2023年9月3日日曜日

8月書評の11

8月21日の週は夕立ち、ゲリラ豪雨🌩️☔️の週。平日も降ったし、週末土曜日は嵐かと思うほどの荒れ方。近くの伊丹市ではポツとも降らなかったらしい。日曜夕方に用があり、まあだいじょぶかな〜と思ってたらやっぱり大粒の雨、しかもめっちゃ天気雨。

夏の間やってたことがひと段落ついたので炭酸水がウマイ。

◼️ 米澤穂信「黒牢城」

重苦しさ、黒さが充満する連作短編。荒木村重、伊丹有岡城の籠城、知恵者を牢す。

主人公の武将荒木村重が立て籠もる兵庫県伊丹市の有岡城跡は電車で20分のJR伊丹駅の真ん前。多くの人が城跡の石垣を数年に1度は目にしている。というのがJR伊丹駅は車の免許更新センターの最寄駅だから。私はここ最近伊丹に展覧会に行ったりしてるし、次に有岡城跡を見る時はまた違う感慨を持ちそうだ。

であるから、物語に出てくる地名と位置関係も全部分かる。入り口で親しみが増した本。

荒木村重は織田信長に従う将だった。しかし突然叛旗を翻し、自らが作り上げた城塞都市有岡城に立て籠もる。説得に来た小寺(黒田)官兵衛を土牢に監禁し籠城は長きに及ぶ。しかし当てにしていた毛利輝元の援軍が来る可能性は薄く、味方の城は信長軍との交戦で戦わずして村重を裏切り、自ら開城するなど包囲網が狭くなっていく。

村重は人質である寝返った将の息子を斬首しなかった。家来たちには反発する者もいた。すると納戸に軟禁していた人質が死体となって見つかるー。矢による刺し傷が致命傷だったが、矢は見つからず、足跡もなく、納戸のある部屋は四方を厳重に見張られていたー。

息苦しさが充満する籠城戦。兵糧は十分、しかし戦局は不利となり周囲は敵で満たされる。無口で重々しい村重の言動がまた余計に物語の進行を鈍くするように感じる。次々と起きる怪事件、行き詰まり、土牢の官兵衛と話に行く、日が入らず狭苦しい場所に何か月も監禁されている官兵衛。暗く、黒く、狂気も垣間見える。

タイトルは暗い牢、黒さを感じる物語と黒田官兵衛の黒、そして籠城をかけているのだろうか。ひとつひとつがミステリー仕立ての連作短編で、なるほど米澤穂信らしい。どんどん苦しくなっていく。

織田信長存命の戦国という人気の時代の、ひとかどの武将荒木村重と黒田官兵衛のつながりから物語を起こし、抜群に切れたという官兵衛を切り札の探偵役にする発想、千代保という慈悲と透明感のある女の存在と、この苦しさ、黒さ。仕掛けと筆致はなるほど直木賞にふさわしいかもしれない。いやそうだろう。

ただ、ひとつひとつが長過ぎ、村重の深みを引っ張りすぎような冗長なところ、ミステリ仕立ての過剰な作り込みなど、違和感を感じる部分もある。そこは相性が合わない作家さん、と以前から思ってたりする。

ふむふむ。狙いの明確な、読ませる力のある作品でした。

0 件のコメント:

コメントを投稿