2023年9月30日土曜日

9月書評の12

◼️ 作:梨木香歩 絵:木内達朗 「蟹塚縁起」

前世の因縁。恩と縁(えにし)。ふむふむ。

たぶん梨木香歩さんの本を検索しているときに出てきたんだと思う。スマホのメモにあり、読みたくなって借りてきた。

ある晩、農民のとうきちが目を覚ますと、あまりにも大勢の蟹が、川からとうきちの家の床下を通って隣の山の沢の方へ、長い長い帯のような行列となって移動していました。

蟹は沢ではなく、さらに遠くへ向かっていました。とうきちは、さては名主の家か、と直感します。というのは、とうきちは名主の息子が沢蟹を釣り上げては無慈悲な真似をしていたのを咎め、蟹を放してやり、息子を諭したのでした。息子は泣いて帰り、怒った父親の名主はとうきちから牛を奪っていったのでした。

さて、この話にはもう一つの意味がありました。実はとうきちは、以前泊めてやった六部、巡礼する僧に、自分が前世、何千もの兵を率いて戦っていた武将、藪内七右衛門だったと教えられます。以来七右衛門だった時のことをときどき思い出すような気がしていました。

列をなして進む蟹、同じように昔、月夜の山野を大勢で歩いたことがあるのをとうきちは思い出します。蟹は兵、だったのでしょうか。

蟹が向かっていたのは、やはり名主の家でしたー。

さて、2つの時代、それぞれの主人公が活躍する話というと、手塚治虫の名作「火の鳥 太陽編」を思い出す。壬申の乱と遙か未来の日本をオムニバスで描いた作品だった。

「蟹塚縁起」は絵本だけに複雑な作りではないが、前世をかなり前面に押し出しているところはやはり異質だと思う。主人公とうきちは、不思議な現象にも慌てず、前世とのつながりを悟ったように動く。そして怨みが、文字通り昇華する。

前世、というのは読み手にとってかなり記憶に残るテーマだと思う。子どもたちはどうだろうか?そして刀、美しい結晶化とイメージに強く訴える物語だと思う。ちょっとジブリっぽくもあるかな。

ふむふむ。梨木香歩は、感覚、イメージというものを膨らませ、繋げて効果を高める人で、独特のアプローチが絵本にも表れているのか、いや私の見方はたぶん浅くて、もっと言葉で表せないような深い部分があるのではと思わせる。

作家さんの絵本は、どんな話を作っているのか興味深くてよく読む。ダイナミックで陰影の差が大きな絵とともに、心に刻みつけられる作品だった。

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