2015年12月30日水曜日

2015私的読書大賞!大賞とランキング発表!





やっと到達しました。年間大賞。1年に1度のこの催しもはや5年め。昨年までの年間大賞を振り返ります。   

2011年   北村薫「リセット」
2012年   熊谷達也「邂逅の森」
2013年   藤原伊織「テロリストのパラソル」
2014年   朝井まかて「恋歌(れんか)」

私は自他ともに認める女子系読書家。しかしここまで年間大賞4回のうち3回が男性作家。意図したわけではないんだけどね。

前フリはここまでにして、では!

2015年の年間大賞は・・・

【年間大賞】 朝井リョウ「何者」

でした!

最も感銘というか、衝撃を受けたのがこの作品で、迷うことはなかった。作者の身近な素材で、鮮やかな仕掛けを作る。表現の多彩さも含め完成度が高いと思う。テクニカルなイメージも強いので、いつかは仕掛けばかりでなく朝井リョウの心の叫びを読んでみたい気もするな。

では引き続き・・【年間ランキング】

1位楊逸(ヤン・イー)「時が滲む朝」
2位ピエール・ルメートル
「その女アレックス」
3位須田桃子「捏造の科学者 STAP細胞事件」
4位坂東眞砂子「朱鳥の陵」
5位上橋菜穂子「狐笛のかなた」
6位長野まゆみ「少年アリス」
7位川端康成「雪国」
8位高橋克彦「火怨〜北の耀星アテルイ」(2)
9位熊谷達也「荒蝦夷」
10位ジャック・ロンドン「野性の呼び声」
11位藤沢周「武曲(むこく)」
12位米原万里「オリガ・モリソヴナの反語法」
13位伊東潤「巨鯨の海」
14位湯本香樹実「夏の庭  The Friends」
15位村上春樹「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」(2)
16位奥田英朗「ガール」
17位上橋菜穂子「闇の守り人」
18位岩城けい「さようなら、オレンジ」
19位桜木紫乃「ホテルローヤル」
20位島本理生「リトル・バイ・リトル」

てなもんですね。

大賞の次に1位をつけるのも毎年書くんですが、まあボクシングも1位の上にチャンピオンがいるということで・・。1位がないと収まりが悪いのです。

1位の「時が滲む朝」は天安門事件前後の話。亡命した運動家ではなく、民主化運動に参加した普通の学生のその後を描いている。大学の時に中国、東欧そしてソ連でドラスティックな変化があって、ノスタルジーに訴えかけてきた。

2位の「その女アレックス」は、構成の巧みさが本当に素晴らしい。読むごとに真実が明らかになる、その意外性がポイントだった。

3位のSTAP細胞は、よく整理出来ていない事案を理解するのに役立った。あのセンセーション、突然なにが起きてどう去って行ったのか、よくわかった。学界の盲点というか闇、ですな。

4位は壬申の乱もの。これに影響されて飛鳥まで足を伸ばした。今年一番思い出に残る外出だった。飛鳥はすばらしい。

5位のファンタジー、今年は上橋菜穂子の年だったな。キレがあって、曖昧な部分が少ない、つまり都合のいい展開が少なく、感覚的に、話に光が見えるような気がする。

その他も思い出に残る作品ばかり。今年は「リトル・バイ・リトル」や「夏の庭」など短い良作をたくさん読んでいい刺激を受けた。また川端康成に感銘を受けた年でもあり、外国の古典もミステリー、物語問わずそれなりに読んだ。

さあ、来年はどんな作品が待っててくれるだろう。また、読むぞ。

2015年12月29日火曜日

2015私的読書大賞!各賞発表!





毎年恒例、私的年間読書大賞、各賞の発表。
まあ見てください。

【表紙賞】

岩城けい「さようなら、オレンジ」

ジャケ買い、とよく言うが、これはと読む気にさせる表紙、装丁は絶対にある。当然タイトルも大事。今年読んだので言うと、「アルキメデスは手を汚さない」なんかは表紙もタイトルも人を惹きつけるな、と思った。あと、梨木香歩「渡りの足跡」も。

私は基本、文庫しか買わないので、単行本の華やかさとはまた別物だ。

「さようなら、オレンジ」は、タイトル、表紙、中身がそれぞれちょっと異質で、充実した作品だと思う。やっぱ目を引くでしょ?

【ロマン賞】

ジャック・ロンドン「野性の呼び声」

元々アラスカやシベリアの自然ものが好きだというのもあるが、この古典には想像力をかきたてられた。名作系は今年いくつか読んだが、ひときわ印象が強い。

【絵画賞】

高橋克彦「北斎殺人事件」

浮世絵が好きだ〜!というのがよく伝わってくる。土曜ワイド風味でもあるが、ストーリーに流れる物哀しい感情の発露は、高村薫を感じさせるような気もする。って、高村薫は「レディ・ジョーカー」しか読んでないんだけどね。

【目標ひとつ達成賞】

江戸川乱歩「幽霊塔」

ルパン三世の名作「カリオストロの城」。劇中に出てくる時計塔のモデルというか発想のもとになったのがこの作品、と知った直後にブックオフで見かけ、即買いした。想像力って不思議だなあ。

【インスピレーション賞】

インスピレーションを感じ、記憶に残った作品たち。複数表彰。

パウロ・コエーリョ
「アルケミスト  夢を旅した少年」
西加奈子「白い印」
桜庭一樹「少女には向かない職業」
千早茜「あやかし草子」

「アルケミスト」では錬金術という西洋的な考えを知った。西加奈子は、白で描く絵という発想勝ち。桜庭一樹はどっしりとしたベースと感性の感触あり。「あやかし草子」は、好みの鬼などの話を、綺麗に、鋭く表現した筆致のセンスを認定。

【特別賞】

リチャード・バック「かもめのジョナサン」
いかりや長介「だめだこりゃ」

解説の必要なし。めっちゃ興味深かった。

以上でした!


さて、ところで、これまでどんな賞があったのか振り返っておきたいと思います。  

2012年・・年間特別賞、優秀エンタテインメント賞、意外にびっくりしたで賞、おすすめハードボイルド賞、ライフワーク賞。

ちなみに優秀エンタメ賞は「ビブリア古書堂」シリーズ、ライフワーク賞は北村薫。

2013年・・ベストエンタテインメント賞、文化人類学賞、期待する作家賞、ベストスポーツ賞、ベストノスタルジー賞、特別賞。

ベストスポーツ賞は長谷部誠「心を整える」、特別賞は藤原伊織「ダックスフントのワープ」。

2014年・・優秀短編集賞、そんなジャンルがあったか賞、カルチェ・ラタンの意味が分かった賞、ハードな作りと強いクセ賞、最優秀外国小説賞、ザ・読み応え賞、ベストエンタメ賞、期待してるぜ賞、功労賞、ベストスポーツ賞、泣泣賞、笑×2賞、特別賞&表紙賞に別ステージ賞。

功労賞は高田郁「みおつくし料理帖」シリーズ、別ステージ賞は和田竜「村上海賊の娘」百田尚樹「海賊と呼ばれた男」。

去年からえらい増えてまた張り切ってんな・・(苦笑)。どんな賞を作るかもまたその年の読書に拠ると思っている。

次回はいよいよ、ランキングおよびグランプリ発表!


2015年12月26日土曜日

2015私的読書大賞!ノミネート





今年もやってきました。大賞、ランキング。1年の読書をまとめ振り返る、ま〜〜ったく私的なイベント。でも楽しんでやれてます。

さて、まずは今年読んだ本の一覧。122作品125冊でした。

ガイ・アダムス「シャーロック・ホームズ 神の息吹殺人事件」
島田荘司「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」
ルネ・レウヴァン
「シャーロック・ホームズの気晴らし」
万城目学「鹿男あをによし」
三上延
「ビブリア古書堂の事件手帖6~栞子さんと巡るさだめ~」
パウロ・コエーリョ
「アルケミスト  夢を旅した少年」
乾ルカ「夏光」
P•D•ジェイムズ「女には向かない職業」
森絵都「カラフル」
ジャック・ロンドン「野性の呼び声」
江戸川乱歩「幽霊塔」
桜庭一樹「少女には向かない職業」
エレナ・ポーター「スウ姉さん」
星新一「クリスマスイブの出来事」
高橋克彦「北斎殺人事件」
北村薫「1950年のバックトス」

1月  16作品16冊

ピエール・ルメートル「その女アレックス」
伊坂幸太郎「PK」
綿矢りさ「ひらいて」
万城目学「ホルモー六景」
ディック・フランシス「興奮」
太宰治「晩年」
井箟重慶
「プロ野球もうひとつの攻防
『選手vsフロント』の現場」
福田俊司「シベリア動物誌」
西加奈子「白いしるし」

2月  9作品9冊/25作品25冊

坂東眞砂子「朱鳥の陵」
島田荘司「御手洗潔と進々堂珈琲」
小関順二「2015年版 プロ野球 問題だらけの12球団」
筒井康隆「旅のラゴス」
ジェローム・デビッド・サリンジャー
「フラニーとズーイ」村上春樹訳
藤沢周「武曲(むこく)」
湯本香樹実「夏の庭  The Friends」
安部公房「砂の女」
磯﨑憲一郎「終の住処」
奥田英朗「ガール」
朝井リョウ「少女は卒業しない」

3月  11作品11冊/36作品36冊

須田桃子「捏造の科学者 STAP細胞事件」
桜庭一樹「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」
山本兼一「花鳥の夢」
ロアルド・ダール「あなたに似た人」
万城目学「偉大なる、しゅららぼん」
上橋菜穂子「精霊の守り人」
米澤穂信「氷菓」
アーネスト・トンプソン・シートン
「シートン動物記 ぎざ耳ウサギの冒険」
東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇蹟」
皆川博子「開かせていただき光栄ですーDILATED  TO MEET  YOUー」

4月  10作品10冊/46作品46冊

川端康成「雪国」
阿部和重・伊坂幸太郎
「キャプテンサンダーボルト」
カトリーヌ・アルレー「疑惑の果て」
近藤史恵「ヴァン・ショーをあなたに」
森絵都「リズム」
雫井脩介「つばさものがたり」
朝井まかて「ちゃんちゃら」
水野敬也「夢をかなえるゾウ」
三崎亜記「鼓笛隊の襲来」
宮下奈都「窓の向こうのガーシュウィン」
熊谷達也「荒蝦夷」
パウロ・コエーリョ
「ベロニカは死ぬことにした」

