◼️ ロアルド・ダール「単独飛行」
戦闘機パイロットの命のやりとりを、どこかサラッと描く。多才な作家の自伝的作品。
推理小説を多く読んでたころ、オススメ本としてロアルド・ダールの「あなたに似た人」が紹介されているのを見て、てっきりミステリの人だと思っていた。奇妙な味わいの短編のほか「夢のチョコレート工場」など多くの児童文学作品に、007の脚本も書いたりしている。多才な人。
今回この作品を読もうと思ったのは、先に読んだ本で、飛行機を偏愛する宮崎駿の愛読書と紹介されていて興味を持ったから。ダールが飛ぶなんて思いもしなかった。
イギリス人のダールは若い頃シェル石油の社員としてドイツ人も多く住むタンザニアに赴任する。東アフリカの国の暮らしもなかなかワイルドで、大型毒蛇のブラックマンバもグリーンマンバも恐ろしい。
まもなくナチス・ドイツと開戦となり、急遽地元兵を連れて道路を封鎖する役目を、ほぼ押し付けられて、多くのドイツ人を捕虜にする。この時も武器を持ち殺気だった大勢のドイツ人を前に危機感いっぱいなのだが、兵への事前の指示により何事もなかったように大仕事をする。
すぐに志願して戦闘パイロットの訓練を受け、戦闘の経験がないまま配属されたが戦闘機の乗り方、空中戦のやり方などの教育が全くないのに呆れる。ほどなく燃料切れの末の着陸失敗で頭部に深刻な怪我を負い後送。
復帰すると同時に最悪のギリシャ戦線に配属される。すぐ近くに1000機はあるドイツの戦闘機、爆撃機が控えている。いっぽうイギリス機はといえば信じられないことに戦闘機がたったの15機。ザッツオール。毎日何度も友軍の船舶を守るために出撃、多くのドイツ機に取り囲まれながら戦闘に臨む。ダールがパイロットの時期は戦況が悪く、フランスもすでに降伏、フランス軍の一部がドイツに加わりイングランドはそちらとも戦わなければならなかった。
作中で、怖いとは思わなかったとダールは述べている。だが、パイロット仲間が次々と撃墜される中、圧倒的不利な中に飛び出していくダール。大変な戦闘でも、事も無げに、サラッと書いているのが印象に残る。
そんなに多いわけではないが、特に訓練などで飛ぶ時、アフリカの空から見た光景を魅力的に描写している。リアルな飛行機同士の戦闘も読みどころのひとつ。このへんが宮崎駿の心を打ったのだろうか。
「夜間飛行」「人間の大地」サン=テグジュペリの民間パイロットの視点から書いた飛行機小説も興味深いが、重い面もあるのが特徴。ダールはまた視点をずらし、戦闘をあたかも日常の一部のように描いている。撃墜、人死にの場面にも客観的で、冷静で、批判精神も持っているが過剰ではない。
やがて最初の事故の後遺症でダールはパイロットから外れることになる。3年ぶりに母と再会する最終のくだりも、戦中のイギリスのリアリティを際立たせている気がする。映画みたいだ。
体験談として、興味深く読み込めた。他のダール作品も読みたくなる。
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