だいぶ遅くなった。11月は10作品10冊。忙しい中よく読んだし、発見もあったから良かった。
今年もあとひと月か・・。
野村克也「野村ノート」
野球月に、たまたま見かけて購入。10年前の本だが、ふむふむと読んだ。
野村さんが阪神の監督に就任した頃、確かプリントアウトしたものをバインダーにはさんで選手に配った「野村の考へ」。今回の本は、その内容が骨子となっているという。
配球やバッターのタイプなど、これまでの野球関連の本より突っ込んだ形での野球論もあって、ふむふむ、と読み進めた。キャッチャーは独特のものの見方をする。また野村さんが深い経験と努力で得たものは、読んでいて没入してしまう部分がある。
いつも野球は勉強、だ。
桜木紫乃「ホテルローヤル」
田舎のラブホテルが舞台のオトナな短編集。昭和な香りが豊かだ。直木賞受賞作。
スーパーの事務員、美幸は、中学時代ノート同級生で有名なアイスホッケーの選手だった貴史と付き合っている。怪我で競技を断念した貴史は写真家を目指し、廃墟となっているラブホテルで、美幸のヌードを撮りたいと言い出す。(「シャッターチャンス」)
釧路湿原を見下ろすラブホテルを舞台に紡ぐ短編集。作者は釧路の出身で、家業がラブホテル経営だった時期もあり、手伝っていたという。
桜木紫乃は、初の本である短編集「氷平線」を読み、確かに直木賞を取っただけあって、何か惹き付けるものがある、と思った。昭和の匂いも、北海道の寂れ具合を絡めたエロも持ち味だ。描き方も巧みだ。
この本は読み進むにつれ時代が遡っていく。短編集らしく、各話に薄いつながりも見て取れる。
「氷平線」もそうだが、ちょっと昭和すぎるやろ、と思う部分もある。暗く貧しい現実に北海道独特の雰囲気が追い討ちをかける。でも昭和に生まれた自分が子供の頃は、いまとあまりにも違う社会があり、現代と違い、理屈ではすまない人間臭いものが確かにあった。それをボトムに感じさせるから評価されているのんじゃないかとも思う。
堀辰雄「風立ちぬ」
秋だから、読んでみた。先頃の映画の設定は全く違うが、着想は盛り込まれているそうだ。巻末のエッセイは宮下奈都。
「私」は恋人の節子の療養に付き添って、八ヶ岳山麓のサナトリウムにやって来た。2人はそこで、「少し風変わりな愛の生活」を過ごして行く。
耽美派か、と思ったが、表現にこだわりすぎることなく、さらりとしている。もちろん自然描写は大変美しいが、とつとつとした会話、なんとなく夏目漱石の「こころ」をも思わせる想いの正直な吐露など、ところどころ味を思わせる、絵画のような文章だ。
堀辰雄は実際に八ヶ岳山麓のサナトリウムで療養し、やはり肺を患っていた婚約者を亡くしている。
大仰な、直接的なものを示すわけではないが、全体として、穏やかな愛と死と生を見つめた、文学的な作品。心に残るものはあった。
リチャード・バック「かもめのジョナサン」
五木寛之訳
日本文学の次は、世界のロングセラーを。アメリカの本、って感じもしたな。
かもめのジョナサン・リヴィングストンは、食べることよりも、飛ぶことが好きでたまらないかもめだった。様々な飛行法を試し身に付けた彼はしかし群れから追放されてしまう。
1970年に発表された時は見向きもされなかった作品だったが、72年になって突然ベストセラーのトップに躍り出たという本。130ページくらいで、なおかつかもめが飛翔する写真に多くのページを割いている。作者はパイロット、飛行家だそうだ。
飛ぶことで追放されたジョナサンが仲間や師を得て、さらにそれを伝えていく流れだが、自由、がひとつの大きなテーマになっていて、人生哲学的な向きであり、話が面白い架空の設定であり、自由と神を感じさせるところが、アメリカ文学だな、と思わせる。
自由で伸びやかな、自然の中での飛翔は心の中に憧れと気持ち良さを生み出すし、考えさせるものもあるが、なんかどこか引っかかるような感じもあるな、と思ったな。
新田次郎「チンネの裁き」
復刊の山岳ミステリー小説。意外に読みやすい。山男たちの本懐。
北アルプスの剱岳で起きた落石で、次期ヒマラヤ遠征隊のリーダーを務めることになっていた登山家蛭川繁夫が命を落とす。現場近くにいた別パーティーの木塚健は落石事故に不審を抱き調べ始めるが、やがて蛭川と婚約していたという美貌の女流登山家・夏原千賀子が現れる。
昭和33年から34年に書かれた小説で、男女交際の部分は昭和な感じもあるが、現代でもおかしくないような感じでもある。チンネとは、山言葉で、巨大な岩壁を持つ尖塔状の岩峰のこと。3章立てで別々の事件が起きる連作となっている。すべての事件が山で起き山で結末を迎える、かなり本格的な山岳小説だ。
ジャンダルム、コルなど山用語も多数。雰囲気をうまく作っている。推理小説の向きとしては、江戸川乱歩の風味も臭った。動機がやや荒いような気もするが、いわゆるトリックもどんでん返しもあり、まずまずな読み物だ。
新田次郎は以前「アラスカ物語」が良かった。他の山岳小説も読んでみようかという気になった。
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