5月  12作品12冊/58作品58冊

ガイ・アダムズ
「シャーロック・ホームズ 恐怖!獣人モロー軍団」
七月隆文「ぼくは明日昨日のきみとデートする」
楊逸(ヤン・イー)「時が滲む朝」
阿刀田高「ギリシア神話を知っていますか」
朝井まかて「すかたん」
サラ・グラン「探偵は壊れた街で」
米原万里「オリガ・モリソヴナの反語法」
米澤穂信「愚者のエンドロール」
コナン・ドイル「四つの署名」
上橋菜穂子「狐笛のかなた」

6月  10作品10冊/68作品68冊

熊谷達也「氷結の森」
朝井リョウ「何者」
小森陽一「天神」
恩田陸「ねじの回転」(2)
梨木香歩「雪と珊瑚と」
朝井まかて「ぬけまいる」
重松清「とんび」

7月  7作品8冊/75作品76冊

東野圭吾「禁断の魔術」
ジョン・ディクスン・カー
「皇帝のかぎ煙草入れ」
小峰元「アルキメデスは手を汚さない」
泡坂妻夫「11枚のとらんぷ」
カトリーヌ・アルレー「わらの女」
横山秀夫「臨場」
柄刀一
「御手洗潔対シャーロック・ホームズ」
瀬戸内寂聴「夏の終わり」

8月  8作品8冊/83作品84冊

上橋菜穂子「闇の守り人」
上橋菜穂子「夢の守り人」
西加奈子「ふくわらい」
須賀しのぶ「雲は湧き、光あふれて」
朱川湊人「サクラ秘密基地」
中島要「しのぶ梅 着物始末暦」
早見和真「ひゃくはち」
ジョージ・マン編
「シャーロック・ホームズとヴィクトリア朝の怪人たち」
岩城けい「さようなら、オレンジ」
万城目学「プリンセス・トヨトミ」

9月  10作品10冊/93作品94冊

村上春樹「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」(2)
湯本香樹実「岸辺の旅」
梨木香歩「渡りの足跡」
麻耶雄嵩「隻眼の少女」
下川裕治「世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア横断2万キロ」
上橋菜穂子「虚空の旅人」
熊谷達也「相克の森」
高橋克彦「火怨〜北の耀星アテルイ」(2)
長野まゆみ「鳩の栖」

10月  9作品11冊/102作品105冊

野村克也「野村ノート」 
桜木紫乃「ホテルローヤル」
堀辰雄「風立ちぬ」
リチャード・バック「かもめのジョナサン」
新田次郎「チンネの裁き」
島本理生「リトル・バイ・リトル」
千早茜「あやかし草子」
ルイス・キャロル「鏡の国のアリス」
野村順一「色の秘密」
小関順二「間違いだらけのセ・リーグ野球」

11月   10作品10冊/112作品115冊

長野まゆみ「少年アリス」
いかりや長介「だめだこりゃ」
柚月麻子「ナイルパーチの女子会」
中島要「藍の糸 着物始末暦二」
山井教雄「続 まんが パレスチナ問題」
原田マハ「旅屋おかえり」
川端康成「伊豆の踊り子」
角田光代「紙の月」
関口尚「プリズムの夏」
伊東潤「巨鯨の海」

12月    10作品10冊/122作品125冊

今年も、世界の名作、日本の定番等々織り交ぜて読めたのと、短い、薄い本もけっこう読んだことで、若い作家や、売れっ子の、世に認められるきっかけになった作品に良いインスピレーションを得た1年だったなと思う。

次回は各賞の発表でーす。


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2015年12月23日水曜日

12月書評の2




ブログに書評を載せ始めてからもうだいぶ経つ。4年くらいかな。合わせて500作品ほどのものを書いてきたわけだ。

年末だからつい、そんなことも思ってしまう。まだまだ、読むし書くばい。


原田マハ「旅屋おかえり」

2回じわっと泣かされた。原田マハって変わった人だな。芝居がかりすぎてるように感じるけど、なぜか持って行かれる。

元アイドルのタレント、丘えりかは唯一レギュラー出演していた旅番組が打ち切りに。所属の零細事務所も窮地に追い込まれる。そんな折、地下鉄での忘れ物がきっかけで、「代わりに旅をして欲しい」という依頼が舞い込む。

偶然があったり、舞台が出来すぎてたり、まるでコメディのテレビドラマだな、と最初は鼻白んだ。

でも、1つめの旅でじわっ、最後の旅でぐっと来た。なんというか、出来すぎているからストレートな主題が伝わるんだろうか、と思い直した。

原田マハは、「楽園のカンヴァス」でこれはと思ったが、やはりドラマ仕立てのストーリー展開のきらいも感じた。「総理の夫」は、まあマンガか、というくらいの派手な発想と展開だった。

舞台設定や展開が都合よすぎると、どこか薄くなる場合が多い、と思っている。しかし、小説である限り完全なリアリティは有り得ない。フィクションであるなら読者を連れて行く土台はキレイな方がいいかもしれない。またそこに気を割きすぎるのは本当に書きたいことへ行く道のりを阻害するのかもしれないな、などと珍しく考えちゃったりした。

やっぱも少し落ち着いた方が好みだけれど、原田マハがある種の「調和力」を持っているのは確かなようだ。

川端康成「伊豆の踊り子」

日本の名作世界のノーベル賞。この時代のこのような話は確かに世界でも注目を引くかも。

旧制一高の学生である二十歳の「私」は、伊豆旅行中に旅芸人の一行と出逢って懇意になり、わけても天真爛漫な十四歳の踊り子・薫に心惹かれる。

温泉場、学生、旅芸人と、美しい少女。日本の前近代の風情を描きながら、なんというか、ストレートに少女性を浮き立たせる。直接的な短編で、鮮烈なイメージ。なるほど、という感じだ。

余計な説明があまり無く、予備知識無く読み始めた身には学生の背景や少女の今後に大いに想像力を膨らませた。後で、実は作家本人の実体験だったと知った。そうなると評価もまた変わってくるのだろうが、やはり純粋に小説として見たいと思う。

直接的で、刺激的でもあり、読者に考えさせ、大いに余韻を感じる。短編のある意味頂点のような作品だ。

角田光代「紙の月」

映画にもなった話題作。読むのはさらさら進み、沖縄出張行き帰りで完読。

タイのバンコクで人に紛れる梅澤梨花。普通の主婦だった梨花は、勤めていた銀行から1億円もの金を横領して逃亡していた。

共働きの主婦の転落の軌跡を描いた物語。味付けとして、梨花ほどではないが、さまざまな理由から浪費癖が爆発する女子たちも登場している。

角田光代は「八日目の蝉」、直木賞「対岸の彼女」など名作がいくつかあり、そもそも求めるものが高いというのもあるが、この作品は、もうひとつかな。

今回センセーショナルに売り出した感があるし、刺激的には違いない。しかし転落の成り行きにあまり斬新さは感じられず、私には合わないな、という感想だった。

関口尚「プリズムの夏」

高校生の少年たちの物語。たまにこういうのを読むと清々しい心持ちになる。小説すばる新人賞受賞作。

高校3年生のぼく・植野は、友達の今井の家へ通っている。2人の興味はいま、鄙びた映画館の切符売場で出逢った、美しいがひどく愛想のない女性・松下さんに向いていて、彼女に会うため、映画館に何度か通い詰めていた。

今井の抱える事情や、少年らしい青い会話、突っ走るエネルギー、サスペンスフルな要素などなどが詰まった、初々しい作品。どこかで聞いたような話が形を変えたバージョンのような気もする。

設定の都合良さやパターン付いた風景の表現、ラストのあっさりし過ぎさなんかが気になったりするものの、それなりに楽しんで読んだ。少年たちのほとばしるエネルギーを読むのは楽しい。やっぱ夏なのかなあ、高校生ものって。

関口尚は「空をつかむまで」というのが書評サイトに書かれていて興味を持った。この作品が賞をとってデビューしたというので、まずは世に認められた作品が読みたくなった。

ミニな作品だが、山も谷もある。まずまず。

伊東潤「巨鯨の海」

鯨漁で栄えた和歌山・太地。生々しく迫力あるその漁と、鯨組の中で生きる人々に起きる、様々なドラマを描く短編集。

太地の鯨組で、銛を扱う一船のリーダー、刃刺(はざし)。その補助を務める音松は、自分の船の、腕のいい刃刺・仁吉に憧れていた。かつていじめられている時に流れ者の仁吉に救ってもらったのだが、ある日仁吉のもとを訪ねた音松は、その過去を知ることになる。(旅刃刺の仁吉)

男っぽく骨っぽい作品。全短編に共通するのは、大掛かりにしてシステマチック、そして死と隣り合わせのクジラ漁の光景描写である。そして、厳しいが、人情味もある、独立国家のような仕組みを作った太地鯨組を詳しく扱っていて、とても興味深いく心惹かれる。

漁が最盛期を誇った江戸時代中期から、明治維新後の話まで、流れも作られている。個人的には、セミクジラ、マッコウクジラ、ナガスクジラなどそれぞれの鯨の生態と特徴、それにより漁がどのような影響を受けるか、という部分も面白かった。

12月書評の1





12月は調子よく、20日間で10冊読めちゃいました。ここで打ち止め。次回は年間ランキングを発表する予定です。  毎月次月の月初めに前月の書評を載せてるけど、1年で師走だけは特別。先に月刊書評で後で年間。早めの月刊書評になるから、毎年の年末読書は来年分に回ってるのです。

さてさて、12月は善かれ悪しかれ、バラエティ豊かで充実したラインアップでした。


長野まゆみ「少年アリス」

うーん、やられてしまった。幻想的な、少年達の学校ファンタジー。

アリスは、兄の色鉛筆を取りに行くという友人の蜜蜂と、その飼い犬の耳丸とともに夜の学校に忍び込む。理科室で行われていた不思議な授業を覗き見たアリスは1人、授業をしていた教師に捕らえられてしまう。

長野まゆみは、この作品で河出書房の文藝賞を受賞し注目された。1989年、作者30歳の時の作品。10代の女性を中心に熱狂的な支持を得てロングセラーとなった、と説明にある。

