2023年9月16日土曜日

9月書評の6

◼️ ポール・オースター「闇の中の男」

いくつものモチーフを持つオースター。このテイストも新たな出会い。

引き込まれるな、と思う。構成がバツグンで、盛り込んである要素も魅力的。あれ?と思わせる展開もうまく収まっている気がする。オースターは数を読んでるわけではなく、バラバラとそれぞれ違った設定の作品に目を通した感じかなと。「ムーン・パレス」「ガラスの街」「幽霊たち」「最後の物たちの国で」。でもさすがというかそれぞれインパクトが強くおおむねのストーリーと特徴を覚えている。「幽霊たち」のユーモアが特に印象が強かった。

熱心なファンも多いようだ。この本は書評で目に留まりひさびさに読んでみることにした。

老人とその家族の物語。孫娘は恋人が悲劇に襲われ、引きこもっている。祖父で語り手の老人は、脚の不自由を抱え、孫娘と数々の映画DVDを見ながら語らう。そして眠れない深夜、老人は、物語を夢想するー。それは、ある男が9.11テロが無く、アメリカがひどい内戦状態に陥っている世界に突然連れてこられ、正体不明の軍事組織から殺人を命じられる話だった。

オースターは9.11テロが起きた時、まさにニューヨーク、ブルックリンにいて、破壊された世界貿易センターからと思われる煙が窓から入ってきたそうだ。坂本龍一の著作では、当時の市民にとってこのテロはひどいショックで、危機感がピークだったという。今作はその影響が濃いそうで興味深い。また、劇中劇はオースターお得意だそうだ。

暗い家族のベースから引き込まれるストーリーが展開され読み手は引っ張られていく。ところどころ老人の現実が挟まれる。そして劇中劇と老人の過去といまが交錯し、やがて現実の比重が増して、役割を終えたストーリーに変わり、老人の家族の物語になる。

劇中劇が突然エンドを迎え、えっこれで終わっちゃうの?でもきっとラストには何らかの結末がーと期待を残す。しかし次第に中心となる家族のストーリーもまた味わい深い。何より詳しく紹介される小津安二郎「東京物語」の描写が圧巻で、日本の読者向けの作品とも思える。これもまた劇中劇の1つなのだろう。

人生には穏やかなことばかりではなく、大災害や戦争に突き当たり、そして人間の生の特質が現れ、冷酷でやりきれない切り捨ても起こる。もちろん小説となると特殊と思える話も多い。ふりかえり積み重なった歩みに想いを馳せ、そこにまた良かれ悪しかれ人間性を見出すことをひとつ表象してるんだなあ、なんて思って語る気にさせる。

世界的大事件の影響の取り込み、会話の妙、映画、芸術関連の小粋な要素、SF的歴史変換の劇中劇など構成には唸らされるものがある。

興味深く読み込めました。

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