2015年12月23日水曜日

12月書評の2




ブログに書評を載せ始めてからもうだいぶ経つ。4年くらいかな。合わせて500作品ほどのものを書いてきたわけだ。

年末だからつい、そんなことも思ってしまう。まだまだ、読むし書くばい。


原田マハ「旅屋おかえり」

2回じわっと泣かされた。原田マハって変わった人だな。芝居がかりすぎてるように感じるけど、なぜか持って行かれる。

元アイドルのタレント、丘えりかは唯一レギュラー出演していた旅番組が打ち切りに。所属の零細事務所も窮地に追い込まれる。そんな折、地下鉄での忘れ物がきっかけで、「代わりに旅をして欲しい」という依頼が舞い込む。

偶然があったり、舞台が出来すぎてたり、まるでコメディのテレビドラマだな、と最初は鼻白んだ。

でも、1つめの旅でじわっ、最後の旅でぐっと来た。なんというか、出来すぎているからストレートな主題が伝わるんだろうか、と思い直した。

原田マハは、「楽園のカンヴァス」でこれはと思ったが、やはりドラマ仕立てのストーリー展開のきらいも感じた。「総理の夫」は、まあマンガか、というくらいの派手な発想と展開だった。

舞台設定や展開が都合よすぎると、どこか薄くなる場合が多い、と思っている。しかし、小説である限り完全なリアリティは有り得ない。フィクションであるなら読者を連れて行く土台はキレイな方がいいかもしれない。またそこに気を割きすぎるのは本当に書きたいことへ行く道のりを阻害するのかもしれないな、などと珍しく考えちゃったりした。

やっぱも少し落ち着いた方が好みだけれど、原田マハがある種の「調和力」を持っているのは確かなようだ。

川端康成「伊豆の踊り子」

日本の名作世界のノーベル賞。この時代のこのような話は確かに世界でも注目を引くかも。

旧制一高の学生である二十歳の「私」は、伊豆旅行中に旅芸人の一行と出逢って懇意になり、わけても天真爛漫な十四歳の踊り子・薫に心惹かれる。

温泉場、学生、旅芸人と、美しい少女。日本の前近代の風情を描きながら、なんというか、ストレートに少女性を浮き立たせる。直接的な短編で、鮮烈なイメージ。なるほど、という感じだ。

余計な説明があまり無く、予備知識無く読み始めた身には学生の背景や少女の今後に大いに想像力を膨らませた。後で、実は作家本人の実体験だったと知った。そうなると評価もまた変わってくるのだろうが、やはり純粋に小説として見たいと思う。

直接的で、刺激的でもあり、読者に考えさせ、大いに余韻を感じる。短編のある意味頂点のような作品だ。

角田光代「紙の月」

映画にもなった話題作。読むのはさらさら進み、沖縄出張行き帰りで完読。

タイのバンコクで人に紛れる梅澤梨花。普通の主婦だった梨花は、勤めていた銀行から1億円もの金を横領して逃亡していた。

共働きの主婦の転落の軌跡を描いた物語。味付けとして、梨花ほどではないが、さまざまな理由から浪費癖が爆発する女子たちも登場している。

角田光代は「八日目の蝉」、直木賞「対岸の彼女」など名作がいくつかあり、そもそも求めるものが高いというのもあるが、この作品は、もうひとつかな。

今回センセーショナルに売り出した感があるし、刺激的には違いない。しかし転落の成り行きにあまり斬新さは感じられず、私には合わないな、という感想だった。

関口尚「プリズムの夏」

高校生の少年たちの物語。たまにこういうのを読むと清々しい心持ちになる。小説すばる新人賞受賞作。

高校3年生のぼく・植野は、友達の今井の家へ通っている。2人の興味はいま、鄙びた映画館の切符売場で出逢った、美しいがひどく愛想のない女性・松下さんに向いていて、彼女に会うため、映画館に何度か通い詰めていた。

今井の抱える事情や、少年らしい青い会話、突っ走るエネルギー、サスペンスフルな要素などなどが詰まった、初々しい作品。どこかで聞いたような話が形を変えたバージョンのような気もする。

設定の都合良さやパターン付いた風景の表現、ラストのあっさりし過ぎさなんかが気になったりするものの、それなりに楽しんで読んだ。少年たちのほとばしるエネルギーを読むのは楽しい。やっぱ夏なのかなあ、高校生ものって。

関口尚は「空をつかむまで」というのが書評サイトに書かれていて興味を持った。この作品が賞をとってデビューしたというので、まずは世に認められた作品が読みたくなった。

ミニな作品だが、山も谷もある。まずまず。

伊東潤「巨鯨の海」

鯨漁で栄えた和歌山・太地。生々しく迫力あるその漁と、鯨組の中で生きる人々に起きる、様々なドラマを描く短編集。

太地の鯨組で、銛を扱う一船のリーダー、刃刺(はざし)。その補助を務める音松は、自分の船の、腕のいい刃刺・仁吉に憧れていた。かつていじめられている時に流れ者の仁吉に救ってもらったのだが、ある日仁吉のもとを訪ねた音松は、その過去を知ることになる。(旅刃刺の仁吉)

男っぽく骨っぽい作品。全短編に共通するのは、大掛かりにしてシステマチック、そして死と隣り合わせのクジラ漁の光景描写である。そして、厳しいが、人情味もある、独立国家のような仕組みを作った太地鯨組を詳しく扱っていて、とても興味深いく心惹かれる。

漁が最盛期を誇った江戸時代中期から、明治維新後の話まで、流れも作られている。個人的には、セミクジラ、マッコウクジラ、ナガスクジラなどそれぞれの鯨の生態と特徴、それにより漁がどのような影響を受けるか、という部分も面白かった。

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