やたら難しいあて漢字を使い、植物や自然などの描写を織り込むのだが、それが雰囲気を作り上げ、独特のワールドを作っている。明らかに想像上の生物もあるのだが、それさえも世界観に貢献している。

今回はいつもの少年ものの、夜の学校ファンタジー。様々なものの表現は素晴らしい冴えを見せ、ストーリーも面白く、狭いがベースとなる人間関係もしっかりと構築している。

解説がこれまた高次元でサッパリわけ分からないのだが、ここはその中から引用して終わりにしよう。

「幻想作家としての長野まゆみは、事物の変容のために必須の媒体としての水や大気の「曖昧」な気配を醸し出す力量に並はずれたものを持っている。」

いやーハマっちゃいそうだ。次もきっと読むだろう。

いかりや長介「だめだこりゃ」

たまにこんな出会いがある。だから、本屋通いはやめられない。

いかりや長介がその半生を振り返った一冊。生い立ちから、ミュージシャン時代の話、ドリフターズで活動し始めたこと、もちろん、「8時だョ!全員集合」のこと、荒井注の脱退と志村けんの台頭、「全員集合」が終わってからのこと・・などなど、戦後のテレビ史とも言える内容が詰まっている。

かなり真面目な内容だし、謙遜が目立つ。自分の内面についても分析している。だいぶ前に谷啓の自伝を読んだが、この時代はみな、「風のように駆け抜けた」という感じがする。

「全員集合」は、皆が同じものを見ていたテレビ全盛時代の代表的な番組で、毎週楽しみにしていた。スター歌手もたくさん出ていた。志村のギャグも懐かしい。長さんの「おいっす!」、加藤茶の「歯みがけよ〜」はもはやノスタルジーだ。志村以外の全員の芸名をクレージーキャッツのハナ肇が酔っ払ってつけたという話が面白かった。

ブックオフで、100円コーナーを丹念に見ていた時に見つけた本。ちょっと前は100円コーナーなんて、茶色に変色してるわ、カバーはボロボロだわで手が出なかったが、最近は、数があるものや売れないものはきれいでもどんどん移すから、よく見ている。そして探してて見つけたのではない、偶然の出会いの一冊。

とても楽しんで読めた。

柚木麻子「ナイルパーチの女子会」

うーむ。頭で考え過ぎたような感じ。直木賞候補作、山本周五郎賞。

一流商社の美人キャリアウーマン、30歳の栄利子は、愛読していた手抜き主婦ブログの執筆者、翔子と偶然出会い、意気投合する。しかし、栄利子は数日ブログの更新が無いだけで、過剰に心配し、ついに極端な行動に出るー。

柚月麻子は女子高生のドロドロした感情を描いた「終点のあの子」で注目され、また別の明るいタッチで書いた「ランチのアッコちゃん」がヒットした。この「ナイルパーチ」も含め、3つがすでに直木賞候補作となっている。

私はアッコちゃんの明るさと、生き生きとした東京の描写も好きだったが、「あの子」風味の作品もまた読みたい、と思ってきた。

今回は、そちらベースの話ではあった。しかし、いろんな要素も、過激さも、性描写も、気合いが入っているのだけはよく伝わってきたが・・部分的にも、全体的にも、ちょっといただけなかったな。等身大の翔子には好感を持たないでもなかったが、それだけだった。

中島要「藍の糸 着物始末暦」

着物の始末屋余一が活躍するシリーズ2作め。だいぶ江戸ものっぽくなってきた。

余一をよく思わない大店の若旦那・綾太郎は、許婚が居ながら、余一に恋い焦がれる一膳飯屋の娘・お糸にちょっかいを出そうとする。その話を聞きつけた余一は憤然として綾太郎のところへやって来る。(藍の糸)

最初の作品はなんとなく粗い感じで、登場人物がどのような絡みを見せて、どういったストーリーを作っていくのかよく分からなかったが、今回はそれぞれのキャラに躍動感が出て、江戸人情ものらしい感じになってきた。

着物、布とそれにまつわる話が芯で、今回は人情話とともになにやらミステリーめく。すらすら読めるようにはなった。

まだ違和感を感じるのは、解決が早くてあっさりしているように見えること。通常江戸ものは、もう一悶着ふた展開あって団円、ということが多いが、ちと薄さも感じた。でも次の巻でようやく見えてきた人間関係がどう変化していくのか楽しみだ。

山井教雄「続 まんが パレスチナ問題」

名著の続編。ますます混迷するパレスチナ情勢。たまたま本屋で見つけて即買いだった。

最初の巻は、10年前に発売され、六本木の本屋で買って読んだ。なぜ、パレスチナ問題というのは起きたのか、というかなり歴史的なところから紐解いてあって、とても分かりやすく面白く、何回も読み直した。

タイトルのごとく、まんがを混じえ、昨今のパレスチナ、イスラエル、中東世界全体の情勢を紹介している。今回は、9.11同時多発テロ以降の出来事に沿い、ヒズボラ、オバマの登場、ブッシュが始めたイラク戦争とアフガニスタン戦争のその後、アラブの春、そしてイスラム国の登場と、言葉は知っていてもつぶさには理解していない事柄を紐解いている。

ほのぼのとする絵柄だけでなく、現地の風刺画や漫画を掲載してあって、また権力者のデフォルメも絶妙だ。文字の説明も多くあり、感覚的にもなじみやすい。

前巻に比べれば、歴史が少なく現状を多く解説しているので、ちょっと理屈が多いようなきらいもあるし、断定しているところは複眼的な見方もあるだろうな、とは思うけど、たぶん近いうちに、前巻とこの本を通読して見るだろう。

年末までの読む本はだいたい決まっていたが、こういうのが飛び込んでくるのも面白い。

2015年12月21日月曜日

南国と歳末




本来、私はかなり余裕を持つ方である。待ち合わせには遅れないようにと気を遣って、物件によるが、外部との打ち合わせなど15分前には現地に着く。新幹線も早めに着いてあれこれと時間を潰すし、飛行機には出発1時間前くらいに空港にいるようにする。なにかトラブルがあって焦るのが嫌なのだ。

さて、今週は火曜に沖縄出張があった。2時間以上も飛行機に乗っていると、本読んで、さらに寝る時間がある。空港からレンタカーで移動、高速途中のパーキングで昼ごはんを食べるが、なんか沖縄に来ている感じはしない。あっという間に着いたからだろか。それとも雨風で、関西との気温差をあまり感じなかったからだろうか。

結局用事が遅くまでかかり、現地を出たのは18時過ぎ。帰りの飛行機は19時40分。高速混んでいる。これはヤバイ。ガソリン満タンにしてレンタカー返して空港に着いたのが25分前。空腹に耐え切れずレストランでカツカレー。先に会計済ませて自衛隊並みの速度で食べ、トイレして、小走りで搭乗口まで行ったのは5分前、だったが、遅れててまだ優先搭乗だとか。助かった。タバコ吸ってひとくち飲み物飲む時間あり。久々のギリギリだった。機内は空いてて、これも良かった。

この他は週末、同窓会の忘年会に、十三に行った。昨年の10月から行っていて、飲み会自体はほぼ2ヶ月に1回くらいやってるので、もう5回目くらいだろうか。最初は話したことがある人がほとんどいなかったが、まあおなじみさんになり、参加者も増えている。

私はあまり目立つ方では無かったから、当時華やかだった方に引け目が無いわけではないが、まあ今は・・である。男女も垣根は無いしいい感じ。夕方から呑んで10時30分に撤収。

翌日は午後からまた梅田で買い物。靴のスタン・スミスを夫婦分買って、ヨドバシカメラで息子デュエマのカード買って、グランフロントの回転寿司で晩ごはん食べて、パパ本を2冊買って帰る。ぐふふ。でも、買いたい本が買えてるのはいいが、借りたのも含めていまかなり積ん読状態。正月で解消できるのか果たして。少し購入は控えよう。読んだのが増えてきてるから、また少しずつブックオフに持って行かねば。

気がつけば営業日もあと数日、先ほどようやく年賀状の発注をファミマへスマホで済ます。あっという間だな〜。

2015年12月14日月曜日

何もありません





琵琶湖から帰ってからというもの、デスクワークの繰り返しで、さして書くことがない。うーん。水曜日にお寿司をごちそうになり、木曜日に人間ドッグに行った。やっぱ午後からの方が、朝ごはん食べることが出来るので楽である。バリウムが苦手というよりは、胃を膨らます発泡剤がいやだな。

土曜は高槻に行って行列が出来る店で野菜カレーを食べた。夕方晴れていたのできょうは、と思ったが、夜は雲が出て、ふたご座流星群見えず。

この2週間は、秋の疲れが抜け切れず、なんとなく体調が悪かった。仕事もダラダラとしてしまった。

日曜日は珍しく息子の塾の送り迎え。バスで降る。隣の駅の近くまで送って、2時間時間つぶし。もちろんブックオフ。ゆっくり眺めて1時間ちょっと。村上春樹「風の歌を聴け」関口尚「プリズム」伊東潤「巨鯨の海」購入。駅に戻って、ショッピングビルの座れるレストコーナーでしばし本を読んだらもうお迎え時間。

出てきたのを連れて帰る。気候のいい日曜日、車混雑のためかバス遅れる。寝かしつけた後やっと晴れた空を前にしばしふたご座流星群観察。首が痛くなったのでそんなに長い時間は見てないが、4つ流れたのを確認。相変わらず流星は、静かで、一瞬の光が鮮やかだ。心が落ち着く。

特段なんということもない週末。次週にはクリスマスプレゼントを買い揃えなきゃ。いよいよ年末モードなのでした。。

2015年12月6日日曜日

琵琶湖休暇の2







翌朝はパパ1番6時起き。まだ暗い琵琶湖沿岸。でももう犬の散歩をしてる人がちらほら見える。ごそごそしてると、犬たちも起き出して、朝の散歩with息子。風が強い、寒い。湖の上に帯になった雲。大きな景色に思わずパチリ。息子は早くに帰ってしまって、姿が見えず、ちょっと心配する。

朝風呂入ってあさごはん。和食だがパンもあって、昨夜はグミで腹を持たせた息子にも食べれるものがある。部屋に帰って荷物をまとめる。もう1泊したいところだが、なにせ人気のホテル。空いてない。学校もこれ以上休めない。

荷物を車に載せてからドッグランでワンコを遊ばせる&キャッチボール。ゴロの練習が楽しそう。食事の時にテーブルが隣になった女性1人の方のキャバリアがボールを追っていくので面白がって転がす。

