を積み重ねていって物語をうまく揺らし続けて満にフォーカスする環境を整え、怪しく、赤く、ルナティックに決める。
この筆致には唸らされる。そもそも千早茜の「魚神」「あやかし草子 みやこのおはなし」などライトホラーファンタジーのようなジャンルもお得意。勝手な憶測ではあるが、1作めをブラッシュアップさせることを考えたのではないか。しかも千早茜らしい方向に。
花もたくさん出てくるが、物語として決して彩り豊か、といったイメージはしない。モノクロの世界に赤、という感覚がある。
コンパクトでテクニカルな内容、豊かなまとまり。良い読書でした。まだ続きがありそうやね。
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