ハロウィンナイトの東京タワー。六本木ヒルズの広場は、どちらかというと家族用のような感じで、夜は寂しげだが、渋谷は仮装の若者たちが集結してえらいことになってたらしい。
もうここまでくると年末の読書大賞が見えたりする。毎年表紙賞を選んでるが、まあこれから考える。昨年の大賞、朝井まかて「恋歌」が文庫で出て、これが装丁もいいので、保存用に買おうかなと思っている。あの作品のように、異質で色のある光を感じる作品に出会いたい。
大賞作って、今回が5回目。来年はグランプリ作品を読み直すかな。
◆上橋菜穂子「虚空の旅人」
今回、バルサは出てこない。でもストレートで面白かった。
新ヨゴ皇国の皇太子で、かつてバルサに命を助けられたチャグムは、星読み博士のシュガとともに、南のサンガル王国を訪問する。しかし島々を勢力圏に持つサンガル王国に対し、深い陰謀が進められていた。
このようなシリーズものは、あまり裏表紙のストーリーを読まずに中身を読み始める。あまり予断を持ちたくないからだが、まさかバルサが出てこないとは思わなかった。しかしたくましく成長したチャグムと、南国サンガルの若き王族、海と船、そして戦、陰謀、権謀術数と読み始めたらかなり引き込まれた。
あとがきにも書いてあるが、最初の巻「精霊の守り人」が新ヨゴ皇国、次の「闇の守り人」が北のカンバル王国と舞台は変わっていったが、ここまではひとつの独立した物語だった。
でもこの先は、異世界をまたにかける壮大な物語が新たに始まるようで、楽しみだ。
◆熊谷達也「相克の森」
今年100作品めなので、好きな作家の本を。現代劇で理屈も多いが、独特の生々しさと底流に流れる東北の、強く男臭いものはやはり好みである。
タウン誌のライター兼編集長である美佐子は、マタギの親睦会で「今の時代、熊を食べる必要はないのではないか」という疑問を口にし、不興を買う。しかし、自身の変転もあり、マタギたちをライターとして追っていくうちに、気持ちが動いていく。
直木賞受賞作である「邂逅の森」、第一次大戦後の樺太などを舞台にした「氷結の森」とともに「マタギ三部作」と呼ばれる、その最初の作品である。「邂逅の森」の主人公は美佐子の曾祖父ということになっていて、両方読んでいる身には、ほう、となる。
熊との共生、なぜマタギたちは熊を獲るのか、というテーマと真っ向から向かい合い、様々な活動や意見、法律も紹介してある。若い理屈が多いきらいはあるものの、現代人の目線から熊狩りを見ている。
私は「邂逅の森」を読んで以来、熊谷達也のその荒々しさ、生々しさ、迫力が気に入っている。今回はまあ、三部作入門編、という感じだった。
◆高橋克彦「火怨〜北の耀星アテルイ」(2)
蝦夷の英雄を巡るスケールが大きい物語。テレビドラマ化もされ、アテルイは舞台でも演じられている。大作で、読むのに時間がかかった。
780年、朝廷に帰順していた蝦夷の伊治公鮮麻呂(これはるのきみあざまろ)が、朝廷側要人を殺し、反旗を翻した。朝廷側の進軍が予想される中、陸奥(みちのく)の蝦夷は若きリーダー阿弖流為(アテルイ)のもと結束し対抗策を練る。
高橋克彦は「写楽殺人事件」という浮世絵ミステリーで江戸川乱歩賞を受賞し、ホラー「緋い記憶」で直木賞を取り、さらにこの作品やNHK大河ドラマになった「炎立つ」など時代劇も手掛けている岩手出身の作家さんで、私はけっこう好きである。熊谷達也もそうだが、やはりみちのくへの想いが感じられる。
物語には、18歳で蝦夷のリーダーとなったアテルイを中心に、戦友たちとの、知恵をこらした戦、蝦夷の位置付け、そして智将にして征夷大将軍、坂上田村麻呂との関係性など、豊穣な内容が詰まっている。戦闘シーンの迫力も抜群で蝦夷が勝つところはスカッとする。こだわりも大いに感じられる。
ドラマチックで綺麗すぎるか、と思う部分もある。あと史実に関して、巻末の解説は学者さんにして欲しかった、という不満はある。が、やはり名作だろう。古代&北方が好きな私は長い間読みたいと思っていたし、一種本懐を遂げた気持ちだ。
高橋克彦は東北が舞台の時代ものも多いらしいし、蝦夷の戦いについては熊谷達也の著作もあるのでまた読んでみようかと思う。
◆長野まゆみ「鳩の栖」
ふうん、もひとつ読んでみたくなる、少年が主人公の短編集。
父親が転勤族の操は、転入した学校で、 樺島というクラスメイトに声を掛けられる。小声で内気な自分に優しく接してくれる樺島に、操は初めて友人を得た気になるが、ある日樺島は学校へ来なくなってしまう。(鳩の栖)
私はよくやることなのだが、先日「感動する本」で検索したサイトを見ていたところ、長野まゆみの「天然理科少年」というのが紹介してあって興味を持った。書店を探しても置いてなく、ブックオフでたまたま見かけたこの本を買ってきた。
言葉遣いが現代的でなく、難しい漢字も多く、昭和期の文学を思い起こさせる。ご本人のあとがきで、主人公はいずれも中学生(ひとつだけ高校生)で、騒がしい思いに駆られがちな少年たちの、静かな部分を描いてみようとした作品群、とある。確かに少年の内気さにスポットを当てた穏やかで味のあるストーリーが多い。
話の成り行きと構成に仕組んだ感があって、パターンづいている印象があるが、ハッとさせられる新鮮さもあったりする。オールドファッションな筆致も心地よい。「天然理科少年」がますます読んでみたくなった。
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