帰りは目を付けておいたクラブハリエの本店というところへ行った。すごい大きい、草葺きのように見える建物。中でほこほこやわらかいバームクーヘンお茶セットを食べた。

彦根城へいざ出発。車で1時間かからないくらい。途中息子はフライドポテトを食べたいと不機嫌。途中寄ってやる。Mは多いと文句言ってたが完食。彦根城。平日昼間なのにメインの駐車場はなんと満車。土日は推して知るべし。ちょっと寒いが天気はいい。

天守閣目指して登るが、登り口の入り口に料金所。大阪城やほかの城は天守閣の入り口に料金所を置いている。正直規模もそんなに大きくないのに、商魂たくましい。

まあそれでもせっかくだからと入って登る。息子はさっさと先に行く。天守閣のある頂上平地に、ひこにゃん登場。ほー。こっちこっち、と言ったら向いてポーズを決めてくれる。

天守閣へは、中に入って、めっちゃ急な、はしごみたいな階段を登った。展示品も無く、登ってガラス窓越しに琵琶湖を眺めた。下りの階段は、「パパが先に降りる」というと、「パパが落ちてこないため?」まあ、落ちゃせんとは思うがその通り。息子が降って来た方が被害が少ない。

帰りは、彦根インターから帰る。もちろん息子とベタベタ後部座席だが、見事にご就寝。頭をパパのひざに預けてるので動けずしばらくそのまま。けっこうこの辺ってサービスエリア少なくて、結局吹田で夕方に晩御飯。昼メシ無かった。ようやく帰り着き、ワンコたちも安心。

まずまず楽しかった。

琵琶湖休暇の1







先の月火で休みを取り、家族で琵琶湖に行ってきた。

寒いかもしらんし、防寒着多めで持ってったが、ほとんど使わず。全体に気候穏やかだった。

行きの車から、普段は助手席に乗っている息子が、パパと一緒に後ろに乗る、と言い出して、さらにレオンはケージに入れて後ろだけど、おとなしいクッキーは後部座席なので、私と息子はくっついてぎゅうぎゅう。いつもは1人で足伸ばしてるのに。今回ベタベタでした。

名神から京滋バイパス。高速で標識読んだり、スーパーフライを一緒に歌ったり、途中1回パーキングに寄って昼ごはん食べて息子はグミを買って、色々話したり犬の面倒を見ている間にあっという間に目的インター。

降りてすぐ、クラブハリエの本店、と事前に知識を仕入れていた建物横を通過。また野菜の直売所も通過。帰りに寄ることにする。田舎道をしばらく走って、琵琶湖沿岸に曲がる。するとすぐに目的地のドッグリゾートに到着。

東京にいた頃、ちょうどドッグリゾートが出来始めた時期で、2年続けて富士山と伊豆に行ったが、関西ではなかなか出来なかったが、まさに初と言える感じの施設。出来たばかり、1回には吹き抜けのロビーとカフェがあって、その向こうに出たら3面のドッグランがある。デラックスである。

チェックインまでちょっと時間があったので、まずは松林の向こうの湖を見に出かける。砂浜に雄大な湖。「地平線が見えるー」「ちょっと怖い」と息子。地平線じゃなくて水平線だよ、と教える。ここは湖南。湖西と湖東方向に山が見える。湖北はかすんで見えず、水平線。水切りをする。さざなみが立って、水はきれいだ。

ほどなくして敷地内の、芝のドッグランに移る。そこそこ広くて誰もいなくて、犬を放したら息子とキャッチボール。いつもは幼児も来る公園で、しかも取り逃がすとネットの下を抜けて最悪ボールがなくなる所でやっている。きょうは、気兼ねしなくていいから楽。

左右の取れるか取れないかの所に速いゴロを投げてやると楽しいようで、もっともっとと急かされた。

部屋はコテージから急遽ホテルの部屋へ。広くてダブルベッド3つ。長ーいソファありの琵琶湖ビュー。妻はうたた寝、息子はゲーム。気持ちは分かるが琵琶湖に来なくとも出来るだろうと、ワンコと息子と連れて散歩に行く。ま、リゾートではのんびりするのもいいんだけどね。

夕景の琵琶湖は美しい。浜辺を歩いて、道に上がって帰る。別荘街も人と車の行き来はほとんどない。寒くなって、暗くなったころ帰り着く。夕食。

もちろんワンも一緒に行く。レストランで、シャンパンを頼んでフルコース。息子にはアダルトなメニューだったかも。また、ここでクッキーが弱点を露呈した。やたらソワソワして、吠えるのである。そりゃクッキーも犬だから吠えるが、これには理由がある。

レオンが我が家に来た時、息子はまだ居なかった。我々は外出の際はレオンのためにドッグカフェやレストランを探して行った。レオンもまた、大型犬にもひるまず、社交性を身に付けた。

クッキーが来たころは、息子は年長さん。まだまだめっちゃ手がかかる頃。レオンは息子が生まれてから王子様の座を滑り落ち、我々は当然息子優先となっていた。もはやドッグカフェやレストランに行く習慣は、たまには行ったがほとんど無くて、クッキーはそういう場に慣れることがなかった。かつてクッキーだけドッグカフェに連れて行ったことはあるが、私のひざに乗りたがり、明らかに怖がっていた。

たくさんの人と見知らぬ犬に囲まれたクッキーは、パニックを起こしてしまったのだ。部屋に帰ってからも、ママのベッドなどトイレ以外の所でオシッコをしたり、ママがお風呂に行くともうドアのそばを離れないでクンクン言う。完全に情緒不安定。普段ママが家を留守にする時は、レオンの方が寂しがってウロウロし、クッキーは私のそばでどっかと寝ているが、今は外出慣れしているレオンの方がよほど落ち着いている。

ちなみに大浴場は、メインのお風呂が広めで人も居なくて、屋外のジェットバスも独占でゆっくり入れた。よく人に言うのだが、私は温泉というものに興味がない。人が多いならなおさらだ。だけど、こんな広々とした風呂をゆっくり使えるならOK。息子は、得意の平泳ぎしていた。

ホテルの人が来てくれて、ベッドの敷布団まで変えてくれた。クッキーがオシッコしないと寝れないと言うので、皆で散歩。なかなかしない。先に帰ってママと2人にするとしたという。うーむ不安定。帰ったら、お酒も入ってるし、旅疲れもあるし、皆早めに就寝。息子は自分のダブルベッドがあるけれど、やはりパパの所に来て寝る。ベタベタ旅行だ。

2015年12月5日土曜日

おまけ

プレーする方 終





どうもアップの際文字化けしてうまくいかず、間が空いた。

7回裏、中学時代野球部のルーキーがマウンドに上がった。ところが、コントロールが定まらず、あっという間にノーアウト満塁。

レフトの監督はここで代えようかと思ったが、とりあえず同点までは様子を見ることにする。すると、2者連続三振でツーアウトまで漕ぎ着ける。しかし、次の打者3ボール2ストライクから押し出しのフォアボール。

ここで交代。「厳しい〜!」とは本人の声だったが、あのコントロールでは任せておけない。マウンドに三たび私。前の回の好調が頭にあった。

ふと相手を見ると、ここから左打者。最初の打者に投げている時に疲労を感じる。でも、あと1人。打って右側のゆるいゴロ。これはセカンドゴロ、と通過させる。セカンド正面も、後逸・・、ついに勝ち越し点を与えてしまった。

誰にも言ってないが、ここは後悔したところだった。前日練習では、投手が取れそうな当たりも、後ろに逃がしていた。その方がバッターは気持ちいいし、守備も退屈しない。この時は、もちろん捕れなかったかも知れないが、素早く動くなり飛びつくなりすればなんとかなったかも、そうしたら同点で終わってたのに、といまでも思っている。

続くバッターは例の経験者。左打席に入る。疲労からコントロールが悪くなってくるが、インコースに外れ気味のボールを引っ掛けてくれまた右側への、今度はやや鋭いゴロ。これもセカンド、と思い一瞬走り出すのが遅れた。

1、2塁間に寄って守っていたファーストが捕ったが、ベースカバーおらず。ファーストセーフ。ここは練習不足としか言いようがない。ファーストの人は、セカンドに任すべきだったと言ってくれたが、好捕には変わりない。先のセカンドゴロエラーが微妙に影響した形となった。

こうなるともうダメで、ここまで無四球で、フォアボールのことなんか考えもしなかったのに、スリーボールになったところで緊張してしまい押し出し。上から叩く投法も限界。押し出しで1対4。交代。私が出したランナーじゃないから失点自責点ゼロだけど、後味悪すぎ。サウスポーさんがピーゴロに抑えチェンジ。あーあ、最初からサウスポーに代わっておけば良かった。

しかし8回表、我が軍は怒涛の反撃。先頭の2番が左中間へ大飛球。この試合両軍通じて唯一のツーベースで出塁。こいつは前日練習でもパンチ力あるな、と思っていた。ヘッドの重さを叩きつけるようなスイングをする。

3番はデッドボールでチャンス拡大、4番はショートゴロ。2塁フォースアウトでワンアウト1、3塁。5番サウスポーはファーストゴロ。この間に3塁ランナー返って2対4。さらにツーアウト2塁。6番草野球フリークはこの日3安打めとなるライト前ヒット!2塁ランナー返って3対4。しかし、ここでタイムアップとなった。残念ながら逆転負け。

トンボを全員でかけて、記念写真。芝生席で着替えて近くの中華屋さんへ。マネージャー合流。よくよく話を聞いてみると、ピッチャーは高校野球奈良大会ベスト16。キャッチャーの子は中学時代巨人の選手とバッテリーを組んでて、有名校から誘いがあり、高校終わりは社会人からも声をかけられたそうな。年配には秋大京都大会ベスト4で近畿大会出場の人もいて、よく接戦出来たもんだと思った。

でも打ち上げ含めて全部が、本当に楽しかった。またすぐにでもやりたいね。春目標で日々練習に励もう。翌日はマネージャーからマルチヒット賞をいただいたのでした。

年間たくさんの野球を観てるけど、実際にやってみると大変で、うまくいかなくて、じれったい。でも、やっぱり野球は素晴らしい。いやー気持ちいい時間だった。すぐにでもまたやりたいけど、春開催まで地道に自主トレだな。

