◼️Authur Conan Doyle
"The Adventure of Shoscombe Old Place"
「ショスコム荘」
ホームズ短編原文チャレンジ49作め。あと7つ。積み重なったなと。
第5短編集"The Case-Book of Sherlock Holmes"「シャーロック・ホームズの事件簿」より。1927年4月に掲載された、ドイル最後のホームズものだそうです。
最も晩年の一篇。まあ正直に申し上げるとなんだかな〜という結末にはなってます。前置きが長くなりますが、いかにプチシャーロッキアンといえども短編全部の成り行きを記憶しているわけではなく、実際私はこの物語、たしか馬が出てきたな・・というくらいで詳細を覚えていませんでした。
さて、飛ばしていきます。
"By the way, Watson, you know something of racing?"
"I ought to. I pay for it with about half my wound pension."
「ところでワトスン、君は競馬には詳しいかい?」
「だと思うよ。傷痍軍人の年金の半分ほどを注ぎ込んでいるからね」
ワトスンは、読者の多くがイメージしているように謹厳、実直、忍耐強い(ホームズに振り回されたりからかわれても耐え、気遣いをする)、執筆力がある、勇気がある、などのほか、三大陸で多くの女性を見てきたと豪語するなど女性に敏感で優しい、戦場体験により少々むさ苦しい生活でも耐えられる、ずぼら、などの特徴があります。この言葉も投機やギャンブルに関心がある、という一面を表していて、シャーロッキアンものの本などでよく取り上げられます。
ではサー・ローバート・ノーバートンという人物は知ってるかい?とホームズが問うと、ワトスンはすらすらと答えます。
サーは准男爵、しかし荒っぽい、危険な男で向こう見ずな騎手、ボクサーにしてスポーツ万能、多くの女性と浮き名を流したこともある独身。馬用のムチで高利貸しを打ち殺しかけたこともあるとか。ショスコム・オールド・プレイスという屋敷に住んでいて、厩舎と育成施設を持っているが現在は困窮している。
ホームズの質問には理由がありました。サー・ロバート厩舎の調教師、メイソンから相談の手紙が来ていたのです。
サー・ロバートには未亡人の妹レディ・ビアトリスがいて、屋敷一帯は亡くなった夫のものであり、一代限りの不動産地代で暮らしているとのこと。2人は同居していて、弟サー・ロバートは妹の収入に頼りっきりで、食い物にしているであろうこと。ビアトリス未亡人は高血統のショスコム・スパニエルを飼っていることなどがホームズの口から語られます。
ほどなくメイスンが現れました。背が高く髭を剃り上げ、多くの部下を統率している風格がありました。
"First of all, Mr. Holmes, I think that my employer, Sir Robert, has gone mad."
「何よりもまず、ホームズさん、私の雇い主、サー・ロバートは頭がおかしくなったのだと思います」
メイスンによればサー・ロバートは次のダービーでなんとしても勝つ必要がある、借金で首が回らない。厩舎にはショスコム・プリンスという素晴らしい馬がいる。彼はその馬での一発逆転を狙っている。ずる賢いサー・ロバートはショスコム・プリンスの異母兄弟でそっくりな馬を出走させてオッズを下げている。
はっきりとは文章に書いてませんが、ショスコム・プリンスにそっくりだけども遅い馬をショスコム・プリンスだと偽ってレースに出し、わざと負けさせた結果、次のダービーでのショスコム・プリンスの掛け率は下がっている、つまりその状態で本物のショスコム・プリンスを走らせて勝てば、ダークホース、穴馬が勝ったことになり、賭けていたサー・ロバートには大金が転がり込む、ということみたいですね。そうでなければ破滅ということです。
さらに重ねてメイソンが言い募ることには、彼は目つきが異常でレディ・ビアトリスへのふるまいがひどい、と。
2人はかつては仲の良い兄妹で、はビアトリスも馬を愛し、馬車で彼女が厩舎に行き馬に角砂糖をあげたりしていた。馬もよく懐いていた。しかし最近はめっきり興味を失い素通りになった。兄妹に諍いがあったようで、なんとサー・ロバートはそしてビアトリス自慢のショスコム・スパニエルを3マイル離れたところで"Green Dragon"という宿屋をやっているバーンズ老人にやってしまった。
犬・・「バスカヴィル家の犬」といい、この話と同じく競走馬の物語である「名馬シルヴァー・ブレイズ」でポイントとなった犬といい、はたまた「四つの署名」「スリー・クウォーターの失踪」の臭いで追跡する警察犬のような犬といい、犬はドイルにとってキー・アイテムともいえる存在に思えます。
メイソンが言うには、レディ・ビアトリスは水腫を患っていた。かつて兄は妹の部屋に行って長い時間過ごしていたがいまはそれもなく、気に病んだ妹は浴びるように酒を呑んでいる。
ビアトリスには何年も仕えているメイドがいる。このメイドはどうやら伊達男のサー・ロバートと・・らしい。
"But then, again, what is master doing down at the old church crypt at night? And who is the man that meets him there?"
