2023年9月30日土曜日

9月書評の11

神戸は北野でステンドグラス展を観てきました。トアロード沿いにある、昭和6年建築、小学校を改築した神戸をPRする施設。もとの講堂に並べてあるステンドグラス作品は、窓用のみならず、テーブルランプの傘、時計、地球儀、飛行機の模型、鏡などなど様々な用途のものがありました。小ぢんまりとした展示、でもなにかしらインスパイアされた気分。

デザインも、色の組み合わせだけではなく、有名な絵の模写であったり、動物、魚、不思議の国のアリスの一場面などなどバリエーション豊かでした。午前のオープンまもない時間で、実際にステンドグラス作家の方が詳しく説明してくれました。イギリスの工房で10年修行、いまでもガラス素材などはヨーロッパに出向き、交渉・発注するそうです。午後の陽が傾いてくる頃に、ステンドグラスの模様が講堂の床にきれいに映るそう。期間は短いですが、行こうと思われた方、午後2時以降がオススメらしいですよ。

ちなみに展示会場内はオール撮影不可だったので、写真はこの名建築に備えつけられているステンドグラス。

中のスイーツ屋さんで果肉入りベリーベリーソーダ。涼しくて居心地がよく、しばらく気持ちよく座ってました。実はこの建築は年内で閉鎖し、インバウンド用のレストランに造り替えるそうです。保存のための署名活動も行われているそう。建築好き、ここのスペース、トアロードのオアシス的に気に入っている身としてはぜひこのまま残して欲しいものです。

◼️ 梨木香歩「不思議な羅針盤」

梨木香歩さんのことばをしっとりと味わう。自然が好きで、五感を開けていて、美味しそう^_^

2007年から2009年に連載していたエッセイをまとめたものだそうだ。私が東京にいた頃で、小泉政権から第一次安倍内閣、そして福田氏へとバトンが渡り、民主党政権となったころ。北朝鮮がミサイルを日本へ向けて撃ち始めた時期でもあったとの記憶がある。だからなのか、社会情勢への言及もある。

日常生活のあれこれを述べながら、お得意の自然、植物、鳥に関する話を織り込んでいることが多い。やっぱりこうでなくては。どこか幸田文と重なるなあ。

特に「『西の魔女が死んだ』の頃」の「ジャムを作る」で傷んだイチゴをジャムにして、アイスクリームやホットケーキに垂らす、とかブラックベリーは鳥も食べないくらい激烈に酸っぱいのにジャムにすると極上の味、というのに惹かれたスイーツ好き。食欲からですね^_^

自宅からバス停までの間に渋柿の木があって秋は見事な実が鈴なりになる。初期は鳥はまったく来ない。しかし秋が深まって、干し柿状になったとたんついばみだす、という現象を思い出した。干し柿甘くておいしいんだよね。

「五感の開き方、閉じ方」も印象的。

子供のころ山中に住んでいて、秋の月が清澄な夜、屋根に登って本を読むのが幼い梨木さんの楽しみだったという。それは

「自分の五感が不思議な開かれ方をしていく、そのせいだったと思う」と。

そして夜の特別さを強調し、料理エッセイが人気の平松洋子さんが書いた「夜中にジャムを煮る」という著書のくだりを引用する。これがまた、魅力的。

自分自身に照らしてみると、20代後半くらいから、たとえば新緑を見に山へ行きたい、とか美術にしても映画や音楽にしても感覚が開かれていったと思う。たぶん私だけではないのでは。それはいまにつながる。他のコラムでは森下典子さんの「日日是好日」を引いて、気づき、微妙な感覚の変化について綴っている。

よく見ること、よく聴くこと、よく感じること。五感を開く、読みながら、とても共感できるというか、改めて学んでいる、啓発されている。

梨木香歩さんには渡り鳥を追う「渡りの足跡」という名エッセイ集がある。ブンブン自ら車を運転して自然に飛び込んでいく、という意外な面を見せている作品。今作にも、大鷲をサハリン沖の孤島に観に行った時のエピソードがちらと載っていたりする。

椎の実を炒るのも美味しそう。著者はかなり好きな作家さん。未読作などまた折に触れ読んでいきたい。

0 件のコメント:

コメントを投稿