2015年12月4日金曜日

11月書評の2




途中でずっと止まってるのも嫌なので、短い小説を中心にしたら、手を出しかねていた作家や作品を読み込むことが出来た。この路線はいいかと思う。今月末は恒例のランキングとグランプリ発表。自分でも楽しみだ。

島本理生「リトル・バイ・リトル」

普通過ぎる若者の、家族、出来事、そして恋。女子系が好きな読み手のココロにはなかなか響いた。

高校を卒業したばかりのふみは、母親と、父親違いの妹で小学生のユウちゃんと一緒に暮らしている。ある日首を痛めたふみは、母が勤める整骨院で、キックボクサーの周と出会う。

島本理生は、高校生で文壇に出て、この作品では史上最年少の20歳で野間文芸新人賞を受賞した。2003年の作品である。その後も芥川賞候補、直木賞候補にも名を連ねている。

たんたんと、波のない、静かな文章が進んで行き、ふみの微妙な心の動きが描かれる。シンプルで、普通で、だからリアル感を持って頭に入ってくる。みずみずしさも感じさせる。

惜しむらくは、たんたんとしているから余計、動いた時、終盤がやや強引に見えてしまうところだろうか。パンチも強いとは言えない。

若い現代的な小説を書くイメージだったので少々敬遠していたが、もっと読もうという気にさせる。筆致も変わるのかな、という印象だ。

千早茜「あやかし草子」

ブレイク前夜の千早茜。美しく妖しい、人外のものたちの話。いや好きな類で、意外性があった。

夜中に楼門で笛を吹く男の音色に魅了された鬼が、毎夜聴きに来るようになる。男の笛は、その音色で人を狂わせてしまうものだったが、鬼は笛の本当の力を解き放つほどの腕がまだ無いと看破し、ある日、美しいが人の心を持たない女を、男の元に連れてくる。(鬼の笛)

千早茜は「あとかた」「男ともだち」という恋愛系の作品が最近直木賞候補となっている。まだ寡作の作家さんで、初期はこのような幻想系の本を数冊出している。

私はけっこう日本の昔話、さらには鬼が出てくるような話が好きなので買ってみたが、ちょっとびっくりした。とてもきれいで文章が独特の雰囲気を持っている。さらには色彩豊かで、妖しさと切なさを上手に盛り上げる。

各話に出てくるあやかしの者は、鬼、ムジナ、天狗、龍、幽霊、座敷童と、おなじみの顔。ストーリーも、どこかで聞いた話だけれど、オリジナルに書き換え、シリアスかつ美しい印象を見事に出している。「鬼の笛」もいいが、「ムジナ和尚」「天つ姫」も良かったなあ。

恋愛ものは苦手で、やや敬遠していたが、読んでみようかな。この力が恋愛ものでどう変わるかに興味がある。デビュー作の「魚神(いおがみ)」も読みたい本の仲間入りだ。

ルイス・キャロル「鏡の国のアリス」

前回「不思議の国のアリス」を読んだ時、ハンプティダンプティが出てこなかったので、「鏡の国」も読もうと思っていた。

アリスが自宅の鏡から、鏡の国へと入っていき、次々に多くのものと話をしたり、赤と白の女王に悩まされたりという内容。

今回は、ベースにチェスがあり、アリスが最終ますまで辿り着いて女王になる、という目的はあるが、まあ中身は想像力の限りを尽くして相変わらずハチャメチャだ。

大工とせいうちとオイスターの話とか、もちろんハンプティダンプティとか、教科書に載っていた挿絵と久々に再会できて嬉しかった。

1871年に出版された作品で、日本では戦後間もなく和訳、1959年に本として出された。もともとイギリスでも、子供の物語といえば教訓的なものが多く、アリスは自由な発想で当時の風潮を打ち破ったもの。

まあ、たまに読むにはいい本かなと。

野村順一「色の秘密」

なんというか、どうも集中できない感じの本で、読み終わるまでに時間がかかった。

どんな好きな色で人をタイプ分けしたり、それぞれの色の基本的機能を述べたり、部屋の色、生活、食事、菓子、日本人が好む色、また社会にまで話は広がり、様々なものを網羅していて確かに勉強にはなる。

ただ、かなり細かいところまで断定している割には、どこまでが学術的根拠があるもので、どこからが個人的な見解か分からない。また、いくつかの考えにはこだわりも見られ、またか、とも思う。

これ、新装版だということだが、元は1994年の作品で、色彩学にトレンドはないのかしらとも思ってしまった。

ただまあ、なにかと参考にはなりそうだ。

小関順二「間違いだらけのセ・リーグ野球」

野球月の最後は、やはり野球の本で。プロ野球界の大きな流れを俯瞰し、なおかつ今の現象を鋭く分析してある。

ここ13年の日本シリーズはパ・リーグが10勝3敗で圧倒している。交流戦に至っては、リーグ全体の成績でパが負けたのは1回だけ。この差はどうしてついたのか?

今年のセ・リーグは一時全チームが負け越しに陥ったりして話題を提供、さらにペナントは超接戦となったが、どの球団も決め手がないという印象だった。巨人は打線がダメ、ヤクルトは打線はいいが投手陣がもうひとつ、阪神は打てない病、広島もマエケン、黒田、ジョンソンがいるが打てない病。こおりゃかなわん、スゲーなあ、というチームが一つも無かった。

最も打てたヤクルトが最終的に優勝、しかし日本シリーズではソフトバンクに、大方の予想通り、あっさりやられてしまった。

ドラフトではパ・リーグの育成型球団が優位を保つという状況ももはや顕著だ。

そのような現状を整理し、敢然と意見を述べている一冊。パ・リーグが敷いた現在の戦略をしのぐような新機軸を、今後私も楽しみにしている。

11月書評の1




だいぶ遅くなった。11月は10作品10冊。忙しい中よく読んだし、発見もあったから良かった。
今年もあとひと月か・・。

野村克也「野村ノート」

野球月に、たまたま見かけて購入。10年前の本だが、ふむふむと読んだ。

野村さんが阪神の監督に就任した頃、確かプリントアウトしたものをバインダーにはさんで選手に配った「野村の考へ」。今回の本は、その内容が骨子となっているという。

配球やバッターのタイプなど、これまでの野球関連の本より突っ込んだ形での野球論もあって、ふむふむ、と読み進めた。キャッチャーは独特のものの見方をする。また野村さんが深い経験と努力で得たものは、読んでいて没入してしまう部分がある。

いつも野球は勉強、だ。

桜木紫乃「ホテルローヤル」

田舎のラブホテルが舞台のオトナな短編集。昭和な香りが豊かだ。直木賞受賞作。

スーパーの事務員、美幸は、中学時代ノート同級生で有名なアイスホッケーの選手だった貴史と付き合っている。怪我で競技を断念した貴史は写真家を目指し、廃墟となっているラブホテルで、美幸のヌードを撮りたいと言い出す。(「シャッターチャンス」)

釧路湿原を見下ろすラブホテルを舞台に紡ぐ短編集。作者は釧路の出身で、家業がラブホテル経営だった時期もあり、手伝っていたという。

桜木紫乃は、初の本である短編集「氷平線」を読み、確かに直木賞を取っただけあって、何か惹き付けるものがある、と思った。昭和の匂いも、北海道の寂れ具合を絡めたエロも持ち味だ。描き方も巧みだ。

この本は読み進むにつれ時代が遡っていく。短編集らしく、各話に薄いつながりも見て取れる。

「氷平線」もそうだが、ちょっと昭和すぎるやろ、と思う部分もある。暗く貧しい現実に北海道独特の雰囲気が追い討ちをかける。でも昭和に生まれた自分が子供の頃は、いまとあまりにも違う社会があり、現代と違い、理屈ではすまない人間臭いものが確かにあった。それをボトムに感じさせるから評価されているのんじゃないかとも思う。

堀辰雄「風立ちぬ」

秋だから、読んでみた。先頃の映画の設定は全く違うが、着想は盛り込まれているそうだ。巻末のエッセイは宮下奈都。

「私」は恋人の節子の療養に付き添って、八ヶ岳山麓のサナトリウムにやって来た。2人はそこで、「少し風変わりな愛の生活」を過ごして行く。

耽美派か、と思ったが、表現にこだわりすぎることなく、さらりとしている。もちろん自然描写は大変美しいが、とつとつとした会話、なんとなく夏目漱石の「こころ」をも思わせる想いの正直な吐露など、ところどころ味を思わせる、絵画のような文章だ。

堀辰雄は実際に八ヶ岳山麓のサナトリウムで療養し、やはり肺を患っていた婚約者を亡くしている。

大仰な、直接的なものを示すわけではないが、全体として、穏やかな愛と死と生を見つめた、文学的な作品。心に残るものはあった。

リチャード・バック「かもめのジョナサン」
五木寛之訳

日本文学の次は、世界のロングセラーを。アメリカの本、って感じもしたな。

かもめのジョナサン・リヴィングストンは、食べることよりも、飛ぶことが好きでたまらないかもめだった。様々な飛行法を試し身に付けた彼はしかし群れから追放されてしまう。

1970年に発表された時は見向きもされなかった作品だったが、72年になって突然ベストセラーのトップに躍り出たという本。130ページくらいで、なおかつかもめが飛翔する写真に多くのページを割いている。作者はパイロット、飛行家だそうだ。

飛ぶことで追放されたジョナサンが仲間や師を得て、さらにそれを伝えていく流れだが、自由、がひとつの大きなテーマになっていて、人生哲学的な向きであり、話が面白い架空の設定であり、自由と神を感じさせるところが、アメリカ文学だな、と思わせる。

自由で伸びやかな、自然の中での飛翔は心の中に憧れと気持ち良さを生み出すし、考えさせるものもあるが、なんかどこか引っかかるような感じもあるな、と思ったな。

新田次郎「チンネの裁き」

復刊の山岳ミステリー小説。意外に読みやすい。山男たちの本懐。

北アルプスの剱岳で起きた落石で、次期ヒマラヤ遠征隊のリーダーを務めることになっていた登山家蛭川繁夫が命を落とす。現場近くにいた別パーティーの木塚健は落石事故に不審を抱き調べ始めるが、やがて蛭川と婚約していたという美貌の女流登山家・夏原千賀子が現れる。