「しかし、その上、私の主人は夜中に古い教会の納骨堂なんかで夜中に何をしてるのでしょうか。そこで会っているのは誰なんでしょう?」
だんだん話がおもしろくなってきたと、ホームズは両手を擦り合わせ、先を促します。
主人が出て行くのを見たメイスンは、執事とともに後を追った。敷地に崩れかけた礼拝堂があってそこに地下納骨堂がある。そこへ入っていっている。チャンスがあり、サー・ロバートに気づかれないようにして会っていた男を見たが、黄色っぽい顔をした知らないやつだった。
執事と昼間に納骨堂に行ってみたら、そこにあった千年くらい前のものと思われるミイラ化した頭部と骨の一部があった。以前にはなかった。サー・ロバートは棺から遺体を取り出していると思われる。
メイソンはさらに、持参した黒焦げの骨のかけらを見せました。ビアトリスの部屋の下にある地下室に、屋敷全体の暖房のための炉があり、そこの灰をかきだしていた使用人が見つけたものだと。暖房炉は長く使われていなかったが最近サー・ロバートが寒いと言い出して火を入れることになったとのこと。ワトスンは一見して人間の大腿骨の一部だと判断します。
さて!ホームズとワトスンは自然豊かでいい釣り場もあるというショスコム荘の近く、サー・ロバートがレディ・ビアトリスのスパニエルをやったというバーンズ老人の「Green Dragon」へと釣り客を装って出かけます。
宿で釣りの話をしているとバーンズ老人が話に加わってきました。
ホール湖でカワカマスは釣れるかな?というホームズの問いに対して、そりゃ釣れるけど、近くにあるサー・ロバートの庭園に近づくと湖に放り込まれかねないよ、予想屋を極端に警戒してるから、と警告されます。
翌日、仲良くなったバーンズ老人にスパニエルと一緒に散歩する許しを得て、いざショスコム荘。庭園の門のところにやってきました。バーンズ老人によれば、レディ・ビアトリスは正午ごろ馬車でここから出る、と。
ホームズはワトスンに、門番が開門するときは馬車は速度を落とすから、門から出たところで御者に何か尋ねて、馬車をいったん停めるよう頼み、自らは茂みに隠れます。やがて亜麻色の髪の化粧の濃い若い女性と、顔から肩までショールを被った身体の弱そうな年寄りを乗せた馬車が来ました。
手筈通りワトスンが馬車を停めた瞬間、ホームズはスパニエル犬を放しましたー。
With a joyous cry it dashed forward to the carriage and sprang upon the step. Then in a moment its eager greeting changed to furious rage, and it snapped at the black skirt above it.
