2024年2月12日月曜日

2月書評の4

細い三日月と金星。まもなく宵の明星の時期は過ぎる。日に日に夜は短くなって季節とともに星空も変わる。今週あったかいのかな。


◼️ 誉田哲也「武士道ジェネレーション」

読みたかった続編。笑って泣いて惹きこまれ感動。剣道ものはいいな。名作エンタメです。

ここのところ、ショパンのピアノ協奏曲2番にハマっている。リストによれば作曲者がパリで好んで弾いていたという第2楽章はこよなく美しい。

この本の主人公の1人が、中学生剣士に熱くストレートに武士の道を説く場面を読んでる時、2番2楽章の最も好きなフレーズ、天使のはしご、雲のすきまから漏れ降りそそぐ薄明光線を身に浴びているかのような、さらに巨匠アルトゥール・ルービンシュタインの演奏だったもんだからジーンとするのが増幅した。

さて、「武士道ジェネレーション」は人気を博した「武士道シックスティーン」シリーズの、月日を置いた続編。力の猛進剣道で強さを誇っていた武人のような剣士・磯山香織が、ある大会で日本舞踊の素養がある乙女な剣道部員・西荻早苗に負けてしまう。以降、同じ高校の剣道部員となり、また早苗の転校で敵となり、切磋琢磨しながら過ごしていく2人の姿を「武士道セブンティーン」「武士道エイティーン」と3作品に描いている。

水と油のような、猛獣と水鳥のような香織と早苗。概ね交互のモノローグで話が進んでいく。特に単刀直入な香織パートがおもしろい。「ジウ」のようなハードなバイオレンスものを書く誉田哲也が「決まってるんだもん」とかいう言葉使いの早苗のセリフを書いているというのもなかなかオモロカシイ。

今回、2人は大学を卒業、香織は就職せず桐谷道場で剣道を教えて暮らし、早苗は母校の事務職を得て、さらに桐谷道場の師範格、全日本選手権3位の沢谷充也と結婚して道場近くに新居を構える。

道場主の桐谷玄明が高齢となり閉鎖を切り出す中、充也は香織に、桐谷の秘技を教えようと激しい特訓を始める。充也の友人で元アメリカ軍海兵隊員、剣道経験も長いジェフが入門してきたり、門下の中学生がいじめに遭ったり、香織のライバル黒岩伶那が押しかけたりと道場にはさまざまな出来事が訪れる。剣道家としての自分に向き合う香織は道場の後継者となれるのか・・?

私の読書師匠は大学の体育会系剣道部出身。自分が知っている剣道の世界に最も近いと薦められた藤沢周「武曲」も抜群に良かった。剣道は荒々しく、まっすぐで、礼儀正しく、技も心得も深い。そこに快い、えもいわれぬ魅力を感じてしまう。

武士道シックスティーンシリーズは2人の少女と取り巻く人々をすがすがしくテンポ良く描く佳作、剣の道が大きな魅力を添えている。

今作は高校生当時の2人の関係性そのままが小気味よく、またそれぞれの成長が感じ取れて、シリーズを読んだものには嬉しくなるような作品。特に香織の、武道家として、人間としての進歩。なんというか、生来持っている強さへの向き合い方が道場でさらに育まれたような潔さを醸し出す。

もちろん充也から香織への門外不出、秘密の技を始め、多くの表現で描写する剣の道は磨き抜かれた鏡に映るような少しレトロで、深く清新な感慨を催させる。

いじめられている中学生・悠太を強くしようと特訓を施す香織、緊張と暴力的な匂いさえ漂う試合、クライマックスで悠太を抱きしめながら伝える言葉、エピソードの作り方、場面の噛み合いもすばらしく、冒頭述べたように感動した。

高校の、香織と早苗の軌跡が甦る。楽しかった読書を思い出す流れ、そして完結。ああ終わってしまった。もっと読みたいけど、もうないだろうな。

「武士道シックスティーン」は香織を成海璃子、早苗を北乃きいで映画化されたものをテレビで観た。完結したいま、いや2015年に出たこの本をようやく読了したいま、シックスティーンからこのジェネレーションまで、全部映画化してくんないかな、なんて思ってしまう。全部キャストを変えたりしたらおもしろそうだ。

ショパンのピアノ曲はアンビバレント、美しさや明るさと憂い、当惑いが同居している。いまの気分は楽しかった、早くも懐かしいって気持ちと、ちょっと祝祭が終わった寂しさを両方感じてるってとこかな。

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