昭和33年から34年に書かれた小説で、男女交際の部分は昭和な感じもあるが、現代でもおかしくないような感じでもある。チンネとは、山言葉で、巨大な岩壁を持つ尖塔状の岩峰のこと。3章立てで別々の事件が起きる連作となっている。すべての事件が山で起き山で結末を迎える、かなり本格的な山岳小説だ。

ジャンダルム、コルなど山用語も多数。雰囲気をうまく作っている。推理小説の向きとしては、江戸川乱歩の風味も臭った。動機がやや荒いような気もするが、いわゆるトリックもどんでん返しもあり、まずまずな読み物だ。

新田次郎は以前「アラスカ物語」が良かった。他の山岳小説も読んでみようかという気になった。

2015年11月29日日曜日

プレーする方♯3





5回表、先頭打者は6番の草野球フリーク。軟式ではよくある、力入って回転のかかった内野前フライだったが相手サードがワンバウンドをバンザイして出塁。続く7番は第1打席に続き力ないゴロ。しかしこれで1塁ランナーセカンドへ。

ここでバッター私。力の入った前打席を反省して、リラックス。投手は相変わらず、アウトコースに投げてくる。2球見送り2ボール。3球目、アウトコースストライクか、というボール。もう一度流してみよう、でバットを振ると、

「シュキーン!」

カクテル光線の中、センター右へライナーが飛んで行った。続いてベンチからの声が上がる。

「や、やった!」

この声を聴いて、1塁に走りながら、そういえばチャンスだったと思い直す。2塁ランナーが3塁を回ってホームへ。楽勝でセーフ、タイムリーだ!あっセンターは直接バックホームした、と2塁へダッシュ。しかし相手経験者のピッチャーがカット。1、2塁間に挟まれタッチアウト。がーっ。くそ。

でも、0-0で来ていた5回に均衡破れる。ついに先制!皆の「ナイスバッティング」の声がチョー気持ちいい。右方向狙いが上手くいった。タイムリー打って監督の責任を果たすことが出来た。

5回裏、相手は攻撃前に円陣を組んで声を出してきた。しかしこの回も0点に抑えた。試合が動いて、期待感と、これが本当の試合での緊張感。攻撃中は、自分には回ってこないし、1塁側からグラウンドに出てすぐの灰皿でタバコを一服。月がきれいだ。

6回裏は、サウスポーが「バテた」ということで、私が再びマウンドに。どうだかな、と思ったが無事ゼロに抑える。ひょっとして、このままいけるか?チームにもほの温かい自信が生まれている。

7回表、打席が回る。ワンアウトランナーなし。この回から左投手に。左なんて、対戦したのは少年野球に遡るんじゃないかなあ。どちらかというと得意だ。相手の外野は極端な前進守備で、「あれを越えてやる」という気持ちがあった。

1球目、ややアウトコース、思い切って振ったがファウルチップ。力入ってるなあ。ボール、ボールで次は真ん中、振ったら回転のかかった低いフライ。走ったが、誰も捕れず転がってファウル。うーん、やっぱ前打席のタイムリーでリキんじゃった?両ひざを内また気味に曲げリラックス、打席でつぶやく。「力を抜いて、ヘッドでボールを捉える感じ、内振り、クルッと回る。」5球目はインコース気味に入ってきた。力を抜いて・・

シュキーン!打球はライナーでややセンター寄りのレフト前へ。ジャストミート、気持ちいい〜。2塁行けるか、と思ったが、レフトの処理がよくあきらめる。マルチヒット、自然に定めた、というか私が押し付けた、マネージャー賞確定。

次のバッターはフォアボール、2塁へ進んでバッターは1番に置いたキャプテンのソフトボール女子。右投げ左打ち。前日練習ではミート力が素晴らしく、私の投げる球をパカパカ打ってたがこの日は勝手が違うのか音なし。

この子がこの日初めて打った。レフト線へ上がった当たり。「よっしゃ来たー!」私の脳裏には、相手が極端な前進守備、というのはどこかにあった。しかし常識的には明らかにヒット性、落ちれば回れる、という意識が先走り、飛び出してしまった。結果はレフトがキャッチ、戻れずアウト。観客席のおっさんから「罰金じゃコラ〜という野次が飛んだ。ちっ。

7回裏、私もこれ以上投げれず、中学野球部のルーキーと交代。私はレフト。ここから試合は大波にー。

プレーする方♯2




声出しは指名した女子のキャプテン。「しまっていこう!」監督の私は審判役で駆け出しまでやって「ケガしないように、楽しみましょう」礼で散る。我が方は先攻。

相手投手はかねてから聞いていた、高校野球投手経験者。なんか余裕で投げている。でももちろん手加減付き。2番がきれいに三遊間を破るヒット!しかしこの日不調の3、4番が返せず。

予告先発だった私がマウンドに上がる。そりゃあ若い頃はビュンビュン投げてたけど、たぶん10年以上ぶりのマウンド。届くだろうか。ここ数日は息子とキャッチボールをし、まっすぐ立って、足をキレイに上げて、左腕は壁を作り、右腕はたたんで身体の動きに連動させ、上から叩くように投げる、出来ればキャッチャーを突き抜けてバックネットに当たるイメージで、というのを旨にシャドーピッチングを重ねてきた。

やはり遠く感じる。しかし第1球は入った。おじぎボールだけど、フォームにブレがないからけっこういける。振りかぶるとぶれるから途中からノーワインドアップに。最初は三振!うそみたい。サードゴロエラーで出塁を許す。セットポジションで首を1塁方向へ振ると痛い素人。次のバッター。

カーン!鋭い当たりのショートゴロが二遊間に。しかし前日参戦を決めた草野球好きがここにいた。たぶん守備位置を変えていた。捕って、2塁ベースを踏んで、ファーストへ。アウト!なんとダブルプレー成立!めっちゃうそみたい。前日練習ではダブルプレーなんて永久にムリ〜とか言ってたのに。士気大いに上がる。

2回、6番ヒットで出塁、ワイルドピッチで2塁へ。7番の内野ゴロで3塁へ。バッター私。前日練習では、ボール気味の球はうまく当てられたが、ストライクゾーンはファウルだった。ここまでのバッティングセンターでもあんまり自信なし。アウトコースを右へ打とうとしたが、案の定力入って回転のかかったピッチャーゴロ。打点かと思ったけど、先頭の5番打者が倒れていたのでチェンジ。くっそ。

このウラから投手は経験者のサウスポーに交代。キャッチャー私。さすがにコントロールが良くてボールがおじぎしない。私はキャッチャーも若い頃はずいぶんやっていたが、なかなか反応できない。やっぱ怖いし。ワンバウンドみぞおちに入ってぐっとかなるし。ちなみにこの頃からキャッチャーそらしても走らない、というのが暗黙のルールになる。

三振と内野ゴロで三者凡退。「速い・・」という声も上がる。100キロくらいかな。ここから試合は膠着状態に。予想に反して0対0が続いた。相手の経験者も一発狙いだからかクリーンな当たりが出ない。

ふと観客席を見ると、子供が2人スタンドで遊んでいる。お母さんらしき人は試合を見ているようだ。バックネット裏やや1塁より高いところに陣取ったおっさんがたまに野次を飛ばしてくる。私は左手親指が痺れるように痛くなって、キャッチャーを代わってもらいファーストに入った。

ファースト守ってて守備機会はほぼゼロ。でもランナー出た時左投手がこちらを見ると、本当に投げそうな気がして、見るだけで牽制になる、というのもよくわかった。

さて、5回。我が方の攻撃ー。

2015年11月28日土曜日

プレーする方 ♯1




草野球。水曜日早朝練習、用具も借りてノックにバッティング、ベースランニングなんかもやったが、すぐに筋肉痛に。でも広々としたところで走るのはやっばり面白い。

朝めっちゃ早起きして、6時前の始発バス。私の家は山にあるので、真っ暗な中をバスがカーブを回ってくるヘッドライトを見ると、トトロの世界だなあ〜などと思ってしまう。でも、遊びの早起きはぜんぜん辛くない。さあ、あすはスタジアムで試合だ。

足はなんとかなるだろうけれど、肩をケアしないと。東京時代に隣のお兄ちゃんとキャッチボールをして、翌日肩甲骨がひどく痛み、整骨院で痛み止めの注射をしてもらったことあり、風呂でマッサージしてバンテリン塗って寝なければ。ここ数日は息子とキャッチボールしてたから多少は大丈夫だろうけど。

夜は雨でグラウンドコンディション心配。まあ当日は晴れ予報だし、だいじょぶでしょ。前に大学野球入ってるから、学生のトンボ掛けに期待。(笑)でも明日の夜遅くは寒波が入るから雪とか。えーっ?

さて迎えた当日朝。幸い右肩は問題なし。ただ軸足、右足太ももが痛い。って、家出ると、雨まだ降ってんじゃん!まあ止むでしょなんせ晴れ予報・・。

会社に着いても降っている、どころかザザ降り?こっちの心配はしてなかったー。球場では午前から大学の新人戦があり、整備して30分遅れで始めたようだ。まあこれでなんとか・・。

我が野球部には元名門サッカー部出身の女子がいるのだが、朝の会話で笑ってしまった。彼女はライトを守る予定だった。

「フィーゴ♪さん、雨降ってるやないですか〜。」
「学生野球やってるし、昼には止むでしょ。外野の芝は水が残るかも知れんけど。」

すると、予想外の返答が。

「自分は芝ならなんでもだいじょぶっす!」

さすがサッカー女子、さすが体育会系!

