2023年9月16日土曜日

9月書評の7

間違った😅のでもう1回。

◼️ 泉鏡花「春昼後刻」

春の色むせかえる風景に戻る。玉浦みをと散策士の邂逅。最高傑作の評価もある話の後編。

今回も菜の花畑、青麦の畠、海と波濤、獅子舞の赤、そして紫の傘。

「春昼」では観音堂に小野小町の恋の歌を書き付けた不遇な美しい人妻、玉浦みをに恋をした男が、夜の山で怪奇な夜天の劇場に行きつく。そして舞台の上で自分の分身が恋するみをの寝衣に「△□ ○」と書き付けるのを見た後、海に身投げするというストーリーだった。

主人公は小野小町の歌を見て、観音堂のある寺の僧侶から男とみをの話を聞いた若者、散策士。亡くなった男が最期に行った蛇の矢倉に案内しようかと僧侶に誘われるが断って辞す。

宿に戻る途中、黒い馬に乗った白い腕をした人間がすぐ上の空を飛んで過ぎる幻を見る。

さすがの泉鏡花、序盤に先ぶれの妖しを入れてきます。閑話休題、それはさておき。

村へ帰ってきたところ、行きがけに2階家に蛇が入るのを見たと話した農夫にまた出会う。農夫は青大将を捕まえて捨てた、家の夫人がお礼を言いたいとほら、そこに、と。

「錦の帯を解いた様な、媚めかしい草の上、雨のあとの薄霞、山の裾に靉靆く(たなびく)中に一張の紫大きさ月輪の如く、はた菫の花束に似たるあり」

女は紫の傘を差して野に座っていた。狭い一本道、宿に帰るにはどうしても女の前を通らなければならない。

僧侶に聞いた話の、玉浦みをに違いない女は散策士には空恐ろしく、文中で鬼とも例えています。なんかマッチする感じ。

九字を切る、護身のお呪いを唱えて、そしらぬ顔で行き過ぎようとしますが、きっと興味もあったのでしょう。結局座り込んで話すことに。みをが何を話したのか?読んでみてくださいね。

男は、みをが出した「オリイブ色の上表紙に、とき色のリボンで封のある、ノオトブック」を見せてもらいます。中にはなんと○△□がいくつも書いてあり、蒼ざめます。コワイ〜!

○△□は何の意味があるのか?みをは説明しています。これもお楽しみですね。何を意味するのかは研究者たちに諸説あるらしいです。この後の成り行きからすると、愛の合い言葉のような・・。

さて、テンテンカラ、テンカラ。太鼓の音とともに黄色に菜の花畑に鶏が舞い上がったかのようにいでた獅子舞。十三、四歳と八歳の男の子の獅子舞でした。みをは年上を家に行かせてお金をあげ、その間に年下の子を強引に抱きしめます。ばくりと口を開ける獅子頭。子らに親はいないようだ。

美女、たおやめはその代わり、この紙切れを持ってておくれ、と○△□を書いた紙に和歌を書き付ける。

「君とまたみるめおひせば四方の海の
水の底をもかつき見てまし」

みるめ、は亡き人と会う目、と海藻の一種の掛け詞。もう一度お会いできる「みるめ」が生えているのなら、海の底へでも潜って探したい。

和泉式部の歌だった。

やがて獅子舞の2人は海辺へ。男も宿へ戻ろうと思ったが、街道は芝居終わりで人がごった返していて、海辺へと行ってみた。

この後悲劇が・・そしてみをも歌の通りに・・

前編とも言える「春昼」はどれかというと物語重視、後編の「春昼後刻」は少し人の世に関する表現や説明が長く、難しい感じがしたかなと。でも和歌といい、成り行きといい、またむせかえるような春の描写、その心持ちを言わせているみをの長セリフといい、やはりすごくよく出来た話だと思う。

古語がたくさん入っている文章は難しい。解説を検索してあれこれ調べるのも泉鏡花の楽しみの一部かも。

やっぱり楽しめました。うーん。いいね泉鏡花。これまたライフワークになりつつある。

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