12月は調子よく、20日間で10冊読めちゃいました。ここで打ち止め。次回は年間ランキングを発表する予定です。 毎月次月の月初めに前月の書評を載せてるけど、1年で師走だけは特別。先に月刊書評で後で年間。早めの月刊書評になるから、毎年の年末読書は来年分に回ってるのです。
さてさて、12月は善かれ悪しかれ、バラエティ豊かで充実したラインアップでした。
長野まゆみ「少年アリス」
うーん、やられてしまった。幻想的な、少年達の学校ファンタジー。
アリスは、兄の色鉛筆を取りに行くという友人の蜜蜂と、その飼い犬の耳丸とともに夜の学校に忍び込む。理科室で行われていた不思議な授業を覗き見たアリスは1人、授業をしていた教師に捕らえられてしまう。
長野まゆみは、この作品で河出書房の文藝賞を受賞し注目された。1989年、作者30歳の時の作品。10代の女性を中心に熱狂的な支持を得てロングセラーとなった、と説明にある。
やたら難しいあて漢字を使い、植物や自然などの描写を織り込むのだが、それが雰囲気を作り上げ、独特のワールドを作っている。明らかに想像上の生物もあるのだが、それさえも世界観に貢献している。
今回はいつもの少年ものの、夜の学校ファンタジー。様々なものの表現は素晴らしい冴えを見せ、ストーリーも面白く、狭いがベースとなる人間関係もしっかりと構築している。
解説がこれまた高次元でサッパリわけ分からないのだが、ここはその中から引用して終わりにしよう。
「幻想作家としての長野まゆみは、事物の変容のために必須の媒体としての水や大気の「曖昧」な気配を醸し出す力量に並はずれたものを持っている。」
いやーハマっちゃいそうだ。次もきっと読むだろう。
いかりや長介「だめだこりゃ」
たまにこんな出会いがある。だから、本屋通いはやめられない。
いかりや長介がその半生を振り返った一冊。生い立ちから、ミュージシャン時代の話、ドリフターズで活動し始めたこと、もちろん、「8時だョ!全員集合」のこと、荒井注の脱退と志村けんの台頭、「全員集合」が終わってからのこと・・などなど、戦後のテレビ史とも言える内容が詰まっている。
かなり真面目な内容だし、謙遜が目立つ。自分の内面についても分析している。だいぶ前に谷啓の自伝を読んだが、この時代はみな、「風のように駆け抜けた」という感じがする。
「全員集合」は、皆が同じものを見ていたテレビ全盛時代の代表的な番組で、毎週楽しみにしていた。スター歌手もたくさん出ていた。志村のギャグも懐かしい。長さんの「おいっす!」、加藤茶の「歯みがけよ〜」はもはやノスタルジーだ。志村以外の全員の芸名をクレージーキャッツのハナ肇が酔っ払ってつけたという話が面白かった。
ブックオフで、100円コーナーを丹念に見ていた時に見つけた本。ちょっと前は100円コーナーなんて、茶色に変色してるわ、カバーはボロボロだわで手が出なかったが、最近は、数があるものや売れないものはきれいでもどんどん移すから、よく見ている。そして探してて見つけたのではない、偶然の出会いの一冊。
とても楽しんで読めた。
柚木麻子「ナイルパーチの女子会」
うーむ。頭で考え過ぎたような感じ。直木賞候補作、山本周五郎賞。
一流商社の美人キャリアウーマン、30歳の栄利子は、愛読していた手抜き主婦ブログの執筆者、翔子と偶然出会い、意気投合する。しかし、栄利子は数日ブログの更新が無いだけで、過剰に心配し、ついに極端な行動に出るー。
柚月麻子は女子高生のドロドロした感情を描いた「終点のあの子」で注目され、また別の明るいタッチで書いた「ランチのアッコちゃん」がヒットした。この「ナイルパーチ」も含め、3つがすでに直木賞候補作となっている。
私はアッコちゃんの明るさと、生き生きとした東京の描写も好きだったが、「あの子」風味の作品もまた読みたい、と思ってきた。
今回は、そちらベースの話ではあった。しかし、いろんな要素も、過激さも、性描写も、気合いが入っているのだけはよく伝わってきたが・・部分的にも、全体的にも、ちょっといただけなかったな。等身大の翔子には好感を持たないでもなかったが、それだけだった。
中島要「藍の糸 着物始末暦」
着物の始末屋余一が活躍するシリーズ2作め。だいぶ江戸ものっぽくなってきた。
余一をよく思わない大店の若旦那・綾太郎は、許婚が居ながら、余一に恋い焦がれる一膳飯屋の娘・お糸にちょっかいを出そうとする。その話を聞きつけた余一は憤然として綾太郎のところへやって来る。(藍の糸)
最初の作品はなんとなく粗い感じで、登場人物がどのような絡みを見せて、どういったストーリーを作っていくのかよく分からなかったが、今回はそれぞれのキャラに躍動感が出て、江戸人情ものらしい感じになってきた。
着物、布とそれにまつわる話が芯で、今回は人情話とともになにやらミステリーめく。すらすら読めるようにはなった。
まだ違和感を感じるのは、解決が早くてあっさりしているように見えること。通常江戸ものは、もう一悶着ふた展開あって団円、ということが多いが、ちと薄さも感じた。でも次の巻でようやく見えてきた人間関係がどう変化していくのか楽しみだ。
山井教雄「続 まんが パレスチナ問題」
名著の続編。ますます混迷するパレスチナ情勢。たまたま本屋で見つけて即買いだった。
最初の巻は、10年前に発売され、六本木の本屋で買って読んだ。なぜ、パレスチナ問題というのは起きたのか、というかなり歴史的なところから紐解いてあって、とても分かりやすく面白く、何回も読み直した。
タイトルのごとく、まんがを混じえ、昨今のパレスチナ、イスラエル、中東世界全体の情勢を紹介している。今回は、9.11同時多発テロ以降の出来事に沿い、ヒズボラ、オバマの登場、ブッシュが始めたイラク戦争とアフガニスタン戦争のその後、アラブの春、そしてイスラム国の登場と、言葉は知っていてもつぶさには理解していない事柄を紐解いている。
ほのぼのとする絵柄だけでなく、現地の風刺画や漫画を掲載してあって、また権力者のデフォルメも絶妙だ。文字の説明も多くあり、感覚的にもなじみやすい。
前巻に比べれば、歴史が少なく現状を多く解説しているので、ちょっと理屈が多いようなきらいもあるし、断定しているところは複眼的な見方もあるだろうな、とは思うけど、たぶん近いうちに、前巻とこの本を通読して見るだろう。
年末までの読む本はだいたい決まっていたが、こういうのが飛び込んでくるのも面白い。
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