ソワソワしながら仕事をして、車手配で出発。上司が送ってくれ、さらに相手さんの分まで差し入れ買ってくれた。ホロリ。どでーんと聳える球場に着く。試合を終えた大学生が目につく。スタンドから覗くと、ファーストはちょっと泥っぽいが、他は大丈夫そう。球場さんに「やりますか?」と訊かれたので、当然やります!と答える。内野スタンド完備。やっぱスタジアムはいいなあー。

女子に更衣室を手配して、我々はベンチで着替え。スパイク履いて、ソックスはサッカーソックス、下は防寒ジャージ、上は野球のアンダーシャツに阪神の黄色ユニ、帽子は神宮で買って来た早稲田のWマーク帽子。「ちぐはぐ〜」とからかわれながらグラウンドに出る。夕焼けがライトの向こう、照明が点灯されて実にいい雰囲気だ。

ちょっと固めのケン・グリフィー型グラブでキャッチボール、黒土がいい感じ。やっぱこれだなあ、本日その1だ。最初はノック。昨日練習したから、だいぶサマになっていてびっくり。相手のノックを打ってるのは明らかに経験者だなと分かる。いよいよプレイボールー。

2015年11月23日月曜日

休休休




この3連休は全休み。この2ヶ月ほどの生活を考えると、なんて贅沢なんだと思う(笑)。

関西に戻ると寒くてびっくり。夜ももう薄い上着では冷える。

ママ車で迎えに来た息子の目が輝く。ワン2頭も飛びついて来る。帰りをこんなに喜んでくれるというのは嬉しいねえ。でもパパ業というのは毅然としていなければならない(笑)。アニメのラストを車で見るというので、1人で先に家に入ったが、迎えてくれたのは毎年の、雪だるまの風船だった。いつのまにか季節はクリスマスに向かっている。

初日は寝て寝て寝て、寝た。実際には午前遅くに起きて、シャワー浴びて、またベッドに引っ込んで、「ダイヤのA」読んでケイタイをいじったりして、昼ごはん食べてからは明治神宮野球大会の高校決勝を観ながらときどき落ちていた。いくら寝ても眠い。晩御飯はサンマ塩焼きにあさりの酒蒸し。息子は奥歯が抜けかかっていて、かなり痛いらしいが、好物のあさりは食べていた。

昼寝たので夜更かし気味で、千早茜「あやかし草子」読了する。鬼や天狗の話だが、きれいで独特の雰囲気を出し、なかなかだった。

朝はまたゆっくり。ママ髪チョキチョキで息子と軟球キャッチボールをする。少しずつ捕れるようにはなっているが、まだ怖いとか。広いところで思い切り投げさせたいなあ。捕るほうも広い方がやりやすいし。こちらも草野球を控え、フォーム固めと動きの確認。

家に入るときにカマキリ発見。ずっと山が近いところに住んでいるから珍しくないが、普段あまり家にいないだけに目が行く。そろそろ卵を産み付ける時期かな。

ケーキ食べて勉強させてワンコに餌をやってママ帰る。阪神のデパ地下弁当定食。息子と腹いっぱい食べて食べ過ぎて、2人とも苦しんだ。(笑)

人生ゲームをして、風呂入って寝る。この日も夜更かし気味。「鏡の国のアリス」ちょっと読んで、寝る。

翌日はまたゆっくり。ママは陶芸家のルーシー・リー展観に姫路へお出かけ。留守番。姫路城の近くだけに、息子一緒に行ったら、と促したが、家に居る、とか。

午前ぐうたらして、昼は2合ご飯を炊く。ラーメンか、パスタか、おう、インスタントカレーあるな、と言ったら息子がじゃあぼくカレー、と言ったからだ。

パパはラーメンライス、海苔に昨日晩御飯で余ったカラアゲを1個。息子はご飯いっぱい入れて、というので1合盛ってやったが、ペロリとたいらげたからちょっとびっくりした。

勉強させて、キャッチボール。ぼちぼちノーバウンドでも捕る。速い球までもう少し。

だんだんフォームも固まってきて、身体は痛いが、まずまず。明日からは運動出来ないから、シャドーを念入りにすること。

ママ帰って、ブリしゃぶ鍋と練り物で晩ご飯。まあ観たいもの楽しんで、ストレス解消するのはいいものだ。息子は土曜音楽会だったから火曜も休み。パパは明日休みじゃないのと甘えるが、パパは厳しいお仕事。もうすでにメール入ってるし。みんなよく働くよなあ。 

寝かしつけ完了。風呂入って、苦いコーヒー飲んで、「アリス」読んで寝よう。

2015年11月19日木曜日

忙秋終またスタート





東京8泊9日の仕事もようやく終了。今年はとこへ行っても雨にたたられる。毎年恒例だけど、今年は稀にみる気温の高い日々で、いつもダウンを着たりするのに、今回防寒着は1回も着なかった。

これで多忙の秋は全終了。やっと終わった。長かった。
 
しかし、年明けにかなり重い長い仕事を振られていて、すぐに準備となりそうだ。やれやれ。

本読みながら、取り掛かろう。ふー。

2015年11月8日日曜日

高知で豪雨。





今週は木曜日から高知出張。さすがは高知、日が射したら暑い。太平洋はきれい、穏やかな気分になれる、晩ごはんのカツオのたたきもカマも上手い。林ではキツツキがドラミングして、のどかな雰囲気を楽しんだのもつかの間、日曜日は豪雨。坂道に濁流のように雨水が流れ、危険を感じながら登る。

濁流をなんとか避けようとつかまったガードレールの白ペンキが剥げまくり、気がつくと手も薄い上着も真っ白に。あーあー。クリーニングして落ちるかなあ。傘差しててもずぶ濡れだし。

夕方仕事終わりのタイミングで天気ごっつ良くなり、青空が恨めしかったのでした。月曜返ってすぐ東京だ。

2015年11月1日日曜日

気分転換とは





写真は「火怨」この5年間、読んだ本を記録、作品数・冊数を数えてきたが、記念すべき500作品めとなった。よく読んだなあ、次は1000を目標に。

さて忙しい季節、ただでさえストレスがたまる。そんな時に、読者に没頭すると、楽な気持ちになるから不思議だ。

その昔、もう亡くなられた上司が「なにか一つでもいいから夢中になれる趣味を持っとけ。ストレスは気付かないうちに溜まっていく。いつ破裂するか分からんからな。」と言ってくれた。その言葉もひとつのきっかけとなり、私はたくさんの事を試した。映画もそう、芝居もそう、そしてある時ひとつの現象に突き当たった。

一時期少し本格的なスケッチをしてみた。陰影や細かい線、シワまでそっくりに描こうと、静物スケッチに集中した。気付くと、1時間半経っていた。すると、達成感もあったが、ストレスがきれいに消えていることに気がついた。

ストレス解消と言うと、運動、楽しい食事に酒、ショッピング、男女交際、などなどいかにもリラックス出来そうな方法が思い浮かぶ。これらの全部がストレス解消につながることは経験的にも間違いない。

しかし、「集中すること」も大事な、ストレスを脱出する方法だと思う。

私には読書があって良かったと、いま心から思っている。家庭を持つと独身に比べて制限があるし、忙しい時はゆっくり趣味に時間も割けない。手軽で、集中できる手段を持っていることが大きい。年季もそろそろ入ってきたから、有効に心をコントロール出来るし。

強さが大事。メソッドも大事。まだまだだいじょうぶ。

土曜日は10月5回目の東京。11月も含めて、秋の気候が良い時は旅から旅である。世はハロウィン。六本木にも行ったがたくさん着飾っている人々がいて、土曜日をより実感させた。東京はやたら寒かった。帰って来て、遅い電車に乗ったら、快速ぎゅうぎゅうだった。やはり大阪もハロウィンか?

帰って来て、風呂に入った後、ちょっとだけのびてるな、と思っていた足の指の爪、左中指の爪がポロリととれた。真ん中の方から少し出血している。痛い。バンドエイド貼って寝る。前回3泊4日の時も履いていったのだが、とかく革靴はずっと履いて歩いていると右足の小指を筆頭として足の指が痛くなる。今回はその影響だろう。

日曜日は、完全休。寝て寝て、午後は息子とキャッチボール。柔らかいボールは卒業、重い軟球を使う。いやーこれでこそ。柔らかいボールは軽くて加減が分からず投げにくい。キャッチもやはりこれくらいの重みがあればしやすい。それにしても、ようやくここまできたか。ワンバウンドで投げてやっていて、まだノーバウンドのキャッチは怖いと言ってた。まあこれから。

夜は久々に焼肉。たまには食べとかないとね。パワーが出ない。

もうすぐ、ぐっと寒くなる秋が来る。冬の入り口だ。

10月書評の2





ハロウィンナイトの東京タワー。六本木ヒルズの広場は、どちらかというと家族用のような感じで、夜は寂しげだが、渋谷は仮装の若者たちが集結してえらいことになってたらしい。

もうここまでくると年末の読書大賞が見えたりする。毎年表紙賞を選んでるが、まあこれから考える。昨年の大賞、朝井まかて「恋歌」が文庫で出て、これが装丁もいいので、保存用に買おうかなと思っている。あの作品のように、異質で色のある光を感じる作品に出会いたい。

大賞作って、今回が5回目。来年はグランプリ作品を読み直すかな。

◆上橋菜穂子「虚空の旅人」

今回、バルサは出てこない。でもストレートで面白かった。

新ヨゴ皇国の皇太子で、かつてバルサに命を助けられたチャグムは、星読み博士のシュガとともに、南のサンガル王国を訪問する。しかし島々を勢力圏に持つサンガル王国に対し、深い陰謀が進められていた。

このようなシリーズものは、あまり裏表紙のストーリーを読まずに中身を読み始める。あまり予断を持ちたくないからだが、まさかバルサが出てこないとは思わなかった。しかしたくましく成長したチャグムと、南国サンガルの若き王族、海と船、そして戦、陰謀、権謀術数と読み始めたらかなり引き込まれた。

あとがきにも書いてあるが、最初の巻「精霊の守り人」が新ヨゴ皇国、次の「闇の守り人」が北のカンバル王国と舞台は変わっていったが、ここまではひとつの独立した物語だった。

でもこの先は、異世界をまたにかける壮大な物語が新たに始まるようで、楽しみだ。

◆熊谷達也「相克の森」

今年100作品めなので、好きな作家の本を。現代劇で理屈も多いが、独特の生々しさと底流に流れる東北の、強く男臭いものはやはり好みである。

タウン誌のライター兼編集長である美佐子は、マタギの親睦会で「今の時代、熊を食べる必要はないのではないか」という疑問を口にし、不興を買う。しかし、自身の変転もあり、マタギたちをライターとして追っていくうちに、気持ちが動いていく。

直木賞受賞作である「邂逅の森」、第一次大戦後の樺太などを舞台にした「氷結の森」とともに「マタギ三部作」と呼ばれる、その最初の作品である。「邂逅の森」の主人公は美佐子の曾祖父ということになっていて、両方読んでいる身には、ほう、となる。

熊との共生、なぜマタギたちは熊を獲るのか、というテーマと真っ向から向かい合い、様々な活動や意見、法律も紹介してある。若い理屈が多いきらいはあるものの、現代人の目線から熊狩りを見ている。

