2015年12月4日金曜日

11月書評の2




途中でずっと止まってるのも嫌なので、短い小説を中心にしたら、手を出しかねていた作家や作品を読み込むことが出来た。この路線はいいかと思う。今月末は恒例のランキングとグランプリ発表。自分でも楽しみだ。

島本理生「リトル・バイ・リトル」

普通過ぎる若者の、家族、出来事、そして恋。女子系が好きな読み手のココロにはなかなか響いた。

高校を卒業したばかりのふみは、母親と、父親違いの妹で小学生のユウちゃんと一緒に暮らしている。ある日首を痛めたふみは、母が勤める整骨院で、キックボクサーの周と出会う。

島本理生は、高校生で文壇に出て、この作品では史上最年少の20歳で野間文芸新人賞を受賞した。2003年の作品である。その後も芥川賞候補、直木賞候補にも名を連ねている。

たんたんと、波のない、静かな文章が進んで行き、ふみの微妙な心の動きが描かれる。シンプルで、普通で、だからリアル感を持って頭に入ってくる。みずみずしさも感じさせる。

惜しむらくは、たんたんとしているから余計、動いた時、終盤がやや強引に見えてしまうところだろうか。パンチも強いとは言えない。

若い現代的な小説を書くイメージだったので少々敬遠していたが、もっと読もうという気にさせる。筆致も変わるのかな、という印象だ。

千早茜「あやかし草子」

ブレイク前夜の千早茜。美しく妖しい、人外のものたちの話。いや好きな類で、意外性があった。

夜中に楼門で笛を吹く男の音色に魅了された鬼が、毎夜聴きに来るようになる。男の笛は、その音色で人を狂わせてしまうものだったが、鬼は笛の本当の力を解き放つほどの腕がまだ無いと看破し、ある日、美しいが人の心を持たない女を、男の元に連れてくる。(鬼の笛)

千早茜は「あとかた」「男ともだち」という恋愛系の作品が最近直木賞候補となっている。まだ寡作の作家さんで、初期はこのような幻想系の本を数冊出している。

私はけっこう日本の昔話、さらには鬼が出てくるような話が好きなので買ってみたが、ちょっとびっくりした。とてもきれいで文章が独特の雰囲気を持っている。さらには色彩豊かで、妖しさと切なさを上手に盛り上げる。

各話に出てくるあやかしの者は、鬼、ムジナ、天狗、龍、幽霊、座敷童と、おなじみの顔。ストーリーも、どこかで聞いた話だけれど、オリジナルに書き換え、シリアスかつ美しい印象を見事に出している。「鬼の笛」もいいが、「ムジナ和尚」「天つ姫」も良かったなあ。

恋愛ものは苦手で、やや敬遠していたが、読んでみようかな。この力が恋愛ものでどう変わるかに興味がある。デビュー作の「魚神(いおがみ)」も読みたい本の仲間入りだ。

ルイス・キャロル「鏡の国のアリス」

前回「不思議の国のアリス」を読んだ時、ハンプティダンプティが出てこなかったので、「鏡の国」も読もうと思っていた。

アリスが自宅の鏡から、鏡の国へと入っていき、次々に多くのものと話をしたり、赤と白の女王に悩まされたりという内容。

今回は、ベースにチェスがあり、アリスが最終ますまで辿り着いて女王になる、という目的はあるが、まあ中身は想像力の限りを尽くして相変わらずハチャメチャだ。

大工とせいうちとオイスターの話とか、もちろんハンプティダンプティとか、教科書に載っていた挿絵と久々に再会できて嬉しかった。

1871年に出版された作品で、日本では戦後間もなく和訳、1959年に本として出された。もともとイギリスでも、子供の物語といえば教訓的なものが多く、アリスは自由な発想で当時の風潮を打ち破ったもの。

まあ、たまに読むにはいい本かなと。

野村順一「色の秘密」

なんというか、どうも集中できない感じの本で、読み終わるまでに時間がかかった。

どんな好きな色で人をタイプ分けしたり、それぞれの色の基本的機能を述べたり、部屋の色、生活、食事、菓子、日本人が好む色、また社会にまで話は広がり、様々なものを網羅していて確かに勉強にはなる。

ただ、かなり細かいところまで断定している割には、どこまでが学術的根拠があるもので、どこからが個人的な見解か分からない。また、いくつかの考えにはこだわりも見られ、またか、とも思う。

これ、新装版だということだが、元は1994年の作品で、色彩学にトレンドはないのかしらとも思ってしまった。

ただまあ、なにかと参考にはなりそうだ。

小関順二「間違いだらけのセ・リーグ野球」

野球月の最後は、やはり野球の本で。プロ野球界の大きな流れを俯瞰し、なおかつ今の現象を鋭く分析してある。

ここ13年の日本シリーズはパ・リーグが10勝3敗で圧倒している。交流戦に至っては、リーグ全体の成績でパが負けたのは1回だけ。この差はどうしてついたのか?

今年のセ・リーグは一時全チームが負け越しに陥ったりして話題を提供、さらにペナントは超接戦となったが、どの球団も決め手がないという印象だった。巨人は打線がダメ、ヤクルトは打線はいいが投手陣がもうひとつ、阪神は打てない病、広島もマエケン、黒田、ジョンソンがいるが打てない病。こおりゃかなわん、スゲーなあ、というチームが一つも無かった。

最も打てたヤクルトが最終的に優勝、しかし日本シリーズではソフトバンクに、大方の予想通り、あっさりやられてしまった。

ドラフトではパ・リーグの育成型球団が優位を保つという状況ももはや顕著だ。

そのような現状を整理し、敢然と意見を述べている一冊。パ・リーグが敷いた現在の戦略をしのぐような新機軸を、今後私も楽しみにしている。

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