2025年3月14日金曜日

3月書評の5

秋芳白糸の滝と日本名水百選の弁天池。水汲み場でポリタンクに汲んでる人いました。

◼️彬子女王「赤と青のガウン」

古琴之友、いい言葉を教えられた。皇族史上初、海外の大学課程での博士号を得た留学のエッセイ。

赤と青のガウンはイギリスのオックスフォード大学で博士課程を得た学生が学位授与式で着るガウンのことだとか。読んでみようかなと思った理由は実はブックカバーで、なじみの古書店さんで買った紺と紅、スピンも同じ赤でやや厚手、品のいいもの、が今作をイメージしたと教えられ、それならこのブックカバーで読んでみたいと思った。

留学ものエッセイはいくつも読んだかと思う。ロシアとドイツ。奈倉有里「夕暮れに夜明けの歌を:文学を探しにロシアに行く」や青木奈緒「ハリネズミの道」が記憶に残っている。留学はお国柄やその国の若者の顔も見え、日本人の当惑いと没入の感覚がなかなか楽しいと思っている。

今回はシャーロック・ホームズが通ったかもしれない名門・オックスフォード、しかも女性皇族というなかなか読めないもの。

日本美術史を専攻する彬子女王はオックスフォード大学マートン校へ1年間の聴講生留学の後、2回めで博士課程に進む。英語もおぼつかない中での論文また論文執筆、議論の日々。さらに指導教授は大学いち厳しいと言われるマートン校のジェシカ・ローソン学長、通称JRの指導、寮生活、食事、多くの指導教授、友人、交友とそのバイタリティーとパワーは清々しい。

皇族には側衛官という護衛がつくが、ヨーロッパでは当地への送り迎えだけということで、彬子女王は人生初めて独りで街を歩いたり、旅行を経験。宮家での生活やしきたりにも触れられており興味深い。

古い古い歴史を持つ大学街のオックスフォード、やはり直近のイメージはハリー・ポッターのホグワーツ。環境や過ごし方、ルールなどもおもしろい。ただ学究の道の険しさには驚くばかり。大学とは、勉強だけをしに行くところ、とでもいうような課題の毎日に恐れ入る。

その厳しい環境のさなかで培った得難い友人知人たちとの関係が素晴らしく、著者の力のある、ユーモアに富んだ文章からは、彼ら彼女らへの楽しさと、感謝が溢れてくる。

各章の扉の裏、書き出す前のページに例えば「一期一会」のような言葉と解説がついている。そこに「古琴之友」、自分をよく理解してくれる友人のこと、というのがあった。彬子女王は気さくで多才、その魅力と人懐こさを発揮してたくさんの古琴之友を得ているようだ。まさにこの本を象徴しているように思えてならない。

私も最近帰省して、大学の同窓生、古琴之友と会って、そこでしか触れることのできない懐かしい感覚に浸ってきたところ。

やっぱり留学ものは、おもしろい。著者の文章力にも聡明さがにじみ出る。紺と紅、やはり品よく荘厳さを感じる彩り。ブックカバーから始まり気持ちよく読了した。

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