私は「邂逅の森」を読んで以来、熊谷達也のその荒々しさ、生々しさ、迫力が気に入っている。今回はまあ、三部作入門編、という感じだった。


◆高橋克彦「火怨〜北の耀星アテルイ」(2)

蝦夷の英雄を巡るスケールが大きい物語。テレビドラマ化もされ、アテルイは舞台でも演じられている。大作で、読むのに時間がかかった。

780年、朝廷に帰順していた蝦夷の伊治公鮮麻呂(これはるのきみあざまろ)が、朝廷側要人を殺し、反旗を翻した。朝廷側の進軍が予想される中、陸奥(みちのく)の蝦夷は若きリーダー阿弖流為(アテルイ)のもと結束し対抗策を練る。

高橋克彦は「写楽殺人事件」という浮世絵ミステリーで江戸川乱歩賞を受賞し、ホラー「緋い記憶」で直木賞を取り、さらにこの作品やNHK大河ドラマになった「炎立つ」など時代劇も手掛けている岩手出身の作家さんで、私はけっこう好きである。熊谷達也もそうだが、やはりみちのくへの想いが感じられる。

物語には、18歳で蝦夷のリーダーとなったアテルイを中心に、戦友たちとの、知恵をこらした戦、蝦夷の位置付け、そして智将にして征夷大将軍、坂上田村麻呂との関係性など、豊穣な内容が詰まっている。戦闘シーンの迫力も抜群で蝦夷が勝つところはスカッとする。こだわりも大いに感じられる。

ドラマチックで綺麗すぎるか、と思う部分もある。あと史実に関して、巻末の解説は学者さんにして欲しかった、という不満はある。が、やはり名作だろう。古代&北方が好きな私は長い間読みたいと思っていたし、一種本懐を遂げた気持ちだ。

高橋克彦は東北が舞台の時代ものも多いらしいし、蝦夷の戦いについては熊谷達也の著作もあるのでまた読んでみようかと思う。

◆長野まゆみ「鳩の栖」

ふうん、もひとつ読んでみたくなる、少年が主人公の短編集。

父親が転勤族の操は、転入した学校で、 樺島というクラスメイトに声を掛けられる。小声で内気な自分に優しく接してくれる樺島に、操は初めて友人を得た気になるが、ある日樺島は学校へ来なくなってしまう。(鳩の栖)

私はよくやることなのだが、先日「感動する本」で検索したサイトを見ていたところ、長野まゆみの「天然理科少年」というのが紹介してあって興味を持った。書店を探しても置いてなく、ブックオフでたまたま見かけたこの本を買ってきた。

言葉遣いが現代的でなく、難しい漢字も多く、昭和期の文学を思い起こさせる。ご本人のあとがきで、主人公はいずれも中学生(ひとつだけ高校生)で、騒がしい思いに駆られがちな少年たちの、静かな部分を描いてみようとした作品群、とある。確かに少年の内気さにスポットを当てた穏やかで味のあるストーリーが多い。

話の成り行きと構成に仕組んだ感があって、パターンづいている印象があるが、ハッとさせられる新鮮さもあったりする。オールドファッションな筆致も心地よい。「天然理科少年」がますます読んでみたくなった。

10月書評の1





10月は9作品11冊。本格ものと、旅ものやエッセイ、新規の作家さんら、バランスが良かったと思う。読みたかった作品が3つも読めて嬉しい月でもあった。ではレッツスタート!


村上春樹「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」

面白いという人が多くて、楽しみに初読み。確かに、ハルキの魅力が詰まっていると言っても差し支えあるまい。

高い壁に囲まれ、外界との接触がまるでない街でそこに住む一角獣たちの頭骨から夢を読んで暮らす"僕"の物語「世界の終り」。老科学者により意識の核にある思考回路を組み込まれた"私"がその回路に隠された秘密を巡って活躍する「ハードボイルド・ワンダーランド」交互に描かれる2つの世界のストーリー。

もう、自分の言葉でまとめるのが面倒だったから、上のあらすじは上巻の裏表紙に書いてあるのをほぼそのまんま書き写した。

2つの世界の、壮大なSF的構成力が素晴らしい。音楽、本、酒、ライフスタイル、舞台など、小粋でハードボイルド。色彩をも意識している。いつものように知的な女が絡み、不敵な会話を展開する。また「やみくろ」など語感を大事にしたのか、何かの暗喩なのか、すべて不明な登場物、小道具的登場人物などいかにも的なハルキワールドである。

闇と光をかなり意識していて息苦しくなる部分もある。

何というか、やはりこれはハルキにしか書けない。ハルキと他の国内の作家とは大きな隔たりがあると、読む人が思い込んでも仕方ないくらいである。

個人的には、ラストに至る道がやや強引で、結論が出やすいようでいて難しいな、と思った。

最後にひとつ。比喩、いわゆる直喩の素晴らしさもまたハルキであるが、ラストに近いところに気に入ったものが有ったので引用して終わりにする。レストランの場面。

「ウェイターがやってきて宮廷の専属接骨医が皇太子の脱臼をなおすときのような格好でうやうやしくワインの栓を抜き、グラスに注いでくれた」

湯本香樹実「岸辺の旅」

芸術映画っぽい話。この作家の、新たな面を見た感じだ。

実際に映画化され、カンヌ「ある視点部門」で監督賞を受賞している。今月からの公開だからと急いで読んだ。深津絵里、浅野忠信主演である。

瑞希(みずき)がしらたまを作っていると、3年前に失踪したはずの夫・優介が台所に立っていた。優介は「自分の身体は、海の底で、蟹に食われてしまった。」といい、瑞希を長い旅に連れ出す。

湯本香樹実(かずみ)という作家は、この春にベストセラーの少年もの「夏の庭」を読んだ。可愛らしい話だし、その後児童文学も書いたようなので、このような、大人芸術っぽい物語というのはイメージ外だった。

突飛な設定を取ることで、互いに理解し合えて無かった部分を表現し、厚く哀しく埋めていく、長い夫婦の旅。恋人や求めている人の幽霊を出す、というのは昔から良くあるが、今回は、ナイーブなストーリーをゆっくりたんたんと追って行くための手段に思える。

直接的な表現が少なく、人や自然、そして心象的なものをキーワードを用いながら表し続く旅。私はかつて単館系の映画をずいぶん観たが、いかにも好かれそうな内容と展開だ。ラストも小粋だと思う。変化球も混ぜているがここもまた映画っぽいな、と思ってしまう。

たんたんとし過ぎているのが欠点といえばそうか?終わる前に観に行こう。

梨木香歩「渡りの足跡」

ネイチャリング・エッセイ集。カメラマンや冒険家の記録とはまた違った味。

梨木香歩の小説には、動植物がやたらと詳しく出てくる。北海道で鳥の渡りを観察したり、開拓民の暮らしから、戦時中の日系人の想いにまで触れる一冊。

私は北の自然もの、アラスカ・シベリアものが好きで、星野道夫や野田知佑、椎名誠の本を読んできたが、そのほとんどが、自然と、その土地であったことの克明な記録っぽいものだった。この作品は、けっこう話があちこちに飛ぶし、表現はやはり小説家のそれで、あたたかい土地の人との触れ合いも独特の筆致で記してある。

特に渡りに関しては、今回梨木香歩の感じているロマンが分かるような気がする。小鳥でも、気の遠くなるほどの距離を飛び続けて渡りをする。関連の本も読みたくなる。

また、作中にたびたび登場する「デルスー・ウザーラ」も面白く読み、いまだに書庫にとってある。

やはりネイチャー系に詳しい人は、行動派。意外な一面を楽しく読ませてもらった。

麻耶雄嵩「隻眼の少女」

うーーーん、しっくりこないかなあ。推理小説界の評価、そのトレンドを知るような気もするな。勉強の一環という事で。

自殺のために山奥の温泉場に逗留していた静馬は伝説のある「龍ノ淵」で牛若丸が来ていたような装束の少女・みかげと出会う。その二日後、村の守り神・スガル様を継ぐ事が決まっていた琴折(ことさき)家の少女が惨殺される。

日本推理作家協会賞、本格ミステリ大賞ダブル受賞。友人からこの作家の別作品の話を聞き探していたところたまたまブックオフで見つけて買った一冊。

さて、村のしきたり、生き神様のような存在はまあ日本ミステリ界の伝統だ。軽くてビジュアル重視の少女探偵も今後の展開かなと許容、最初の派手派手しく残虐な連続殺人事件も、新本格のような感じで、そうすべきだった理由があるんだろなと期待させる。

しかしながら推理の展開はあまり面白くなく、全然謎が解かれてないし、そもそも犯人の次のターゲットは明らかなのに、何でこんなに警戒が緩いのよ、と思ったりする。

で、後段の謎解きとなるのだが、ひと言で言えば、身も蓋もなかった。うーむ、
 
第一部の舞台の組み立てから、数多い旧家の登場人物の書き分け、探偵の突飛さ、ワトスン役の背景、最後の種明かしで全てが繋がるように見えるところなど、工夫はたくさん、現在のミステリー界で称賛される部分はあるのだろう。

でも私の好みでなかったことは確かだな。

下川裕治「世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア横断2万キロ」

旅ものはたまに読む気になる。楽しく読めるが、いつも「私には絶対ムリー!」と思う。

ユーラシア大陸東の果て、シベリアのソヴィエツカヤ・ガヴァニ駅から、ヨーロッパ最西端のポルトガルはカスカイス駅まで、できるだけ列車だけで移動しようという旅。サハリンからシベリアに渡り、遅くて停車時間も長い列車に乗ってウラジオストクまで5日間かけて辿りつくのだが、この間は飛行機で行けば1時間。列車というものはすたれつつある、という事もボトムに匂わせる紀行文だ。

ロシア、中国、中央アジア、と移動は続くのだが、乗客が少ないために路線区に車両ごと放置されたり、1本前の列車が爆破テロに遭い、ロシアから目の前のアゼルバイジャンに入国できなくなってしまったり、覚悟のビザ切れオーバーステイで売春宿に隠れ滞在したりと様々なトラブル続きの旅。

作者は列車だけでなく、様々な手段でアジア他の地域を旅する旅行作家で、以前来た時の印象との違い、シベリア、中国、中央アジアとロシアなどの国情の変化も書いてあって興味深い。

やっぱり読んでおくもので、バッグパッカーすら自分にはムリだな。