スパニエル犬は嬉しそうに吠えて馬車へ駆け寄り、ステップに跳び上がった。もとの主人に嬉しさいっぱいで擦り寄ろうとした犬は、しかしたちまち激しい怒りを示して、目の前の黒いスカートに噛み付いた。
早く出せ!耳障りな声がして馬車は走り去りました。声はショールに包まれた男性のものでしたー。
午後は本当に釣りをして2人は自分たちの夕食となるトラウト、鱒ですね、を釣り上げました。夕食後、訪ねてきたメイソン氏と落ち会い、いよいよ納骨堂へと向かいます。
半分崩れかけた納骨堂の地下室に、ホームズのランタンの光の帯が走ります。王冠やグリフィンの紋章、飾りの古い、ふるい棺が多くありました。メイソンが見たと言うミイラの骨は・・なくなっていました。メイソンは驚きましたがホームズには想定内だったようで、例の炉で、灰になってるでしょう、と。
メイソンはまもなくサー・ロバートが帰ってくるため厩舎へ帰りました。ホームズはこの納骨堂、墓場を入念に調査、入り口近くに立てかけてある棺を調べていた時、
I heard his little cry of satisfaction
ワトスンはホームズが小さく満足そうな叫び声を上げるのを聞きます。
目的の棺を見つけたのでした。慎重にふたをこじ開け、中身が見えるかという時ー
上を誰かが歩いている音がして、やがて巨大な身体、荒々しい態度、ランタンの光が口ひげの濃いたくましい顔と怒りのこもった目を照らし出しました。すぐに轟くような声が。
"Who the devil are you?"
"And what are you doing upon my property?"
「お前らは誰だ?わしの土地で何をしとるんだ?」
重そうなステッキを振り上げ、にじり寄るサー・ロバート。しかしホームズはひるみません。
"I also have a question to ask you, Sir Robert,"
"Who is this? And what is it doing here?"
「私もうかがいたいことがありますよ、サー・ロバート。これは誰ですか?そしてこの方はここでどうさせられてるんですかね?」
いかめしい声で言うと、ホームズはくだんの棺のふたを引き剥がしました。中には頭から足まで布に包まれた死体があり、恐ろしい魔女のような崩れかけた顔と淀んで動かない目。
なぜ知ってるんだ、お前に何の関係があるんだ、というサー・ロバートの態度。ホームズは名乗り、法を守ること、それが自分の仕事で、あなたにら釈明することがたくさんあると思える、と言うと、疑わしいことは認めるが、やましいことは何もしていない、屋敷で話そう、とサー・ロバートも折れます。
サー・ロバートは夫婦だという男女を連れていました。あの、馬車に乗っていた若い女性と、こそこそした態度のネズミのような顔をした小男。説明されてないらしく、女性は何をなさっているのか本当に分かってます?と突っかかり、男は、すべての責任を完全に拒否する、と吐き捨てます。
サー・ロバートは渋い顔をしながら説明します。1週間前、患っていた水腫で妹が死んでしまった。自分は生活費を妹の地代に頼り切りで、死んでしまったら収入はなく、高利貸したちが押しかけて厩舎もなにも差し押さえてしまうだろうから、事実を隠し、ダービーまで、そこにいるメイドの夫に妹のふりをしてもらうことにした。彼は役者をやっていたことがある。
妹の遺体は地下納骨堂に運び、棺のひとつを空けてそこに入れた。中に入っていたミイラは炉で燃やした。はるか昔から祖先が眠る納骨堂だから死者への冒涜ではないと思った、と。
ちょっと都合よいふうに聞こえたものの、事実を警察に知らせることで手を引いたホームズ。
結局のところ、遺体の取り扱いは当局からはやんわりと咎められたに過ぎなかった。借金取りたちはダービーまで待つことにしたようで、サー・ロバートは最大の賭けに勝ち、見事に借金を完済したというのが結末です。
うーん、イギリス国内で人気の競馬の話題に、幽霊地下堂と、不気味な効果はついているため興味はひかれますが、結局は大いなる茶番で終わってます。そもそも別馬を走らせてオッズ下げるなんてしていいのか、とモヤモヤするし、英文と訳を読んでいても、描写が読み取れなかったりして、すっきりしない感じですね。
ただ、ネタを分かって後でストーリーを遡るとかなり明瞭に奇妙な動きの理由が分かる話ではありますね。
以上ドイル最後のホームズ物語、幕ということで・・。
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